ゲーテ『ゲーテ格言集』
私はちょっとした贈り物として本を差し上げることがよくあります。
これまで、いろいろな本を贈ってきましたが、
その中でもっとも数多く使ってきたのがこれです。
『ゲーテ格言集』 (高橋健二訳、新潮文庫)
いま私の手元にあるものは、平成19年発行の第112刷(定価:400円)です。たぶん今はさらに増刷され、定価も変わっていると思いますが、それにしても初版が昭和27年ですから、威風堂々のロングセラーです。
わずか400円、薄い文庫本でありながら、
私はこれを“宝石”を贈っていると思っています。
ここに収められたゲーテの言葉の数々は、まさに不壊の宝石であって、その言葉を心に取り込んだ人の心を飾ります。
また、ゲーテの言葉の宝石は心を飾るだけでなく、力を湧き出してもくれます。
人生には、調子のいいとき、わるいとき、楽しいとき、苦しいときがありますが、
そのいずれの状況においても、この本を開いて、さーっと目を通すと、
そのときの自分の琴線に触れてくる言葉が必ず見つかります。
そして、そこから力を得て、その状況を乗り越えてゆく。
20代ではピンとこなかった言葉が、30代のある日突然に、すーっと見えてくる。
30代では素通りさせていた言葉が、40代になって初めて、ずっしり重く響いてくる。
古典たりえる偉大な本というのは
生涯を通じて、汲めども汲めども尽きない奥深さをもったものですが、
ゲーテの書き残したものはまさにそのひとつにちがいありません。
ゲーテの『ファウスト』をいきなり読んでみろと言われても、
多くの人にとってそれは難解すぎる。
だから、こうした名言集を最初に読んでみるというのは入門書として好適です。
実際、私もこの『ゲーテ格言集』を読んで、そこから出典元である『ファウスト』やら『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』、『ゲーテとの対話』(エッカーマン)などの読書にさかのぼっていきました。
さて、ここからゲーテの言玉をいくつか拾ってみましょう。
「考える人間の最も美しい幸福は、
究め得るものを究めてしまい、究め得ないものを静かに崇めることである」。
「内面のものを熱望する者は、すでに偉大で富んでいる」。
「才能は静けさの中で作られ、性格は世の激流の中で作られる」。
「自分に命令しないものは、いつになっても、しもべにとどまる」。
「人は努めている間は迷うものだ」。
「人間は現在を貴び生かすことを知らないから、
よりより未来にあこがれたり、過去に媚びを送ったりする」。
「君の胸から出たものでなければ、人の胸をひきつけることは決してできない」。
「世の中では、人間を知るということでなく、
現在目の前にいる人より利口であるということのほうが関心事である」。
「批評に対して自分を防御することはできない。
これを物ともせずに行動すべきである。
そうすれば、次第に批評も気にならなくなる」。
「真に行為する人間を作るものは、才能や、あれこれのことに対する技能ではない。
性格は人格にもとづくものであって、才能にもとづくものではない」。
「悪趣味な者に技術が結びつくと、これより恐ろしい芸術の敵はない」。
「見識の代わりに知識を持ち出す人々がある」。
「『なぜ、私は移ろい易いのですか。おお、ジュピターよ』と、美が尋ねた。
『移ろい易いものだけを美しくしたのだ』と、神は答えた」。
・・・どうですか、これらの言葉がどれだけ今の自分に響いてくるでしょうか?
強く響いてくるなら、それだけ今、自分が強く生きようとしているんでしょう。
深く沁み込んでくるなら、それだけ今、深く物事を考えようとしているんでしょう。
大きな人の大きな言葉は、
自分の強さ、深さに応じて光と力を与えてくれるものです。
ゲーテ関連では、加えて、次の本もお勧めします。
『ブッデンブローク家の人々』『魔の山』『ヴェニスに死す』などの名作を残した
ノーベル文学賞作家トーマス・マンが語るゲーテの本です。
偉人が巨人を語ったほんとうに内容の濃く重い一冊です。
『ゲーテを語る』
トーマス・マン著(山崎章甫訳)岩波文庫
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【追記】
過日、立命館大学でキャリアデザインに関する講演をやりました。
そして、その運営にあたっていただいた同大学経済学部「キャリアデザインプロジェクト」のスタッフ一同から、寄せ書きが届きました。
当日の講演の受講者の感想を切り貼りしてくれたもので、内容は私にとってとても勇気づけられるものでした。
スタッフ16名のみなさんに感謝の意を込めて、
後日、私は『ゲーテ格言集』を16冊贈りました。
スタッフのみなさん、どうもありがとう!