植物が経る「春化」というプロセス
東京では毎冬1回はドカ雪が来るものだが、それが一昨日来た。
今年大雪に見舞われている北国のかたがたには申し訳なくも、
東京では景色が一変するので、特に子どもたちなどは喜ぶ。
昔はイヌも喜び回っていたけれど(歌にもそう唄われた)、
最近は部屋飼いが多くなったせいか、
寒がってテンションの上がらないイヌもいるらしい。
朝の散歩に出かけると、近くの雑木林は白化粧をしてひっそりとしている。
葉っぱをすべて落とした裸の木々は、凍える中でも凛と立っている。
やせていて寒さに弱く子どものころからよく風邪をひいた私は、
いつも冬の木立を見ると
「木は動くこともできず、服を着ることもできず、かわいそうになぁ」と思った。
しかし高校のとき、
百科事典か何かを見ていたら「春化」(しゅんか)という単語にでくわした。
春化とは、温帯に生息する植物の多くが、冬の一定期間、
低温にさらされることで花芽形成が誘導される、その過程を言うらしい。
桜もその春化が必要な樹木で、
冬のこの厳しい寒さを経ないことには、春にあの花を咲かせないのだ。
「寒さも桜には意味のある試練なのだなぁ」と
高校生ながらに人生訓じみたものを引き出した私は、
仲の良いクラスメイトたちにそのことを感動ぎみに話したのだが、
「話が固いよー」といって一笑されてしまったことを思い出す。
そのとき一笑した彼らも、もうベテランサラリーマンで、立派な父親たちになった。
彼らは、春化の話をいま聞くとどう感じるだろうか……。
……そういえば、
演歌の沁みてきさ加減も、どことなく春化の話と通底しているなと思いつつ。