社内に「働くことの思索の場」を恒常的につくる
いまでは日本人もよく口にする英単語─── 「ワンダフル(wonderful)」。
“wonder”は「あれ何だろう・不思議だ・知りたい・驚き」という心の働きを表わし、“ful”はそれが満ちた状態。そう、この世の中は不思議さに溢れ、知りたいと思うことに満ちています。そして人間の好奇心、解明能力もまた無限です。
私は今年初めから、本居宣長の国学、柳田国男の民俗学、白川静の漢字学、南方熊楠の博物学、梅原猛の日本学などにかかわる本をあらためて眺めています。一個人の探究心が(必ずしも大学などの権威的研究機関に依らない形で)独特の知的世界を創造することをみるにつけ、まさに知の巨人たちの生涯を懸けた仕事に「ワンダフル!」と称賛を送りたい気持ちです。
私も創業まる10年を経て、「働くこと・仕事・キャリア」にかかわる教育コンテンツがある程度溜まってきました。もちろん、「働くことは何か?」という大きな問いに対し、いまだ“wonder”は尽きることがありません。ただ同時に、これまでに考えてきた範囲でそれを体系的に整理することはとても有意義なことです。先の知の巨人たちに比べればささやかな知的創造世界ですが、これも自己訓練のひとつとして課しています。
───それでまとめたのが『働くこと原論』です。
(→ここをクリックいただければ、PDFファイルで一覧いただけます)
現状、次の5つのジャンルに分け、全体で39のユニットで構成しています。
1)仕事・キャリア Work and Career
2)知識・能力 Knowledge and Ability
3)マインド・価値観 Mind and Values
4)個人と組織・人とのつながり
Individual and Organization / Human Relations
5)仕事の幸福論 Happiness in Working Life
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さて、きょうはさらに昨年から導入が多くなっている新しいタイプの研修プログラムを紹介します。それは私が「連続講座型」と呼んでいる企業内研修・セミナーです。お客様企業の要望に沿って、上の『働くこと原論』の中からコンテンツを選び出し、それを自在に組み合わせて構成するプログラムです。たとえば、次の図のようなものです。
・社員の働く意識を日常的に活性化させたい。
・部署や年齢を越え、「仕事・キャリア」についてあらためて考え
討論する場を設けたい。
・日ごろの業務に忙殺される中で、いったん立ち止まって仕事の根本を見つめなおす、
自分を見つめなおす機会を与えたい。
・「グローバル人材」育成が急務だが、言語(英語)能力にも増して大事なことは、
普遍的な考え方で「働くこと」の哲学をもつこと。
そのために仕事にまつわる基礎概念をきちんと築かせる教育が必要ではないか。
・1日研修や2日研修のような単発的な形ではなく、
期間継続的に行われる形態はないか。
また節目研修のようにある年次社員を一斉に集めてやる形ではなく、
興味をもった社員たちが「学びの座・思索の場」として寄ってくる形はないか……
この連続講座型のプログラムは、「半日(3時間半)×3回」や「2時間×6回」など柔軟的に構成し実施します。実施間隔も週ごとや隔週ごと、月ごとなどさまざまに対応します。
また、こうした連続ものにすることで、ある受講期間が生まれます。1日研修や2日間研修ですと、時間的には講師と受講生、受講生同士の接触は点になります。ところが全体で2~3カ月の長さになれば、1つの学習目的下にさまざまな交流ができます。例えば、メールマガジンやメーリングリストといったツールでコミュニケーションを図れば、より効果的な学習体験が可能になります。またそこにトップからのメッセージも流すこともできます。こうすることで、学びの場が時間的にも空間的にも厚みを増すわけです。
いずれにせよ、社内のどこかに恒常的に「働くこと・仕事・キャリア」を考える場が設けられていて、そこで学んだ人たちが社内のあちこちで、思索・共有したことを語りかけていく。そして上司も真正面から仕事観のレベルで対話ができる。また経営層もそうした学びの場にメッセージを送り続ける。こうした日常的な取り組みが組織の風土や文化に影響を与え、「うちの会社は普段から働くことに対し意識の高い会社なんだ」と社員1人1人が感じはじめる。
私はこうした働くことに対しての思索や哲学の習慣が、静かだけれどもしっかりと底流に流れる会社が、ほんとうに成熟した会社なのだと思います。その流れの上に、組織としての技術力があり、資金力があり、信用があり、ということになれば、それはもう鬼に金棒です。