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「美しい」について[1]~美とはなんだろう?

第3章〈価値〉#04

〈じっと考えてみよう〉

玲子(れいこ)、翔太(しょうた)、夏穂(なお)の3人は、美術の授業で「あなたが最近『美しい』と感じたものをいくつかあげなさい」という宿題を与えられました。その宿題について放課後話しあっています……

玲子:
わたしはまず、なんといっても、これ(ファッション雑誌を開く)。大好きなモデルのMIKAKOよ。どう、彼女の「美しい顔」「美しい髪」「美しい脚」「美しい服」、どれも文句なしにカッコイイでしょ。

夏穂:
わたしは、そうだなぁ、旅行で見た「美しい風景」とか、野草の花びらに見つけた「美しい模様」とか。

翔太:
「美しい」っていう言葉を男子はあまり使わないんだな。でもそういえば、書道の先生は、「美しい字は、美しい姿勢から」っていうのが口グセだ。

夏穂:
そうかぁ、「美しい」って、なにも物にかぎらないということか。姿勢は物じゃないから。

玲子:
最初にバイオリンの曲を聴いたとき、「音色が美しいな」と思った。これも物じゃない。

翔太:
だったら、サッカーやってるときにも出るね。「あれは美しいプレーだね」とか、「きれいなシュートだった」とか。

□問い:
あなたが最近「美しい」と感じたものはなんでしょうか? 
3つあげてみましょう。  
ここでは美しいを広くとらえて、きれい、カッコイイと置き換えてもいいでしょう。そして、あなたはそれらのなにを美しいと感じたのでしょうか?

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さて、あなたは「美しい」と感じたものになにをあげたでしょう。玲子がファッションモデルを例にしてあげたのは、人の容姿や服装についての美です。目についた物体の色や形をきれいというのは、もっとも一般的な「美しい」です。そうした外見の美については、ほかにも「自動車のデザインが美しい」とか「美しく印刷されたポストカード」「造型が美しい建築」などのように言えます。

夏穂があげたのは風景や花の美しさです。自然には美しいと感じるものがたくさんあります。富士山や夜空に横たわる天の川のように雄大な美もあれば、小さな花の模様や、顕微鏡でしか見られない結晶の規則的な配列など微小の美もあります。

翔太は姿勢の美しさを言っています。物以外にも美はあります。姿勢はしぐさや振る舞いといった動作的なことです。動作的な美がだんだん洗練されてくると、技(わざ)の美になってきます。「美しいプレー」とか「きれいなシュート」もその種類です。ちなみに、動作の技を美として芸術的に追求していくものに、能や歌舞伎、茶道などがあります。

また、美しいは見て感じるだけではありません。「美しい音」のように耳で聴く場合もあります。あるいは舌で味わう場合もあるでしょう。食べ物が「おいしい」を、漢字では「美味しい」と当てます。

このように「美しい」とは、物や人の外面にあらわれるなにかについて言うことが多い。ところが、わたしたちは人の内面にも目を向けます。内面が澄んでいて、善いことをすすんで行う人のことを「あの人は心が美しい」と言います。人の内面は目に見えませんが、目に見えないものを心で美しいと感じるのです。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

さて、ものごとが美しいと感じるとき、わたしたちはそこからなにを感じ取っているのでしょう。───それはおそらく、ものごとが持っているなにか「良いこと」であったり、「すぐれていること」であったり、あるいは「善いこと」「生きる力の根源に近いこと」ではないでしょうか。

ここでの「良いこと」とは、たとえば、快さを与えてくれる、清らかである、整っている、秩序があるなどのような状態をいいます。そうした性質・状態が美しさに通じているというのは、次のようなことを想像するとわかりやすいかもしれません。

○快さを与えてくれる
→ショパンの作ったピアノ曲の旋律は美しい

○清らかである
→山の雪解け水が集まって川をつくる。そのキラキラとした流れは美しい。

○整っている
→朝礼の列が縦横にぴしっと整っていると美しい。

○秩序がある
→機械式腕時計の裏ぶたを開けると、小さな部品が秩序をもって正確に動いている。それは美しい。

○うっとりさせる
→その国民的アイドルは美しい顔だちで多くのファンを魅了した。

○理にかなっている
→鳥が飛ぶ姿は美しい。それは自然の法則にさからわない無駄のない動きだから。

○機能的である
→扇子(せんす)は広げれば風を起こす大きな形となる。そして蛇腹(じゃばら)折りにして棒状に収納できる。この機能的な形は美しい。

また、「すぐれていること」というのは下のような性質・状態のことで、これもまた美しさに通じています。

○能力がたくみに発揮されている
→何十年もの修行を積んだ職人さんの手の動きは美しい。

○研ぎ澄まされている
→アインシュタインの論文は明晰で、導き出された法則の数式は美しい。

○品格がある
→この書は実に美しい。書いた人間の気高い精神が込められている。

さらに、「善いこと」というのは次のような性質・状態のことで、美しさに通じています。

○正しい
→発展途上国に渡り、死ぬまで学校建設に献身した彼の生き方は美しい。

「生きる力の根源に近いこと」というのは次のような性質・状態のことで、やはり美しさに通じています。

○生命力に満ちている
→春の若葉の輝きは美しい。

○懸命である
→ひたむきに努力する彼の姿は美しい。

○不可思議である
→なんの力がこの微細で美しい雪の結晶をつくるのだろう。

○超然としている
→この無限の宇宙に広がる無数の星々は美しい。




[文:村山 昇/イラスト:サカイシヤスシ]  



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