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ものごとのとらえ方[2] 「もう一人の自分」とどう対話するか

第7章〈意志・こころ〉#02

 

〈じっと考えてみよう〉

Q1~Q3につき、どういう〈とらえ方〉をすれば、前向きな気持ちになれるでしょう?
空欄(1)~(3)に書き込んでください。

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前回わたしたちは、なにか〈出来事〉に遭遇したとき、その〈とらえ方〉によって、生じる〈気持ち〉が変わってくることを学びました。宏美と多英は同級生にけがをさせてしまった。その悪い出来事に対し、宏美はマイナス方向に落ち込む一方でしたが、多英はプラスの方向へ立て直すことができました。それぞれの〈とらえ方〉が異なったからです。

そのことをさらに理解するために、冒頭に問いを3つ用意しました。さて、あなたはどんな〈とらえ方〉で〈気持ち〉をプラス方向に変えることができたでしょうか。なお、最後のページに答案例を紹介しておきましたが、これは一つの参考です。他にもいろいろ考えられるでしょう。

さて、あなたはいま、学校で国語や数学、理科、社会、英語などさまざまな科目を勉強しています。そして定期的に科目ごとのテストがあり、考える力を試されています。学校でやるテスト問題には、必ず先生が用意した正解があって、あなたはその正解を引き出せればマルがもらえます。いまはそういう基本的な段階の思考力をやしなっています。

ところがあなたはじょじょに、次の段階の思考力を身につけはじめる時期にきています。それは、ものごとをどうとらえるかという思考力です。ものごとをどうとらえるかというのは、いかようにでも答えがある問題です。あらかじめ正解が一つだけ用意されているテストの問題とは種類がちがいます。しかし、世の中を生きていくにあたっては、こうした正解のない問題のほうがむしろ多いのです。

キャプテンである自分が2試合続けて大きなミスをした。このショックと責任の重圧からどう自分の心を守ればいいのか。また、同級生から友だちの少なさを言われたときに、その言葉をどう払いのければいいのか。また、経済苦の家庭に生まれ、自分は大学進学できない境遇だと知ったとき、どう自分の運命と向き合えばいいのか―――。

これらの人生問題には「唯一(ゆいいつ)これが正しい」といった答えはありません。なにか公式があってそこに数を当てはめれば自動的に正解が出るものでもありません。覚えた歴史年号を空欄に埋めれば点数がもらえるような問題でもありません。その状況をたくましく乗り切る答えは人それぞれ無数にあります。

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あなたはいまから5年や10年もすれば、社会に出て職業を持ち、独立して生きていくことになります。そこで直面する問題の多くには、だれかが用意してくれた正解はありません。目の前の出来事や事実をどうとらえて、どう気持ちをつくり、どう行動していくか。いわば、自分で正解をつくり出していくしかないのです。そのときあなたは、感情に流されるまま悲観的にものごとをとらえることもできるし、意志を持って楽観的にとらえることもできる。どちらの姿勢がよりよい生き方につながっていくか、決めていくのは自分です。

ものごとをどうとらえるかというのは、言葉を変えると、ものごとをどう解釈するか、どんな見解を持つかです。さらにもう一歩深く考えて、それら解釈や見解はなにの影響を受けているかというと、それは信念や価値観です。信念とは自分の心に持つ「こうあるべきだ・こうすべきだ」という考えの軸です。価値観とは「これはよい・これはわるい」と判断するときの考えの地盤になるものです。

信念・価値観は、心のなかにいる「もう一人の自分」と考えることもできます。なにかの出来事に対し、それをどう解釈したらいいか、どんな見解を持ったらいいか「現実の自分」が迷っているとき、信念・価値観という「もう一人の自分」が、「こうあるべきなんじゃないか」「また別のこういう考え方だってあるよ」と声をかけてくるのです。そうして「もう一人の自分」と「現実の自分」とで何度も話し合いをする。そして自分の解釈や見解を決めていきます。きょうの設問3つを考えたときも、あなたは知らずのうちに、心のなかの「もう一人の自分」と話し合いをしていたのではないでしょうか。

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まさにいまあなたは、日々いろいろなことを勉強し、見聞し、成長しています。その過程で成功したり失敗したり、人から信頼されたり裏切られたりしながら、信念や価値観をつくっていきます。いわば、心のなかの「もう一人の自分」がどんどん育っているのです。

よりよく生きていくうえで、もちろん知識や技術は大事です。性格や健康も大事です。それと同じように、信念や価値観も大事です。信念・価値観のもとに、知識や技術、性格、健康が生かされたり、生かされなかったりするからです。

〈答案例〉

(1)
・完璧な人間などいない。キャプテンだってミスをすることはある。
・今後、大会は何回でもある。活躍するチャンスはある。
・負けたことによって学んだこともある。それを次に生かせばよい。

(2)
・人は多くから愛されるにこしたことはないが、少数から愛されることでもべつにかまわない。
・人の魅力は、人気によってすべて測られるものではない。
・友人の少なさが人生のさみしさにつながっているとはいえない。
 軽い付き合いの友だちを増やすより、深く付き合える親友を一人でも二人でも持てればよい。

(3)
・運命は変えられないわけではない。  
 (歴史上の偉人たちの多くは運命を変えていった人たちだ)
・お金がなくても大学に進学している人たちはいる。
 彼らはどうやって入学したのだろう。

 なにかよい方法があるにちがいない。調べてみよう。
・自分がこういう家庭に生まれたことには、なにか意味があるのかもしれない。

 

[文:村山 昇/イラスト:サカイシヤスシ]  



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