« 選択[1] ~「選択の正しさ」について | メイン | 選択[3] ~登る山は無限にある »

選択[2] ~選択肢をつくりだす

第5章〈人生〉#05

〈じっと考えてみよう〉

ある小国の貧しい貴族の家に3人の娘(甲娘・乙娘・丙娘)がいた。3人とも10代のおしゃれ盛りで、着る服について好みが強かった。が、家は裕福ではなかったので娘たちに買ってやるドレスは少なかった。

甲娘はいつもこう漏らす―――「なぜ私には3着しかドレスがないの。しかも格好の悪いものばかり。いまどきこんな古い型なんて恥ずかしい。ああ、今晩の舞踏会になにを着ていけっていうの。このなかから選べと言われても選べないわ」。

それに対し、乙娘はというと、裁縫道具や布切れを部屋に広げ、手持ちのドレスに自分で手を加えている。―――「この部分はこう作り変えてしまえばいいかな。あ、そうだ、この素材を縫い付ければ今風になるわね。あと、ドレスを上下に分けてしまえば、いろいろと組み合わせもできるし、手元に3着しかなくても、5着、10着にも見た目を増やせるわ」。

一方、丙娘は、町でドレス作りを商売にしている職人やデザイナーを何人も広間に集めていた。丙娘は彼らを前に熱く語り始めた―――「ドレス作りを我が町の産業として有名にしていきましょう。来月行われる舞踏会には、国じゅうから貴族たちが集まります。王女も来るでしょう。そこであなたたちの腕前を見せつけるのです。最高のドレスを何着も作ってください。私がモデルになって宣伝しましょう」。


□ 3人の娘のうち、選択できるドレスの種類がもっとも限られているのはだれでしょう? 
逆に、もっとも豊富なのはだれでしょう?


□ 3人の娘の間でそういった選択肢の多さに差が出たのはなぜでしょう? 
各人の心の姿勢に着目して考えてみましょう。

0505b_3

 

 わたしたちは日々、なにかを選択しながら生きています。A、B、C、D……、目の前にはいくつかの選択肢があって、どれかを選んでいく。たとえば、レストランに行けば、メニューにはたくさんの料理がのっていて、そこから食べたいものを選びます。家電店に行けば、テレビが何種類も並んでいて、価格や機能、予算に応じて選んで買います。高校や大学もそうです。自分の学力や家庭の経済力に合わせて、学校を選んでいきます。選べるものがたくさんあって迷うときもあれば、選べるものが少ない、あるいはまったくなくて困るときもあります。さて、そんな選択肢をめぐることについて、3人の娘の例で考えていきましょう。

自分が舞踏会用に着ていくドレスで、どれだけのものから選ぶことができるか。まず、甲娘が選べるのは3種類だけです。彼女は与えられたドレスからしか選ぼうとしていないからです。一方、乙娘はどうでしょう。彼女は与えられたドレスに自分でアレンジを加え、着こなせるパターンを5種類や10種類に増やしています。さらに丙娘となると、ドレス職人を集めて、さまざまに新しいドレスを作らせて、自分で着てしまおうというアイデアと行動を起こしています。おそらく丙娘が着られるドレスは種類も多いし、質も高いものになるでしょう。なにせ、腕前のいい職人が意気込んでドレスを作るのですから。

このように選択肢がもっとも限られるのは甲娘で、逆にもっとも豊富なのは丙娘です。では、なぜこのような差が生まれるのでしょう?―――それは、ただ目の前にある選択肢を選り好みしているだけなのか、あるいは、選択肢をあらたにつくりだそうとするのか、という心の姿勢の差にあります。

0505d


甲娘は、与えられた選択肢にいろいろと文句はつけるだけで、選択肢を増やそうという努力をしていません。「これもダメ」、「あれもバツ!」と言って、最後には「ああ、自分は恵まれていない」とぐちをこぼす姿勢です。これでは自分の選べるものがじり貧になってしまいます。

それに対し、乙娘は自分の力で選択肢を増やそうとしています。手持ちのものが自分の好みや都合に合わないのなら、合うように変えていく努力をしているのです。

丙娘は選択肢を増やすために、もっと積極的に取り組んでいます。自分の力だけでなく、他人の力も巻き込んでやろうという計画です。しかも協力してくれるみんながハッピーになれるような働きかけをしています。そうやって丙娘は、たくさんの、しかも新しいドレスのなかから選べる状況をつくりだしました。


わたしたちは小さいころからいろいろと選択肢を与えられます。「こっちの青と、あっちの赤とどっちがいい? 好きなほうの服を選びなさい」「晩ごはんはカレーにする? ハンバーグにする? 食べたいほうはどっち?」「この予算内で自分が買いたい自転車を決めなさい」「あなたの実力で合格できそうなのはA校かB校です。どちらの受験を決意しますか?」など。親や先生があらかじめ示してくれた選択肢を子どもは受け取り、そのなかから自分に合ったもの、自分がよいと思うものを選ぶ。そうした過程で、子どもはものを比較したり、判断したりする力をつけていきます。これは一つの大事な成長です。

けれど、その成長は一つの段階にすぎません。なぜなら、それは与えられたものから選んでいるだけだからです。次の成長段階は、選択肢をみずからつくりだすということにあります。

0505c

いま、あなたの目の前には「A・B・C」の3つの選択肢があるとしましょう。そして、その3つにどれも満足できないとします。さて、あなたはどうしますか? 

文句を言って全部を拒否するか―――でも、そうやって投げやりになって、状況がよくなるためしはありません。

または、しょうがないなと言ってどれかを選んでがまんするか―――でも、妥協ばかりを積み上げてこしらえた人生はどこかさびしい。

あるいは、新しく「D」という選択肢、あるいは「E」という選択肢を創造しようとするか―――そう、そういう強い心の姿勢をとれる人が、人生をどんどんひらいていく人なんでしょう。

[文:村山 昇/イラスト:サカイシヤスシ]




* * * * * *

この記事をPDF版(A4サイズ)で読む→ここをクリック
印刷してじっくり読む場合に便利です

0505top_3


→『ふだんの哲学』目次ページにもどる

Logo_holiz_01