« 『エピソードで読む松下幸之助』 | メイン | 私は「理解」を売っています ~情報は理解されてこそ力を生む »

2009年6月10日 (水)

『電通鬼十則』など

■電通の<鬼十則>

一、仕事ハ自ラ「創ル」可キデ、与エラレル可キデナイ。
二、仕事トハ先手先手ト「働キ掛ケ」テ行クコトデ、受身デヤルモノデハナイ。
三、「大キナ仕事」ト取リ組メ、小サナ仕事ハ己ヲ小サクスル。
四、「難シイ仕事」ヲ狙エ、ソシテ之ヲ成シ遂ゲル所ニ進歩ガアル。
五、取リ組ンダラ「放スナ」、殺サレテモ放スナ、目的完遂マデハ。
六、周囲ヲ「引キ摺リ廻セ」、引キ摺ルノト引キ摺ラレルノデハ、
     永イ間ニ天地ノヒラキガ出来ル。
七、「計画」ヲ持テ、長期ノ計画ヲ持ッテ居レバ、忍耐ト工夫ト、
    ソシテ正シイ努力デ希望ガ生マレル。
八、「自信」ヲ持テ、自信ガナイカラ君ノ仕事ニハ、迫力モ粘リモ、
     ソシテ厚ミスラガナイ。
九、頭ハ常ニ「全廻転」、八方ニ気ヲ配ッテ一分ノ隙モアッテハナラヌ、
     サービストハソノヨウナモノダ。
十、「摩擦ヲ怖レルナ」摩擦ハ進歩ノ母、積極ノ肥料ダ、
    デナイト君ハ卑屈未練ニナル。


上記は、広告代理店・電通の第四代社長だった吉田秀雄が、
昭和26年、社員にあてた訓示です。
イメージが華やかな広告業界にあって、
このように頑固そうで古風な訓示は意外な感じもしますが、
ここに書かれていることは当時の電通社員のみならず、
すべてのビジネスパーソンに有効だと思います。


私もサラリーマン時代、何人も部下を持っていました。
この『鬼十則』をプリントして部下に配り、その反応をみることで、
伸びる人財と伸びない人材を知ってしまうことができたものです。


結局、人が伸びるかどうかは、
もっている能力の種類だとか、レベルだとか、適性うんぬんの問題ではなく、
「感度と気骨」の問題だと、私は確信しています。


感度とは、
人の態度・言葉に響く素直さ、
創造の引き金の敏感さ、
チャンスを見出そうとする意欲、
風の中に次の季節の香を嗅ぎ取る感覚、など。


気骨とは、
個として立つ精神、
己の信ずるところを積み上げる持続力、
表現を絞り出そうとする執念、
逆境をはねのける楽観主義、など。


「感度と気骨」のある人間であれば、この十則に奮い立たないわけがないのです。

* * * * *

『鬼十則』より少し柔らかめのものも紹介しましょう。
私が同様に部下に配っていたものがこれです。


Tom Peters著『The Pursuit of WOW !』の中で紹介されている13カ条です。
New England SecuritiesのCEOが社内に提示したフィロソフィー・ステートメントであると説明されています。


1. Take risks. Don't play it safe.
2. Make mistakes. Don't try to avoid them.
3. Take initiative. Don't wait for instructions.
4. Spend energy on solutions, not on emotions.
5. Shoot for total quality. Don't shave standards.
6. Break things. Welcome destruction. It's the first step in the creative process.
7. Focus on opportunities, not problems.
8. Experiment.
9. Take personal responsibility for fixing things.
  Don't blame others for what you don't like.
10. Try easier, not harder.
11. Stay calm!
12. Smile!
13. Have fun!


1. リスクを負え。安全にやろうと思うな。
2. どんどん間違っていい。間違いを避けようとするな。
3. イニシアチブを取れ。指示を待つな。
4. “解決”にエネルギーを注げ。“感情(対立・論争)”にエネルギーを使うのでなく。
5.  既存の決めごとを細々いじっているより、全体の質向上を狙え。
6. 枠を打ち破れ。壊せ―――それこそが創造の第一歩。
7. “機会”に焦点を合わせよ。“問題”にではなく。
8. ともかく「試せ」!
9. それをやり遂げることに責任を持つ。気に食わないやつの悪口を言っているヒマなどない。
10. 気楽に構えてやろう。深刻にやるのではなく。
11. 静かに集中!
12. そして「笑顔」!
13. 楽しもう!

* * * * *

政治の世界はもちろん、ビジネスの世界でも、昨今は、“statesman”がいなくなりました。
私がここで使う“statesman”とは、広く
「良識・賢慮に基づいた優れた言葉を発する人」を意味しています。

(ちなみにstatesmanは尊敬の意味を込めた「政治家」、
そこらへんにいるのはpolitician「政治屋」)

私はビジネス雑誌記者時代から、経営者の言葉に注意を払ってみてきました。
会社案内やHPでの挨拶、カンファレンスでの発言、入社式での訓示、社内報でのコメントなど。

そこには、どれもこれも、「企業を取り巻く経済環境は厳しさを増し・・・」とか、
「変化の時代に生き残りをかけ、選択と集中を・・・」とか、
「独自の付加価値によって利益の最大化を図ることが・・・」とか、
「グローバルな視野に立った変革を全社一丸となって・・・」とか、
まぁ、そこにはいかにもサラリーマン社長として梯子を上がってきた方々のスマートな言葉が並ぶ。

言語はスマートだが、心のスイッチに何か点火させるものがない。
受け手に響く肉声ではないのです。

その点、吉田秀雄社長の
「取リ組ンダラ放スナ、殺サレテモ放スナ」とか、
「周囲ヲ引キ摺リ廻セ」などというのは、鬼気迫るほどの肉声です。

New England SecuritiesのCEOが言った
12. Smile!
13. Have fun!
なんていうのも、単純だけれども、すごくイカした肉声です。

彼らは、優れて“statesman”だったと思います。

過去の記事を一覧する

Related Site

Link