構え・撃て!狙え!
きょうも拙著『ぶれない「自分の仕事観」をつくるキーワード80』から
1キーワードを紹介します。
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「構え・狙え・撃て!」 ―――ではない。
「構え・撃て!狙え!」 ―――である。
米国の人気経営コンサルタント、トム・ピーターズは、
「Ready-Fire-Aim」ドクトリンを提唱しています。
つまり、ともかく「撃て!」と。撃った後に狙えばいいのだと。
彼はこうも言います。
---「ころべ、まえに、はやく」。
私は自身が行う「プロフェッショナルシップ研修」
(=一個のプロであるための基盤意識醸成プログラム)において、
「働く目的をつかむ・働きがいの創造」のパートで、このピーターズの考え方を紹介しています。
つまり、「構え」(=基盤能力・基盤意識をある程度つくっ)たら、
ともかく「撃て!」(=自分試しをせよ・行動で仕掛けてみよ)ということ。
そして結果・反応をみて、修正をかける。そして再度「撃て!」。
そうする繰り返しの中で、
働く目的という「狙う的」が、次第に確実に見えてくる―――ということです。
いまのサラリーマン諸氏(私の大事な研修のお客様であるのですが)をみていると、
みずからの人生・キャリアについて、
事業計画のように事前計画を練り、諸分析をやり、効率的に資源を投入し、
最大の効果をあげなければならないように考えている人がとても多い。
困ったことに、人事関係者までもが、
そういうことが「自律的キャリア形成」なのだと思い込んでいる。
だから、キャリアデザイン研修といえば、
手の込んだ自己分析をやらせて、
「10年後のあなたはどうありたいか?」のキャリア設計表を書かせる。
そして、それで何かいい研修をやったような気になる。
その点、私は、 “人生・キャリア「行き当たりばっ旅」論者” です。
「プランド・ハプンスタンス理論」(Planned Happenstance Theory)提唱者の
ジョン・クランボルツ教授(米スタンフォード大学)が言うように:
「キャリアは予測できるものだという迷信に苦しむ人は少なくありません。
“唯一無二の正しい仕事”を見つけなくてはならないと考え、
それをあらかじめ知る術があるはずだと考えるから、
先が見えないことへの不安にうちのめされてしまうのです」。
―――『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)
どれだけていねいに5年後・10年後のキャリア設計図を練ってみたところで、
どれだけ精緻な自己の性格診断をしたところで、
どれだけ希望どおりの会社に入ったところで、
その後、はたして自分の望みの仕事に出合い、満足のいく職業人生を送れるかどうか、
それはまったくわからないのです。
人生とは奥深きかな、
初速度と打ち出し角度の数値さえ与えれば、
着地場所と着地時間が確実に算出できる物理運動とは違うからです。
仮に、万が一、すべてのことが想定どおりにいったとして、
「そんな想定の範囲内」の人生などどこが面白か、です。
私はキャリア設計すること、自己分析することが無意味だと言っているのではありません。
ときに結果が予測できない未知の世界に身を投じ、
揺らぎながら、もがきながら状況をつくり出していく、
そうしたたくましさこそ、机上の設計や自己分析よりもはるかに大事だといいたいのです。
小賢しく効率的に振舞おうとするから、かえって不安になって縮こまる。
まずはいいから「撃ってみろ!」。
そうすれば「狙う的」は行動の後に見えてくる!―――
従業員・部下にこう勇気づけるのが、経営者・上司の真の助言というものです。
人生・キャリアの選択に“あらかじめの正解値”などない。
その後の奮闘でそれを「正解」にできるかどうか―――それがあなたの人生力・キャリア力です。
【すべてのビジネスパーソンへの問い】
□5年後・10年後の姿が思い描けないことを「悪いこと・情けないこと」だと感じてしまっていないか?
□おぼろげながらでも「想い」を抱き、行動で仕掛けているか?
□過去3年間を振り返ってみて、未知の中から自分の道筋ができてきたなと思えるか?
【経営者・上司・人事の方々への問い】
□自己分析やキャリア設計をやらせることがキャリア形成支援だと思っていないだろうか?
□行動で仕掛けることを奨励しているだろうか?
□みずからが積極的に未知に飛び込み、状況をつくりだすことを背中で示しているだろうか?