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2010年4月 7日 (水)

「働くこと」の問題雑考〈上〉~「モチベーション」概念の普及

Pinkdrive02

外来語に乗せた概念の普及―――
「マネジメント」しかり、 「リーダーシップ」 しかり、 「イノベーション」 しかり……。
(たいていは、『HBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)』あたりが仕掛け人)

で、いよいよ次は「モチベーション」

もちろんビジネスの現場ではすでにこの言葉は人びとの口々に上がっているのだが、
その頻度ほどには「モチベーションとは何か?」が議論されていないし、
そもそも「自分のモチベーションはどこにあるか?」といった根っこの自問に、各々が答えられてもいない。

そんな「モチベーション」概念の普及に加速をつけそうなのが、
ダニエル・ピンク氏が昨年末に刊行した
『DRiVE : The Surprising Truth About What Motivates Us』である。
(翻訳版は間もなく出版されるとのこと)

アル・ゴアのスピーチライターをしていたピンク氏は、
これまでも『Free Agent Nation』や『A Whole New Mind』など
トレンドセッター的な志向で著述を重ねてきた。

そして彼が今回、キーボードを走らせたのが「モチベーション」である。
相変わらず流行りの表現で事を切り出す能力は逸品で、
この著作のバズワードは、

○Motivation 3.0
○Type X vs Type I
○The Three Elements; Autonomy, Mastery, Purpose

「モチベーション3.0」に関しては、先日発売になった『週刊東洋経済』誌にも特集が組まれていた。
ピンク氏は、モチベーションを3段階の進化でとらえる。
(原著では、オペレーションシステムのアップグレードという表現で書いているが)

・モチベーション1.0=生物的に生き残ろうとする動機
・  〃  2.0=賞罰(アメとムチ)による外発的動機:Type X の働き方
・  〃  3.0=自分の内なる声による内発的動機:Type I の働き方

そして、モチベーション3.0・Type I の働き方の時代にあって大事な要素は、
「自律性」「卓越性の追求」「大きな目的」 だと指摘する。

私はこの本を彼の以前の著書と同様に面白く読ませてもらったのだが、
根本的には、モチベーションを時系列的に3つでざっくりとらえたそのざっくりさ加減に不満を覚えている。
(まあ、ベストセラーになるものは、そうした論の思い切りよさ・単純さがないといけないものだが)

人びとの働く動機は、そもそも時系列進化ではなく、
空間的まだら模様としてとらえられるべきだと思う。
(これはマズローの五段階欲求も同様だ)

つまり、大昔のキツい労働現場であっても、
「3人のレンガ積みの訓話」が示す通り、 
食うためにレンガを積んでいる人間ばかりではなく、
大聖堂(あるいはピラミッド)建築のために働くという人間は少なからずいただろう。

また、一人の人間の中で、「パンを得るため」、「後世に残る仕事に貢献したいから」
という働く理由は複雑な模様を描いて心の中で混合している。

つまり、モチベーション1.0も2.0も3.0も、
歴史上いつも同時進行だったし、
かつ、一人の人間の中でいつも同居しているのだ。

とはいえ、最終的に著者の主張したいこと、時代が向かうべき方向性に関しては、
私は大いに賛同する。
これからのすべての働く人間に重要な3つのことは
―――「自律性・卓越性・大目的」だ。

健全なモチベーションはこの3要素によって湧いてくるし、
それをベースに働いている個人・組織は、
ますますこれらを補強する善循環がはじまる。

「モチベーション」という概念が普及し、
モチベーション喚起の重点を内発的なところにシフトしていこうとする意識が普及することは、いい流れである。
「働くこと」の問題が、本格的な、意味論・価値論に入っていくためには、
こうした概念が社会の下地に敷かれることが不可欠である。

次回は「QWL(Quality of Working Life)」「ディーセントワーク(Decent Work)」など
働くこと・仕事生活の「クオリティ」について触れます。


【補足考】
●ピンク氏の『DRiVE』のセミナービデオはこちら

●ピンク氏はモチベーションを「内発的/外発的」という軸だけで切り取ったが、
私はそれに加えて「利己的(自分に閉じる)動機/利他的(他者に開く動機)」も
見逃してはいけないと思っている。
参考記事はこちら 

●内発的動機の理解を深めるために:
心理学者チクセントミハイの「フロー」理論
参考記事はこちら 

●動機・行動心理に関する理論書はさまざまあるが、その中でよいと思うのは:
『仕事と人間性-動機づけ・衛生理論の新展開-』
フレデリック・ハ-ズバ-グ著、北野利信訳
(東洋経済新報社)

●また、リンクアンドモチベーション社は
モチベーションをエンジニアリングし、商用サービス化するという試みをしている。
『モチベーションエンジニアリング経営』
小笹芳央著、勝呂彰著
(東洋経済新報社)

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