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「登山型キャリア」と「トレッキング型キャリア」

1.1.3



「いまの会社・いまの仕事で何を目指していけばよいのかわからない……」

こうした悩みは若手の会社員の口から多く聞かれる。確かに会社に入るときは、あれほど志望動機を考えたはずなのに、いざ入社してみると、仕事の内容や会社の様子が実は思っていたものと全然違ったものであったり、あるいは予想外のところに配属されたりして、やがてその志望動機は知らずのうちに消えてしまう。そして働き始めて数年も経てば、「あれ、自分は何を目指しているんだろう?」というような気持ちになる。

もし、いまのあなたに一心不乱に没頭できる職業上の目標が確固とあり、そこに邁進しているのであれば、それはとても幸福な働き人である。どんどん突き進めばよい。しかし、世の中には、そういった明確な目標が見出せない人のほうが圧倒的に多いものだ。だが、このことにめげる必要はまったくない。山の楽しみ方に、「登山」と「トレッキング」というタイプがあるように、キャリアにもこの2つのタイプがあるからだ。

登山の場合、目標はただ一つ「登頂」であり、その結果を得るためにあらゆる努力をしていく。頂を目指す途中、道草はしない。

つまり、「登山型のキャリア」とは、「プロ野球選手になってホームラン王をとる!」とか「弁護士になって多くの人を助けたい!」、あるいは「新薬開発の先進企業に入ってガンの治療薬をつくりたい!」「保険会社で日本一の営業マンになる!」などのように、唯一絶対の頂上を決めて脇目も振らずそこを目指すキャリアである。

他方、トレッキングの場合は、登頂のように明確な目標があらかじめあるわけではない。山の中を回遊して、何か自分のお気に入りの場所を探すというその活動自体を楽しみにするものだ。途中でたまたま見つけた滝や池が気に入れば、しばらくそこにたたずんでその居心地を楽しめばいいし、道端に咲く植物をいろいろと観察しながら時間をかけて歩くのもいいだろう。そうした過程で山の奥深い細かなものがさまざま見えてくる。

すなわち、「トレッキング型」のキャリアは、「自分は絶対ここを目指すぞ」というような目標は思い浮かべていない(浮かべられない)けれども、会社内でいろいろな部署を経験したり、または転職したりしながら自分らしさを少しずつ見出しながら、キャリアを形成していく形である。あるときは営業現場で商品を売ることの楽しみや苦労を知ったり、あるときは企画部門で新しいアイデアを打ち出すことの奥深さや大変さを知ったり。また、業界を越えて転職したときなどは、業界ごとで仕事に対する考え方がこんなに違うんだ、と感じることもあるだろう。

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そうしてトレッキングを続けていくと、次第に山のことがわかってきて、体力や技術がついてくる。すると自分の登りたい山が見えてきて、その頂上に挑戦したいなと思えるときがやってくるかもしれない。だから、「いま何を目指してよいかわからない」という人に対し私は、あせらずトレッキングを楽しむことでいいのではと答えている。

私自身も、20代、30代はトレッキング型だった。メーカーや出版社など数社を渡り、さまざまな仕事を経験した。そして40代になって、人財教育事業という山がすーっと見えた。「これをライフワークにしたい。この道を自分なりに究めたい」と思い、独立した。だから、いまはどっぷり登山型のキャリアだ。私がいま見つめている頂上は、「働くとは何か?の第一級の翻訳者になる!」「100年読まれ続ける本を著す」である。ここを目指し、日々、一歩一歩足を進めている。

登山型とトレッキング型とで、どちらがよいわるいという問題ではない。大事なことは、山自体(=働くこと)を楽しんでいるか、そしてその活動を通して自分を成長させているかということだ。






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