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「七放五落十二達」の法則~試す勇気と状況をつくりだす力

3.6.4



◆人はリスクと引き換えに何かを得る
リスクに対する「危機」という訳語は実に奥深いものだ。そこには、危険(デンジャー)と機会(チャンス)が同居している。

飛行機が飛ぼうとするとき、抵抗する風を浮揚力に変え、機体は地を離れる。サーファーにとって荒ぶる高波は命を奪いかねないものだが、いったんその波を捕まえるや、このうえなく爽快な瞬間を獲得することができる。考えてみれば、人はリスクをコントロールし、リスクと引き換えに何かを成し遂げるものである。

仕事やキャリアにおいても、ひとたび何か試してみよう、変化を仕掛けてみようとすれば、リスクが伴う。リスクとは、事態が悪化したり不安定になったりする可能性、体力や経済力を失う可能性、信用を落とす可能性、周囲から非難される可能性などだ。

これらリスクを挙げていけばきりがないが、リスクも考えようだ。平成ニッポンにおいての仕事上のリスクである。命を取られるわけでも、収入がゼロになるわけでもない。自分が決めた建設的な目的を持って、変化を仕掛けて、可能性を試す。そこでたとえ失敗したとしても、何か取り返しのつかない惨劇が待っているだろうか。おそらく、そこで得られる心境は、「これで、またひとつ状況が進んだぞ。得たものは大きい」―――ではないだろうか。目的に向かう意志の下では、自分を試すことに失敗はないのだ。

発明王エジソンは、1万回実験に失敗しても、「私は1万通りのうまくいかない方法を発見したのだ」と言った。

また、米国の人気経営コンサルタント、トム・ピーターズは、「Ready-Fire-Aim」ドクトリンを提唱している。それはつまり、

    「構え・狙え・撃て!」―――ではない。
    「構え・撃て!狙え!」―――である。

ともかく「撃て!」と。撃った後に狙えばいいのだと。彼はこうも加える。

    「ころべ、まえに、はやく」。

ともかく、自分の望む道をつかむためには、行動と修正、そしてまた行動と修正の繰り返ししかないのだ。


◆7で放ち、5まで落ちて、12に上がる
この複雑な社会、複雑な人生において、どんな行動プランであれ、10割読み切るということは不可能である。たとえ読んだとしても、世の中がそのプランどおりに展開してくれる保証はどこにもない。

だから、7割レベルまで状況が読めるなら、サイを投げよ!

私はこれを「七放」(しちほう)と名づけている。ただ、「七で放った」後、そこからは、混乱、困惑、不測の出来事のオンパレードである。未知の連続に、「こんなはずじゃなかった!」という場面も多々出現してくる。自分が描いていたプランのそこかしこにひび割れが生じ、あるいは崩れ落ち、変色し、縮小していくだろう。そうして当初掲げていたプランは5割レベルまで落ち込む状況になる。

―――これが「五落」(ごらく)である。

ただし、これは落ち込んだように見えるだけだ。「五落」という背丈まで生い茂る草むらのなか、素手で草を掻き分け、投げ倒し、道を探っていく。どれほどの長さかわからないが、そうした混沌をくぐり、修羅場をくぐると、やがて広い丘に出る。

その丘には、さわやかな風が吹いていて、ふと足元を見ると花も咲いている。そんな足元の花に気づくくらいに心に余裕ができたとき、振り返ってみてほしい。おそらく事を起こす前までの自分を、冷静に眼下に見下ろせるはずである。

その到達した丘は、当初自分が計画した以上の高みになっていることが多く、12割レベルというのが実感値となる。―――それが「十二達」(じゅうにたつ)ともいうべき境地である。


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◆過去のことがすべてつながる「十二達の丘」
満足のいく仕事人生を築いていくにはさまざまな能力が必要だが、私はそのなかで最も重要なものは「自分を試す勇気」と「状況をつくりだす力」ではないかと思っている。

行動で仕掛ければ仕掛けるほど、自分の視界はどんどん開けてくる。Aという山を目指していたが、状況をつくりだすうちにBの山にたどり着くこともあるかもしれない。だが、そのときあなたはBの山頂に立ってこう思うだろう―――「あぁ、Bの山こそ自分の山だったのかもしれない。いい山だ」と。そして遠く向こうに見えるAの山頂をなつかしく眺めるだろう。

仕事の成就やキャリアの進路に唯一無二の正解はない。人はゆらぎながら成長していく動物である。ひとたび何か事を起こすと、自分を取り巻くいろいろな条件、制約、都合などが複雑な力学を伴って、自分に向かってくる。その状況のなかでもがきながら、キャリアの道筋はつくられ、選択肢が固まってくる。

動けば動くだけ新しい不安も起こってくるが、「何かが見えつつある」という確かな実感が、そのもがきプロセスを楽しいものにする。座して何もせずにいる不安のほうが、はるかに不健全な不安だ。

リスクを怖がらずに仕掛け、不測の状況と葛藤して、自分がほんとうに納得できる居場所を見つけられたなら、それこそが「キャリアの勝利」というものである。


◆ゼロをイチにさえすれば、やがて百にも千にも道が広がる
勇気と夢を持って自分試しを敢行した人たちの経験によると、「十二達」の丘に到達したとき、過去のことがすべて必然性を持ってつながると言う。過去に何気ないところで得ていた技術や知識、人脈、そして雑多な経験や失敗などが、あたかも、いま進んでいる道を行くためにあったのかと思えるのだ。

    「先が読めないから行動できない」というのは言い訳にすぎない。
    まずは行動してみないから、先が見えてこないだけの話である。

ヒルティは『幸福論』で次のように書いている。

「まず何よりも肝心なのは、思い切ってやり始めることである。
仕事の机にすわって、心を仕事に向けるという決心が、結局一番むずかしいことなのだ。
一度ペンをとって最初の一線を引くか、あるいは鍬を握って一打ちするかすれば、
それでもう事柄はずっと容易になっているのである。
……だから、大切なのは、事をのばさないこと」。



同様に、ノーベル化学賞受賞の福井謙一博士は、『哲学の創造』の中で、まったく新しい学問というのは、論理によらない直観的選択から始まる場合が多い。だから着想を持ったら、ともかく荒っぽくてもいいから実験を始めること。そうすれば試行錯誤の中で正しい結論が裏付けられていくと語っている。

何かの状況を前に、グズグズ、ウジウジ躊躇して、「ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう」と悩んでいる状態は気持ちが悪い。どうせ悩むんだったら、何か事を行って、その展開のうえでどうしようかと悩むほうが、悩みがいもあるし、第一気持ちがすっきりする。

本田宗一郎は―――「やりもせんに」と言った。
鳥井信治郎は―――「やってみなはれ」と言った。
そして、ナイキのブランドメッセージは―――Just Do It





〈Keep in Mind〉
サイを投げよ! すると腹が据わる。先が見えてくる。



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