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2012年5月10日 (木)

「転職」を考えるとき〈2〉~現職を「卒業する・去る・逃げる」


   「この会社もう辞めようかな」「こんな仕事に切りをつけて転職したほうがいいかな」と思ったとき、選択肢は4つです。

〈A〉留まる
   ・1:現職場で「我慢する」
   ・2:現職場で「奮起する」
〈B〉動く
   ・3:社内で「異動する」
   ・4:社外へ「転職する」


◆「留まる」のも立派な選択肢
   最も簡単でリスクの少ない選択肢は、現在の環境で我慢し、様子見することです。しばらく我慢すれば、いやな上司も代わるかもしれないし、会社の空気も変わるかもしれない、そもそもほかに行けるところもないし、などといった受身的な対応です。自分のキャリアをどうしたいかという主体的な意志が弱い場合は、ヘタに動かずにいたほうがいいというのは処世術として正しいかもしれません。ただ、仕事が苦役であり、ストレスの蓄積に耐えるばかりの人生でいいのかという大きな自問は残ります。

   一方、そこに留まって現在の環境を主体的に変えるという勇敢で賢明な選択肢もあります。昔から「石の上にも3年」とありますが、これは実に処世の術を言い当てた言葉です。1つの仕事、1つの組織に丸3年かかわっていると、いろいろなものがみえてきますし、身についてきます。不思議なことに、丸2年と丸3年の差は大きいものです。2年ではみえなかったものが、3年いると忽然とみえてくるものが多いのは、過去から大勢の人が経験するところです。

U-tsk 01


◆転職の前に「展職」を試みよ
   私は、企業の研修などで「転職というワイルドカードを切る前に、どれだけ“展職”を試みていますか」と、受講者に質問を投げかけています。
   「展」とは、展(の)ばす、展(の)べるなどと訓読みし、広げる、広がるといった意味です。つまり「展職」とは、いま自分が行なっている職・仕事の可能性を広げ、進化・発展させていくことをいいます。
   いま目の前にある仕事が、つまらないものだと思えばいつまでたってもつまらないもののままです。自分の能力とミスマッチ(不適合)だと思えば、いつまでもミスマッチのままです。しかし、どんな仕事にも進化・発展の余地はあるはずだと思ってやれば、どこまでも進化・発展する可能性があり、面白さが発掘できます。また、自分自身も仕事や環境に馴染むように変えていける可能性は十分にあります。

   演劇の世界に、次のような言い方があります。
   ───「小さな役はない。小さな役者がいるだけだ」。

   こんな会社、こんな仕事と思っても、そこで、留まる勇気を出し、与えられた環境の中で最大限その仕事を大きく引き伸ばす挑戦をすることは、立派な選択肢です。そこで何らかの結果を出してから、次の舞台を考えても遅くはないのです。むしろ、そこで結果を出してからのほうが、かえってよい職業人生をつくる経路となることがあるのも事実です。
   ネット販売会社Amazon.co.jpの立ち上げ期に本のバイヤーとして活躍された土井英司さんは、著書『「伝説の社員」になれ!』で、まさにその点を忠告してくれています。───

「転職は、今いる会社で実績を積み、
『伝説』をつくってからでも遅くはありません。
いや、実績を積んだときはじめて、転職するもしないも自由な身になれるのです」。


   「こんな会社でくすぶっていては人生の時間がもったいない。早く転職しなければ」と焦る気持ちはわかります。人材紹介業の発達している時代ですから、登録して面接をすれば、何がしかの会社に移れるかもしれません。しかし、そのときの自由は、実は“小さな自由”です。
   現職でしっかりと実績をつくる。望ましくは伝説の1つくらいつくる。自分をそういう状態にすれば、会社から「今度、新規のプロジェクトを任せたいんだが」と昇進の機会が得られるかもしれませんし、他社から引き抜きのオファーだってあるかもしれません。そこまでいかなくても、明快な結果を出すまで自分を成長させたのであれば、転職するにしてもその候補は広がってきますし、実際、面接の際には、その実績が強力なアピール材料となり、合格を勝ち取れる確率は相当高まるはずです。あるいは、先の土井さんのように、世間が騒ぐような伝説をつくってしまうと、独立起業という選択肢も見えてきます。つまり、現職環境から粘り強く結果を出すことで、もっと幅広い選択肢が手に入るようになってくる。さらに言えば、選択肢が向こうから寄ってくる。これが“大きな自由”です。

   ですから、もしあなたが、いまの会社で転職しようかどうしようかウジウジしている状態であれば、あと1年なら1年、2年なら2年と期間を区切り、「伝説をつくるぞ!」と目標を決めてがむしゃらにやることです。それができたとき、いまよりはるかに豊富な選択肢を手に入れることができているにちがいありません。
   「ここで結果を出せない者は、他に移っても結果を出せない」ととらえ、自分を厳しく立たせることです。

◆「動く」場合の底にある動機は何か
   とはいえ、「キャリアが行き詰ってどうしようも手がない」、「こことは違う場所に明らかに大きなチャンスがある」、「現職場には抜き差しならない重大な問題がある」などのときは、やはり、その場から動くという選択肢が現実味を帯びます。
   もし、現在の雇用組織の内に、他に移ることのできる適切な場所があれば、そこに「異動」するのがリスクの低いやり方になるでしょう。同じ組織内であれば、転属に伴うわずらわしい手続きや費用的なロスもないでしょうし、組織文化や仕事のやり方といった環境面での変動も少なくてすみます。一般的に、複数の事業を持つ大企業ほど、組織内には多様な職場や職種転換機会があり、その意味で恵まれた環境にあるといえます。

   そして現在の雇用組織内に適切な異動場所や機会がないという場合、いよいよ組織外へ「転職」という選択になります。

   転職の動機は人さまざまに生じます。第1に、現職に対する不満からくる動機です。仕事の内容と自分の能力がマッチしていない、給料が少ない、労働環境が悪すぎて身体を壊しそう、上司との人間関係で強いストレスを感じている、会社に将来性が持てない、今の仕事には成長期待が持てないなどです。これらは言ってみれば、〈不満・不遇〉動機です。この場合の転職は、現職から「逃げる」といった色合いが出ます。

   また第2として、上昇志向による転職動機があります。つまり、現職環境に強い不満があるわけではないが、もっと自分の能力を高めたり、活躍舞台を広げられたりする先が他に見つかった場合、そこを出たいという欲求です。そこには何らかの建設的な目的が存在します。これはつまり、〈向上・挑戦〉動機といえるでしょう。このときの転職は、現職を「卒業する」といった色合いになります。

   さらに第3として、家族の介護のためにUターンをしなければならなくなった、出産・育児を迎えることになり、労働時間の少ない仕事に変えざるをえなくなったなど、自分の意志にかかわらずやむをえない事情が生じた場合の動機もあります。これらは、〈非意志〉動機といっていいかもしれません。このときの転職は、現職を「去る」色合いです。

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◆転職は劇薬である。副作用も大きい
   転職が1番目の〈不満・不遇〉動機のとき、特に注意が必要です。現職場の不満・不遇解消のために転職することは、それ自体もっともな動機ですし、実際、多くの人が転職によってそれらネガティブな状況を解消する例もあります。
   しかし、転職という選択を安易な逃げの意識で使うと、デメリットが生じてくることを留意しなくてはなりません。つまり、忍耐強さがなくなり逃避グセがついて、2度、3度と同じような転職を繰り返す可能性が高まってくる。そうなれば、社会が自分を安定性のある人材として評価しなくなるといったデメリットです。それに第一、逃げのみの意識の人は、転職の面接のときにそれが表に出てしまい、強いアピールができません。

   したがって、仮にあなたが〈不満・不遇〉のネガティブ要因で転職を考えているなら、同時に自分のなかで、向上や挑戦といったポジティブな理由を見つけることが大事です。転職は、ある意味、「劇薬(あるいは外科手術)による治療」というべき手段であって、即効性がある反面、副作用も強い。劇薬にしても手術にしても、身体がある程度健康でない場合には使えないのと同じように、そもそもの自分の意識がしっかりとしていなければ、結局、転職に振り回される結果になるからです。

   さて、本記事では、転職をなにかコワイものとして書いたきらいがありますが、転職は「ハイリスク・ハイリターン」なだけです。リスクをきちんと制御すれば、リターンも大きいのです。私自身を振り返ってみても、数度の転職によって自分の人生は、文句なしに広がり高まったように思います。
先ほど転職は劇薬だと言いましたが、血の気があり余り、志が明快な人にとっては、むしろ転職は滋養強壮剤となって、さらに活動を増進させるものになりえます。

   「転職したほうがいいのかな」と思っている人への私からのアドバイスは、
   「留まる」もよし。「動く」もよし。
   ───未来に向かって拓く心があれば、どちらの方向にも正解はある(つくれる)!

  もう1つ。
  ───普段の「展職」が基本。ときに「転職」という手段。
  そして結果として「天職」がみえてくる。




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