「教える人」が一番「学べる人」
4.3.7
私は新卒入社3~5年目社員に向けたフォローアップ研修をよく受託します。まだ若年次ということもあり、顧客企業からの要望としては、自己の棚卸しであったり、(論理思考や財務知識など)新規能力の習得であったり、キャリアの自律意識醸成であったりします。それはそれで重要ですが、私が強く押すのは「教える側に回る」機会を与えるプログラムを盛り込むことです。
例えば、新入社員のチューター・メンターになる、所属部署の業務マニュアルを作る、得意分野のことで勉強会を主宰し講師をする、他社研究の発表を行うなど。彼らが教える側に回り、職場の先輩や上司が受け手側に回るという場を設定するのです。こういうことを彼らにやらせてみると、人に何かを「教える」とは本当に上質な学習機会になることを実感します。
物事を単に知るだけで満足していては、能力は伸びません。知ることは能力伸張のほんの最初のステップにすぎないからです。例えば、陶芸について何らかの能力があるといった場合、次のような段階があります。
1)焼きものの製法や歴史、種類を「知る」
2)なぜその製法がよいのかという化学的、実践的な裏づけまで「わかる」
3)実際、自分でロクロを回して、窯で焼くことが「できる」
4)それらすべてを他人に「教える」ことができる
「知る」と「わかる」には格段の差があります。「知る」ことは単に情報・知識を頭の中に入れるだけです。ところが、その入れた情報・知識を真につかむためには、それを分解していって理屈として、構造として「わかる」(分かる/解る)状態にしなければなりません。
「わかる」と「できる」、「できる」と「教える」にも格段の差があります。「わかる」というのはいまだ自分の頭の中で閉じた状態です。それを自分の頭の外に目に見える形で表出させる、これが「できる」ということです。
しかし、「できる」というのはいまだ自分だけの問題です。ところが「教える」は、自分の「わかる」こと、「できる」ことを、他者にわからせ、表出させるという難事です。自分だけの閉じた状態から、相手へと開き、導く作業になります。
能力を伸ばす最良・最短の方法は、人に教えることです。教えることは、その行為の中に実に多くのことを含んでいるからです。
・教えようとすれば、自分であいまいな部分を再確認・再学習しなければならない。
・教えようとすれば、事前に整理・体系化しなければならない。
・教えようとすれば、相手にかっこいいところをみせようと練習を重ねる。
・教えようとすれば、短絡的な答えではなく、
「考え方・プロセス」を示さなくてはならない。
・教えようとすれば、相手にどう伝えるのがわかりやすいかを
あれこれ想像しなければならない。
・教えようとすれば、目の前の相手の言葉を傾聴し、
相手の反応に敏感にならなければならない。
・教えようとすれば、根気がいる。
・教えようとすれば、熱意がいる。
・そして相手が、知り、わかり、できるようになり、教えられるようになれば、
とてもうれしい。
グラフィックデザイナーの原研哉さんは、『デザインのデザイン』の中でこう言っています。――― 「デザイナーは受け手の脳の中に情報の構築を行なっているのだ」と。
デザイナーに限らず、何か教えようとする人は、その教えを受ける人の脳の中に“理解”という建築を行わねばなりません。
人に何かを教えるとき、一番成長できるのは教える本人です。だから、知識や技能は、自分一人に閉じずに、どんどん人に教えてあげるのがよい。この記事にしてもそうです。この記事によって一番学んだ人は誰でしょう?───そう、筆者である私です!