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2008年5月 1日 (木)

組織文化と組織風土の違い


さて、前回、このカテゴリーでは、

自律的働き方、他律的働き方、そして第三の「合律的」働き方

について書きました。

きょうは、その発展形で、組織文化/風土について考えてみたいと思います。



「赤福」よ、おまえもか!

昨年、2007年の1年を表す言葉は「偽」。

メディアのニュースでは、

心無い企業・団体・組織による偽装が次々明らかになりました。


中でも、三重県出身の私にとって、赤福の一件は実にショックでした。

新興の成金ブランドならいざ知らず、

信頼しきっていた伝統の老舗ブランドなだけに。。。


しかし、考えてみるに、

老舗で、業界地位がゆるぎなく、

オーナー家の強い支配経営であればあるほど、

こういった問題が起きやすくもあります。


つまり、

オーナー家の歴代経営者は、

自らの律が支配的かつ成功的な状況が永く続くことで

いつしか自律の悪い面である「我律」(=俺様ルール)の上に

あぐらをかいてしまいます。

「我律」はいつも、結果的に自己中心的な逸脱・暴走を招きます。


また、その下で働く従業員たちは、

何かおかしい、世間感覚とズレていると感じつつも

いつしか他律的に陥り、経営トップのやり方に従順になっていきます。

(おそらく、途中で勇敢に意見する人もあったかもしれませんが、

やむなく去っていったのだと思います)


真に強い組織、優れた組織というのは、

組織のトップも個々の構成員も、

自律と他律を超えて、「合律」という第三の行き方を志向する組織であると

前回の記事で書きました。


その文脈で赤福の一件をとらえるならば、

株式会社赤福という事業組織において

オーナー家の経営者は、

自分の律をゆがんだ形で押し進め、

社会の律(=他律)との間で“合律”を図らなかった。


また、関連する従業員も

いつしか事なかれ的に他律に流れてしまい、

製造者としての自らの良識や知恵(=自律)に照らし合わせて、

経営層との間で“合律”という創造的な行動をとらなくなっていた。


そうした状況が、次第に硬直した組織風土となり、

赤福という閉鎖的な空間の中で、

経営者や従業員に一種の重力となって作用していた。

そして問題は、世間ににじみ出た。

――――そのように私はみます。


こうした状況は、赤福に限ったことではなく、最近問題となった

石屋製菓(「白い恋人」の製造元)にしても、ミートホープ社にしても

同じような構図が見出せると思います。



文化は「手で耕すこと」・風土は「勝手に漂うもの」

確かに、赤福という商品自体には、300年の歴史や文化があります。

しかし、だからといって、

自動的に株式会社「赤福」という事業組織に、

それに釣り合う“組織文化”があるのでしょうか? 

――――そうとは限りません。


なぜなら今回のような一件は、

組織文化が引き起こしたのではなく、

組織風土が引き起こした、いわば風土病の一種だからです。


「組織文化」と「組織風土」はよく似通った意味で使われますが、

本記事のここからは、

これら両者の違いについて、私なりの解釈を書きたいと思います。


まず、両者の違いを図にまとめてみました。


03005

文化と風土の違いは、実は英語表記で考えると明確です。

文化は“culture”、「手で耕す」という意味です。

風土は“climate”、これは「天候」の意味です。


つまり、文化は、耕すという意志的・肉体的な努力が必要なのに対し、

風土は、人間の努力のあるなしに関わらず、

何かしらそこに漂い覆うものです。


また、文化は意志的であるがゆえに、

その中核には理念・哲学といった価値が必要で

(たいていは組織の中心者が強く設定します)、

個々の構成員はそれに対し、

共感・共振をもって積極的に受け入れようとする。

その結果、組織全体は、熱を帯び、動的に

ある種の方向性とスタイルを持って、外界の変化に対応しながら成長を志向する。


そこには、組織の中心者と個々の構成員が、

自律と他律をわきまえ、

合律という第三の行き方をつくり出していこうとする動きが

当然のごとく起こっている。

組織が持つこうした志向性・志向様式・帯熱を、

私は「組織文化」と考えます。



他方、「組織風土」は、成り行きで形成されてしまうものです。

風土の形成には、組織の中核となる理念や哲学めいたものは必要ありません。

風土は、多分に雰囲気的で散漫としたものです。

その際、風土それ自体は、善でも悪でもない。


ただ、もし、その組織に“有利なご都合・既得権益”のようなものがある場合、

組織の中心者は、それを「我律」として張り、

構成員たちは消極的「他律」として、

それを受け入れる(決して共感・共振はしていない)ときがあります。


こうした空気が組織を硬直的に覆って、

一種の重力として組織員の行動に歪みを生じさせ、習慣化したとき、

それは「風土病」となる。


私が、赤福の一件を、風土病と言ったのはこうした考えによるからです。



◆風土から文化への昇華ステップ

風土と文化は、きっちり明確に分けることはできませんし、

実際の企業は、風土面と文化面を混合して持っていることが

現実の姿であろうと思います。


しかし、私も仕事でさまざまな事業組織をみてきましたが、

独自に明瞭で強い組織文化を持っているところは数少ない気がします。


組織文化を形成するためには、

1)基軸となる価値(理念/哲学)を据える

2)その価値に対して、個と全が共振して、熱を帯びる

3)その価値を具現化した志向性・志向様式を共有する


これら3つのステップがざっくり必要になりますが、

1番目はどこの組織でも簡単にできます。

(組織が掲げる理念・ビジョン・バリューの表明はホームページに溢れています)

要は、2番目以降がうまく動き出すかです。


そのための第一歩は、

組織のトップ、および、個々の構成員が、

自律と他律を超えて、

合律的な創造解をつくり出そうとする意識から始まります。


赤福の名の由来は、「真心を意味する赤心慶福」だと聞きました。

経営者は我律を見直し、

そして関連した従業員は他律を排し、

何がお客様にとって「赤心慶福」であるのかという合律の目線から

謙虚な出直しを期待したいところです。




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