留め書き〈031〉~素の能力・素の人間
お金をたくさん稼ぐ能力というのは、言ってみれば、
何かスポーツで得点を上げるのがうまいことに似ている。だから、金持ちになることが特別すごいことではなく、
たとえば歌が上手である、すばらしい絵が描ける、
ものづくりがうまいことも
それに負けないくらいすごい能力なのだ。そうした能力に恵まれながら、
得点競争に興味がなく、能力を換金化することに無頓着で
ひたすら他者を喜ばせることだけでおおらかに満足する
そんな豊かな人が世の中にはたくさんいる。
アランは『幸福論』のなかでこう書く───
「古代の賢者は、難破から逃れて、すっぱだかで陸に上がり
『わたしは自分の全財産を身につけている』と言った」。
仮にいま自分が、無人島のように、年収という得点獲得競争のない世界、
能力を換金化しようのない世界に放り込まれたとき、
いったい素の自分にどんな能力があるのだろうか。
素の人間としてどんな魅力があるのだろうか。
そして何よりも、生き物としてそこで存続していけるのだろうか。
その想像は少し自分をどきっとさせてくれる。