自律と他律 そして“合律的”働き方
3.2.1
◆自律は善で/他律は悪か
自律・他律といったときの“律”は、「ある価値観や信条にもとづく規範やルールのこと。さまざまな事柄を判断し、行動する基準となるもの」をいう。したがって、
○「自律的」
=自分自身で“律”を設け、それによって判断・行動する
(そこには、意志的、能動的な態度がみられる)
○「他律的」
=他者が設けた“律”によって、判断・行動する
(そこには、追従的・受動的な態度がみられる)
とまとめられるだろうか。このことから一般的に、自律的な働き方は善で、他律的な働き方は悪だと認識されがちである。しかし、そう単純に認識してもよくない。私は研修で、次のような表を出し、受講者に考えさせる。
1つの軸に「自律的な働き方と他律的な働き方」を取り、もう1つの軸に、「望ましい点と望ましくない点」を置く。その4つの空欄にどんなことが当てはまるか。
誰しも「自律的×望ましい点」と「他律的×望ましくない点」はすぐに思い浮かべることができる。だが、じっくり考えると、「自律的×望ましくない点」や「他律的×望ましい点」についてもいくつか出てくる。
たとえば、自律が過剰にはたらくと、自己中心的な暴走や逸脱を生む。自律的働き方が、いつしか“俺様流”に陥るのだ。自律意識過剰の人間ほど、狭い視野の判断でトラブルを起こしてしまったり、「こんな会社やってられるか」と切れてしまい、簡単に転職に走ってしまうケースはよくある。
また、他律的な働き方は、ときに効率的でミスの少ないものである。もしその組織が、過去から営々と築き上げてきたノウハウを持っている場合は、ヘタに個人が独断で動くより、組織の持つ暗黙知・形式知に従って(=他律的に)淡々と仕事をやるほうがいい場合もある。先輩方が築き上げてきた伝統の知を従順に利用することは、賢明な手でもあるのだ。 (ただ、それに安住し依存してしまうと、他律的の望ましくない面がじわり出てくる)
いずれにしても、私たちが押さえるべきは、自分の律も他者の律も完璧ではないことだ。そしてさらに重要なのは、両者の律を「合して」つねに「よりよい律」を生み出していくことである。
◆自律と他律を高い次元で止揚する「合律」
さて、両者の律を合するとはどういうことだろう。私は、働き方として自律的と他律的の2分法を超えて、新しい意識概念を登場させるべきだと思っている。
自分の日ごろの仕事を振り返った場合、その仕事は、必ずしも自律で行なわれたか、あるいは他律かという両極の2つで分けられるものではない。実際にはその中間形態が存在する。
つまり、ある仕事をやろうとするとき、組織や上司はこう考え、こう行なうようにと命令してくる(=他律的な)流れと、それに対し、「いや、自分はこう思うので、こうしたい」とする(=自律的な)流れが生じる。そして、結果的には、自分と上司なり組織なりが討議をして、双方が納得する答えをつくりだしている。この自分と他者の間に生み出された第三の答えは、自律も含み、他律も含み、だが新しくもある。
その第三の答えは、双方の律を“合した”という意味で、「合律的」と呼んでいいかもしれない。自律的な「正」の考えに対し、他律的な「反」の考えがあって、その2つを高い次元で止揚する「合」が生まれたということだ。
ただし、「正」と「反」がぶつかりあっても、妥協で済ませる場合は「合」ではない。「合」とは次元が上がって生み出された新しい何かである。
◆個々が合律的に振る舞う組織は変化に強い
事業組織は、つねに環境の変化にさらされていて、その環境適応・環境創造のために、新しいやり方を生み出していかねばならない。その際、誰がそれらを生み出していくのか?───もちろん、それは経営者および個々の働き手にほかならない。
だが、彼らが過剰に自律的(時に我律的)に考え出し、行動する選択肢は往々にしてハイリスクであるし、全体がまとまるにもエネルギーが要る(存亡の危機にある組織が、起死回生の一発を狙って行なう経営者の超我律的選択肢は例外的なものと考えるべき)。そんなとき、自律と他律の間で、止揚的に第三の選択肢を創造していくことは、最も現実的で、かつ成功確率の高い変化対応策を生み出すことにつながる。
強い会社・変化対応に優れた組織というのは、経営者が合律的なマネジメントを実行するということは当然だが、やはり、現場の一人一人の働き手が、まず自律的な存在となり、自分の意見を組織にぶつけて、合律的に事に向かっていくことが決定的に重要である。
合律的という意識は、一個人のなかにおいても大切である。自分の律に対し、つねにオープンマインドで他者の律をぶつけてみることで、自律の偏りやゆがみや不足などが見えてくる。そして他律から取り込むべきものは取り込んで、以前とは次元の上がった律を持つことができたなら、それは合律による成長である。
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