基本は「展職」!場合により「転職」・結果として「天職」
◆職人の手と道具
私はかつて勤めた出版社で、
デザイン雑誌の編集をやっていたときがあります。
取材の中でも、
伝統工芸家や職人さんの取材はとても面白かったものです。
取材時に私が毎回、目を引かれたのは、
彼らの手と道具です。
長年の間、力と根気を入れて使った手や指は、
道具に沿うように曲がってしまいます。
また、道具も、彼らの指の形に合うように
すり減って変形してしまいます。
時が経つにつれ、互いが一体感を得るように馴染みあった手と道具は、
それだけで味わい深い誌面用の絵(写真)になります。
真新しい道具が手に馴染まず、なにか違和感がありながらも、
使い込んでいくうちに手に馴染んでいく、
もしくは手が道具に馴染んでいくという関係は、
職と自分との関係にも当てはまると思います。
つまり、
仕事人生の途上で出合う雇用組織・職・仕事で、
あらかじめ自分に100%フィットしたものなどありえない。
仕事内容が期待と違っていた、
人間関係が予想以上に難しい、
自分の能力とのマッチング具合がよくない――――など、
どこかしらに違和感は生じるものです。
ただ、そうしたときに職業人としての自分がやらねばならない対応は、
自分の行動傾向をその職・仕事に合うように少し変えてやる、
もしくは
自分の能力を継ぎ足したり、改善したりすることです。
または、その職・仕事の環境を自分向きに変えてやる、
あるいは、
些細な違和感を乗り越えられるよう
雇用組織との間で大きな目的を共有するという努力も必要です。
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◆最初の仕事はくじ引きである
ピーター・ドラッカーもこう言っています。
「最初の仕事はくじ引きである。
最初から適した仕事につく確率は高くない。
得るべきところを知り、
向いた仕事に移れるようになるには数年を要する」と。
私は職業人の最も重要な能力の一つは、
「状況対応力/状況創造力」だと思っています。
ドラッカーの言うとおり、
最初の仕事はくじ引きなんだから、
「はずれ」が出ることもあると楽観的に構える。
でもその「はずれ」は、自分の状況対応、状況創造によって
人為的に「当たり」に変えることができる。
結論的に言えば、
キャリアづくりとは、職業選択というくじ引き後の
職と自分の馴染み化(状況対応/状況創造)のプロセスなのだと思います。
そして結局、その馴染み化をうまくやれるかどうかは、
「自律マインド」です。
(“自律マインド”に関しては、詳細を次の機会に書きます)
努めて自律的であろうとする人は、
多少の職場の違和感、不満、不足、不遇をその場で乗り越えていける。
自律的になることがしんどそうで逃げる人は、
違和感、不満、不足、不遇を嫌って、すぐに居場所を変える。
(そして漂流回路に陥るリスクを自ら大きくする)
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◆3つの「テンショク」
目の前の職・仕事と自分が馴染み合うように状況を変えていく
その自律的な営みを、私は、「展職」と名づけています。
「展職」の「展」は、
“展(の)べる” とか“展(の)ばす”と訓読みし、
広げる、進める、変えるといった意味を含んでいます。
どんな職業・仕事も、展べる余地は無限にあります。
ただ、それをやるかやらないかは、すべて働き手本人の問題です。
「小さな役はない。小さな役者がいるだけだ」――――
とは、演劇の世界の言葉ですが、
それと同様に、
「つまらない仕事はない。
仕事をつまらなくしている人間がいるだけだ」ともいえます。
したがって、
長きにわたる仕事人生において、基本は「展職」です。
そして場合により、「転職」が必要かもしれません。
(私も、実際、4回もしました!)
しかし、転職は、あくまで手段です。
自分の目的観や方向性がある程度みえているなら、その選択肢は有効でしょう。
しかし、安易な動機でそのハイリスクのカードを切ると、
ますます状況を悪化させることがあります。注意してください。
まさに、転職が「転ぶ職替え」になります。
転びはじめると、それが“転びグセ”になることも往々にしてあります。
ですから基本は、ある忍耐さを持って、
「展職」に取り組んでみることです。
そうこうしているうちに、結果として、
「天職」、あるいは、
生涯を通じてやり続けたいライフワークのようなものがみえてきます。
(それは、「展職」についてくるごほうびみたいなものかもしれません)
私が、研修などで受講者のみなさんに言っていることは次のようなものです。
職・仕事との向き合いで、決して短気を起こさないこと。
キャリアは、短距離競争ではなく、
いろいろガマンの要るマラソンだから。