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2009年7月10日 (金)

仕事とは 価値創造:その3種類

◆価値の創造としての仕事
前記事では、仕事を平面的な広がりの中でとらえてみましたが、
きょうは仕事を動的な変化でとらえます。

仕事とは、どのような行為をいうのでしょうか。それを示したのが下の図です。
3

仕事とは要するに、自分が取りかかろうとするコトやモノに対し、
当初の状態(Before)から、その後の状態(After)で、
いかに変換をし、価値を創造するかです。

その価値の創造には、図に示した通り3つのパターンがあります。つまり、

〈1〉 A→A+ (=その価値を増やす)
〈2〉 A→B  (=別のものにつくり変える)
〈3〉 0→1  (=新しく何かを生み出す)


厳密にはどんな仕事もこれら三つの混合ですが、仕事によってその割合が異なります。
例えば、営業の仕事というのは、主に売上げを増大させることですから〈1〉型です。
また、業務改善プロジェクトは〈2〉型の仕事です。
研究開発の仕事はもちろん〈3〉型となります。

また、働く個人によっても、〈1〉を強みとする人や、〈2〉が得意な人、
〈3〉がからっきしダメな人、といったような差が出ます。

◆自分の中の価値創造回路:能力と意志
私たちは、価値創造という仕事を、どのように成しているのでしょうか。
それを簡単にしたのがこの図です。
Photo

仕事は広い意味での生産活動あるいは情報処理活動といえます。
生産にしても情報処理にしても、まず原料やデータを仕事の行為者である自分に
インプット(Input)することが必要です。

私たちは、インプットのための基本動作として、みる、しる、きく、よむ、ことをします。

そして、次に私たちは、それをわかったり、かんがえたり、きめたりする。
コンピュータ技術の世界では、この段階をスループット(Throughput)という言葉を使います。

こうして自分の考えがまとまると、最後にアウトプット(Output)のための動作に入る。
かく、いう、つくる、だす、などです。

このように、私たちは、何か仕事を行なう場合には、
自分の持っている能力や意志をさまざまに駆使して、
インプット→スループット→アウトプットのプロセスで価値を創造していく。
このとき、自分の能力や意志は、いわば価値創造のための回路としてはたらいているわけです。

次回で詳しく述べますが、自分の持っているこの回路のよしあしが、
自分の仕事のレベルを決定づける
ことになります。
すなわち、この回路の中にどれだけ質のよい多様な能力が詰まっているか
(例えば、「みる」にしても、「見る・視る・観る」と能力の広がり・深さが異なるものがある)、
そしてどれだけ強い意志(これは回路を動かすバッテリーとなる)で活発に動いているか、です。

◆感謝の念に表れるよい仕事の思想
仕事について、もうひとつ触れておきましょう。
それは、仕事の“思想”です。

西岡常一さんは1300年ぶりといわれる法隆寺の昭和の大修理を取り仕切った
知る人ぞ知る宮大工の棟梁です。彼の言葉を紹介します。

「五重塔の軒を見られたらわかりますけど、
きちんと天に向かって一直線になっていますのや。
千三百年たってもその姿に乱れがないんです。
おんぼろになって建っているというんやないんですからな。

しかもこれらの千年を過ぎた木がまだ生きているんです。
塔の瓦をはずして下の土を除きますと、
しだいに屋根の反りが戻ってきますし、
鉋をかければ今でも品のいい檜の香りがしますのや。これが檜の命の長さです。

こうした木ですから、この寿命をまっとうするだけ生かすのが大工の役目ですわ。
千年の木やったら、少なくとも千年生きるようにせな、木に申し訳がたちませんわ。

・・・生きてきただけの耐用年数に木を生かして使うというのは、
自然に対する人間の当然の義務でっせ」。


                                                          ―――(『木のいのち木のこころ 天』より)


仕事という活動の入口と出口には、インプットとアウトプットがある。
ものづくりの場合であれば、必ず、入り口には原材料となるモノがくる。
そして、その原材料が植物や動物など生きものの場合、その命をもらわなければならない。
古い言葉でいえば「殺生」です。

そのときに、アウトプットとして生み出すモノはどういうものでなくてはならないか、
そこにある種の痛みや祈り、感謝の念を抱いて仕事に取り組む人の姿を
西岡さんを通して感じることができます。

「よい仕事」とは、物事をうまくつくる、早くつくる、効率的につくることではない。
それは「長けた仕事」というべきものです。
「よい仕事」とは、「よい思想」に根づいている仕事のことです。
思想というと何か堅苦しいことのように聞こえるかもしれませんが、
要は、真摯でまっとうな倫理観、道徳観、ヒューマニズムをベースにすることで、
それがもう充分な思想となる。

毎日の自分の仕事のインプットは、決して自分独りで得られるものではなく、
他からのいろいろな生命、秩序、努力によって供給されている。

であるならば、自分の仕事のアウトプットも、他への恩返しの気持ちで、
価値を増加させた形で生み出し、送り出してやらねばならない。

自分のアウトプットが、今度は他の仕事(=価値創造活動)のためのインプットとなり、
世の中全体(宇宙・自然界全体といってもいい)で「環」になっているからです。

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*詳細の議論は、拙著『“働く”をじっくりみつめなおすための18講義』で。

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