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会社と「ヒト」

4.1.1



◆会社とはヒト・モノ・カネを投入して価値を生み出す装置である
1人の家具職人が、木を切り出してから1脚の椅子を作るのに丸3日かかる。しかし、その工程を5つに分け、5人の作業員で分業化すると1日に10脚の椅子が作れる。生産性が6倍上がった勘定である。そこで、資本家はカネを集め、生産設備と原材料(=モノ)を買い入れ、経営者と多くの作業員(=ヒト)を雇う。そして、効率的な分業体制の下、椅子の多量生産を始め、そこから多くの事業利益を目論む―――これが近代的企業の発足原理である。

会社とは、端的に言えば、ヒト・モノ・カネを効率的に用いて、より高い価値を生み出す装置である。会社にはそれぞれ、利益獲得なり社会貢献なりといった目的がある。そのとき、会社という装置に投入されるヒト・モノ・カネは、経営側の目的意思によって、さまざまに制限を受けるのが当然となる。したがって、働き手にとって、「(会社に)雇われる生き方」を選択することは、ある意味、自分自身の自由の一部を会社の目的に引き渡し、それを給料に換えることを容認したと考えなければならない。

よく若手従業員のなかに、「会社は自分のやりたいことをさせてくれない」とか「能力適性を無視した異動がなされて許せない」といった不満を口にする人がいる。しかし、この不満は的外れな部分がある。もちろんそうしたことを組織側に訴えていくことはやってよい。会社は事業目的を達成するためにある組織であって、従業員1人1人の(ときに感情的な)望みや好みをそれよりも優先させることはない。だから、会社の原理下で「雇われる生き方」を選択したあなたにとって大事なことは、会社の意思による配置のなかで、最大限に自分自身を生かすべく働こうという心構えなのだ。


◆経営トップがヒトに対して心熱があるかどうかは重要問題
会社選びというのは、ある種、“くじ引き”的なところがあって、実際に働き出してみないとその会社の実態や性格はわからない。もちろんあなたは採用試験の段階でいろいろな情報を集めたかもしれないが、入社後、会社がイメージどおりでなかったという場合が十分起こる。特にその会社が「ヒト」をどう扱っているかは、外部からは見えにくい。しかし、会社がヒトをどう扱っているかは、その会社で長く働き続けたいかと思わせるかどうかに大きく関わってくる問題である。ひょっとすると、会社がどんな商材を扱っているかよりも大きな問題かもしれない。

経営者と会社組織は、事業を行う上でヒトをさまざまにとらえる。一つには、ヒトを「資源」ととらえること。そこでは、ヒトは使い減ったり、適性がよくなかったりすれば取り替えればよいという考え方に立つ傾向が強くなる。経営者は多様なヒト資源をどう組み合わせて、いかに最大限の成果を出すかをひたすら考える。ここでは、ヒトは「人材」という発想になる。

また一つには、ヒトを「資本」ととらえることもできる。ヒトは長期にわたって価値を生み出すものであり、生産のための貴重な元手ととらえる。したがって、一人一人に能力を付けさせ、そのリターンをさまざまに期待する考え方をする。すなわち、「人財」の発想である。

会社は、強力な経済合理性の下に動いているために、利益を獲得しようとする熱心さはどこの会社・どの経営者も同じである。が、ヒトをどう扱うかは千差万別である。「儲けたい」は会社・経営者にとっての原理的な強い生存欲求から来ているのに対し、「ヒトを大切にする」は、個々の経営者の理念・哲学から来ているからである。ヒトを「材」とみなすか、それとも「財」として目をかけるか、雇われる側の人間にとっては極めて重要な事項である。

詰まるところ、社長の考え方が会社の考え方をつくる。社長が利益拡大(金儲け)しか考えない会社は、社員も給料稼ぎ以外のことを考えないギスギスした集団になる。そこでは、カネが最優先にされ、ヒトは脇に置かれる。社長がヒトを大事にする思想を持っていれば、ヒトを育てようとする組織になり、またヒト好きなヒトが社員として寄ってくる。そのように社長がある考え方・方針を掲げてそれを強く推し進めれば、その考え方・方針に共感できない人は去り、共感できる人は組織に残る。そうして組織はその考え方の色に染まっていくものである。


◆「雇われうる力」を持て
会社という生きた装置は、それ自体、善でも悪でもない。経営者の理念・思想によって、あるいは、会社が抱く事業目的によって、善くも悪くもなる。

経営者や会社が目指す善い目的に対し、働き手個人もそれに共感しながら働けることは幸せである。逆に、経営者や会社が抱く悪い目的(たとえば、従業員を過剰に搾取して利益獲得を追求し、経営者個人が私欲を満たすこと)に、従属しなければいけない働き手は不幸である。

昨今頻繁に話題に上がるいわゆる「ブラック企業」は、さまざまな形で存続するだろう。そんなときに雇われる側が持たなければならないのは、悪い会社であれば潔くそこを辞めて、他でも十分に「雇われうる力」(専門用語で“エンプロイアビリティ”という)である。あるいは、雇われない生き方(自営業や起業など)を志向することである。いずれにせよ、自分が職業人として、強く自立・自律することが、最大の攻めであり、守りとなる。






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