「転職」を考えるとき〈3〉~転職のリスク
神代植物園(東京・調布市)にて
◆No risk, no gain~リスクとチャンスは事の両面
「この会社もう辞めようかな」「こんな仕事に切りをつけて転職したほうがいいかな」と転職を思い立ったとき、選択肢は4つです。
〈A〉留まる
・選択1:現職で「我慢する」
・選択2:現職で「奮起する」
〈B〉動く
・選択3:社内で「異動する」
・選択4:社外へ「転職する」
世の中、何事においても、大きな成長、多くの収穫を得ようと思えば、なんらかの危険を冒して行動に出なければなりません。つまり「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」、「No risk, no gain.」です。
確かに長い一生の間には、何もせず安穏と構えていて「棚からボタ餅」ということも何度か起こるでしょうが、この変化の激しい時代、ボタ餅を待っている間に自分がどんどん不利な状況に追い込まれてしまうことのほうが多いかもしれません。
したがって、現代の生活にあって私たちは常にアタマを働かせて、ここは留まる勇気を持つべきなのか、それとも思い切って動くことを仕掛けるときなのかを都度都度に判断していくことが必要になってきます。
下図は、「留まる」ときと「動く」ときのチャンスとリスクを表したものです。
選択1の「現職で我慢する」の場合、いずれ職場環境が変わったり、嫌な上司が変わったりして、状況が多少好転するチャンス(=C1)がある反面、そのままストレスを抱え続け健康を害したり、現状が永遠に変わらないリスク(=R1)があります。
選択2の「現職で奮起する」は、自分の奮起の結果、新しいキャリア展開が開けるというチャンス(=C2)があると同時に、奮起が徒労に終わり、余計に事態がこじれるというリスク(=R2)を抱えます。
一方、選択3・4のように、動くことを仕掛ける場合には、もちろんその先に大きなチャンスが開けますが(=C3・C4)、同時にそれ相応のリスクも負わなければなりません(=R3・R4)。いずれにしても、チャンスとリスクは事の両面であり、私たちは、それらを総合的にてんびんにかけて判断しなくてはなりません。
◆認識すべき6つのリスク
そうした総合的判断をする場合、特に重要となるのはリスク認識のほうです。キャリア形成は自分の生活・人生に直結しているだけに、華々しい大勝ちを狙うよりも、「マイナスを最小限にして前進・改善を得るキャリア」を優先させることが肝心だからです。チャンスの拡大は無条件に受け入れてもいいものですが、リスクの拡大は無防備ではいけません。
そのために、まず何よりもリスクを充分に意識することです。ここでは、動くにせよ、留まるにせよ、発生するリスクの主なもの6つを挙げておきましょう。
①【経済的リスク】
一般的に転職はコストがかかるものと認識すべきです。コストとは、まず金銭面以外で転職活動(情報収集や人材紹介会社への登録・面談、そして採用面接など)の労力と時間があります。金銭面では、転職のタイミングによって現職場からボーナスの満額が受け取れない、(以降定年まで働くとしても)勤続年数の短分化によって退職金・年金の積み上がりが小さくなる、転職による住居移転があればその引越し費用が発生する、などがあります。また、転職先が強い成果報酬型の賃金制を敷いている場合、年収が上がると思って転職しても、いざそこで結果が出せなければ年収ダウンしてしまう可能性もある。これらが言ってみれば転職の経済的リスクです。
一方、今の組織を辞めずに社内異動で変化を試す場合には、この経済的リスクは大幅に小さくなるでしょう。社外転職と社内異動を比べれば、前者の経済的リスクは大きく、後者のリスクは小さいと言えるでしょう。
②【能力適合リスク】
仕事や職場というのは「聞いていたのと、実際やるのとでは大違い」なことが多いものです。社内異動にしろ、社外転職にしろ、次に任される仕事・職種の内容を聞いて、自分が納得をしてキャリアチェンジに「GO」をかけるわけですが、実際のところ、自分の能力に本当にマッチするかどうかは、その職場に配属されてやってみないとわからないものです。上司や取引先にどんな種類の人間がいるのかも、事前にはなかなか推測ができません。そこにリスクが発生します。積極果敢に職変えをしてみたものの、この仕事は「なんだかちょっと違う」といって空振りに終わるケースも起こりえるのです。
しかし、だからといって、もし現職の内容に不満を抱えている場合、そこに留まっていることにもリスクがある。自分の能力を眠らせてしまうというリスクであり、働きがいを永遠に得られないリスクです。
③【人間関係リスク】
転職をすることは新旧2つの職場で人間関係のリスクを負うことになります。1つは新しい職場でうまく人間関係が構築できるかというリスクと、もう1つは、転職して去っていくことで現職場の人間関係が気まずくなってしまわないかというリスクです。
また、動くことを仕掛けないで現状に留まることにもリスクは生じます。固定化した人間関係は馴れ合いを生みやすいですし、狭いネットワークに閉じこもりがちになることは自分の成長機会を少なくすることにつながりやすいからです。
④【健康的リスク】
転職によって仕事の環境を変えることは、心機一転ということもありますが、その準備段階、実行段階においてかなり精神的、肉体的に負担をかけることになります。そうした意味で、転職時は健康を損なうリスクが高まるのが事実です。
他方、現職の環境がストレスに満ちていて、それでもしばらくは様子見を決め込んだ場合も同様に、健康にリスクが生じるものです。仕事環境への不満や不安、上司との関係悪化などにもかかわらず、現状に留まって次のチャンスを待つことは、相当に精神的、肉体的な負担を強いるでしょう。
⑤【加齢的リスク】
これは「動く/留まる」「現職に満足している/していない」にかかわらず、誰にも当てはまることですが、年齢が高くなればなるほど、諸々のリスクは大きくなってきます。
例えば、歳とともに家族に対する責任や社会的責任が増していき、その結果、保守的になり思い切ったことができなくというリスク。能力的な柔軟性や伸びしろが限られてくるために、キャリアの選択肢が硬直化するというリスク。そして当然、体力がピークを過ぎ、こなせる仕事量が減少するというリスクが増大します。一般的に、転職案件は30代半ばからのものがぐっと減るのは、こうしたリスクを採用企業側が認識しているからです。
⑥【精神的リスク】
このように、転職するにせよ、しないにせよ、リスクはさまざまに生じます。しかし、リスクを恐れる必要はありません。リスクは適切に認識しさえすれば、それを低減できる部分がかなりあります。
むしろ恐れるべきは、「リスクを恐れて何もできないでいる自分」です。
これが最後6番目の精神的リスクです。所詮、リスクといっても、平成ニッポンのビジネス社会でのリスクではないですか。命まで取られるわけではありません。
何よりも大事なことは、日頃の仕事の中で、リスクを凌駕するほどのチャンスを見つけ出すことです。それができれば、「リスクを恐れる自分」など吹き飛ばせるはずです。それで結局、社内異動だろうが社外転職だろうが、それは手段にしかすぎないんだと思うことができ、大胆に行動が起こせます。そういうエネルギーが自分の中に満ちてくれば、「物事はうまくいく、いや、うまくいかせてみせる!」という心持ちになります。それが“意志あるキャリア開拓”の姿というものです。