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研修開発の考え方②~マインドは教えられるものか?

Q:―――マインドや価値観といったものは果たして“教え”られるのか?

知識や技能であれば、
それは他者が“教える”(教授したり、伝授したりする)ことができます。

しかし、一人一人の内面の底に横たわるマインドや価値観は個性であって
多様でよいものです。そこに唯一無二の正解値はありません。
したがって、それを“教える”ことはできません。

私は、自らが行う研修を、
 「マインドを醸成する」
 「意識を鍛える」
 「普遍的な倫理観を涵養する」
 「互いの想いを啓発する」
 「心持ちを強化する」
 「腹を据えさせる」   などの表現で説明しています。

個々の第3層に焦点を当てる研修においは、何かを“教える”というのではなく、
何かを“気づかせる”というものです。

私が研修の中で受講の皆さんによく言うのは、
私が短い研修時間の中でせいぜいできることは、“酵母菌を撒く”ことである
ということです。
つまり、酒や醤油の醸造において、
みずから熱を発し、質的変化をしていくのは主原料である米や大豆です。
しかし、その醸造変化のためには、“酵母菌”という触媒がなくてはならない。

ですから、私はその酵母菌となるような思考の材料、思索のヒント、行動の刺激を
講義やワークの中に収めてプログラム化するよう努めています。




Q:―――例えば、どんな“酵母菌”があるのか?

ここでは3つの“酵母菌”的なプログラム材料を紹介しましょう。

◆1:比喩(メタファー)で考えさせる
「働くこととは何か」「仕事をつくりだすこととは何か」
「キャリアをひらくとはどんなことか」……
こうした曖昧模糊とした問いに対して
「あ、そうか、そういうことだったのか!」と腹にどしんと落ちてくる答えを
みずから得るためには、比喩による思考材料を与えることが有効です。

例えば、「自立」と「自律」の違いを、あなたの会社の社員はどう理解しているでしょうか?
(一般的にはそもそも、両者を一緒くたにとらえているほうが多いです)

私は、これを「航海」という比喩で説明しています。
すなわち、「キャリア・人生は航海」であって、

 - 「自立」とは; 航海に耐えうる「船」を造ること
 - 「自律」とは; ぶれない「羅針盤」を持つこと
  さらには、
 - 「自導」とは; 地図を持ち、そこに目的地を描くこと


―――こういった比喩を使うことで、受講者の理解はすとんと進みます。

そして、ここから、
「自立」を高めるとは、第1層、第2層の手駒を増やして船を大きく堅固にすること。
「自律」を高めるとは、第3層を強く醸成して、どんな状況・情報に接しても
一定の判断(物事の是非、善悪、優先順位をつける)ができるようになること。
「自導」を高めるとは、志向軸を明確にして、そこからの逆算で
いまやるべきことを創造し、組み立てていくこと。
―――といったように、次はその比喩を現実の仕事・キャリアにつなげ、
明日からの行動を考えやすいように誘っていきます。


◆2:古今東西の名言・箴言を紹介する
先ほど私は、
「一人一人の内面の底に横たわるマインドや価値観は個性であって、多様でよい。
そこに唯一無二の正解値はない」と言いました。
しかしだからといって、野放図に勝手気ままに何でもやれという導きは誤っていると思います。
各自の個性を豊かにひらき、組織にとって「よい多様化」をもたらすためには、
一人一人に普遍的な原理原則を伝えておく必要があります。


 「格に入て格を出ざる時はせばく、
 格に入ざる時は邪路にはしる。
 格に入、格を出て、初て自在得べし」 
―――とは松尾芭蕉の言葉です。


格とは型のことです。
型とは古人たちが永い時間と経験を経て体得した普遍原理です。
普遍原則の上に立ってこそ、ほんとうの自在の個性が発揮できる―――
芭蕉のこの言葉は、平成のビジネスパーソンにも全く有効な言葉です。

ですから、私は、研修コンテンツの中に、
古今東西の偉人、哲人、達人が遺した名言・箴言をふんだんに盛り込みます。

それらは哲学の言葉です。
昨今のビジネスパーソンに決定的に欠乏しているもの、それは哲学の心です。

「よき職業人」をつくるものは、最終的に、「よき哲学」です。
「強きプロフェッショナル」をつくるものは、「強き哲学」です。
たったひとつの哲学的な言葉が、
人間を根本から変え、生涯にわたって彼(女)を支えることは珍しくありません。


 「心が変われば、行動が変わる。
 行動が変われば、習慣が変わる。
 習慣が変われば、人格が変わる。
 人格が変われば、運命が変わる」。


―――これは、星陵高校・野球部の部室に張ってある指導書きです。
米国メジャーリーグで活躍する松井秀喜さんは、
いまや野球人として第一級のプロフェッショナリズムをもつ大選手に成長しましたが、
その過程には、
高校の野球部監督であった山下智茂氏から受けたこの言葉の影響が大きくあったといいます。
(松井秀喜著『不動心』より)

いまの職場に知識や技能を教える人はいても、
哲学を与えてくれる人は少ないものです。
かく言う私も講師として独自の哲学を与えることはできないかもしれません。
しかし、
古今東西の哲人たちの「強く深き」言葉を紹介することはできます。
それによって、受講者の一人一人に思索を促し、行動変容の刺激を与えることは可能だと思っています



◆3:ロールモデルから学ばせる
働くマインドを醸成させるための有効な手段として
「ロールモデル」(模範)から学ばせる方法があります。

本来、組織の中にロールモデルたりうる優れた人たち
(それは経営者であったり、上司であったりするのですが)
が、そこかしこにいて、若年層社員たちは彼らを模範として
働き観や仕事哲学のようなものを学び取っていくのが理想形です。

しかし、どの組織にも
そうした一角(ひとかど)の職業人が潤沢に存在するわけではありませんし、
ただロールモデルを見つけるだけでは、学習として不十分なところもあります。
(人によって学び取る感度の〈鋭い/鈍い〉があるからです)

その点から、私の研修ではそれを『ロールモデル探し』としてワーク化しています。
このワークによる学習法は3ステップです。

 ①ロールモデルを選定する
 ②そのロールモデルの行動特性を観察し、表出する
 ③その行動特性を自分の仕事状況に置き換えて考える

このワークではロールモデルの探し先を職場内に限定しません。
ロールモデルは、社外の人物であっても、過去の偉人・賢人であってもかまいません。
あるいは、人ではなく、モノやサービスでもかまいません。
要は、模範とみる存在から何を引き出し、何を実際の仕事・キャリアに応用させるか、
それを抽象的に考える力こそが重要なのです。

そうしたワークの刺激づけをするのが私の役割だと思っています。






Hosoku bar

   □ 「自立」と「自律」の違い 
   □ 
自律と他律 そして“合律的”働き方
   □ やせた知力・ふくらみのある知力 
   □ 
「成長すること」の3つの観点 


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