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2010年5月19日 (水)

地・風・火・水―――能・観・志・人

Zyumoku

◆キャリアをつくる4大要素
地球の4大要素をよく「地・風・火・水」などという。
これにならって、個々のビジネスパーソンがキャリアをつくる4大要素をあげるとすれば、
私はそれが「能・観・志・人」ではないかと思っている。

つまり、私たち一人一人が職業人として、
自分なりに満足のいくキャリア(働き様・生き様)を体現していくためには、
「能」を磨き、「観」をつくり、「志」を抱き、「人」と交わっていくことが基本要素になる。
細かくは次のとおりだ。

【能】を磨く 
 ・知識、経験(ナレッジ)を得る
 ・技能(スキル)を身につける
 ・行動特性(コンピテンシー)を強める

【観】をつくる 
 ・価値軸(バリュー)を持つ
 ・自律意識、プロ精神(マインド・スピリット)を醸成する

【志】を抱く
 ・目標像(イメージ)を描く
 ・方向性(ベクトル)を持つ
 ・情熱(パッション)を湧かせる
 ・使命(ミッション)を感じる

【人】と交わる
 ・人脈(ネットワーク)を築く
 ・人から啓発(インスピレーション)を受ける

◆能力を磨くだけでは不十分
確かに日々の業務をこなし、キャリアをつくっていくためには
「能を磨く」ことが大事だし、それが一番の基本になる。
だから、私たちは自己研鑽を怠ってはいけないし、
会社も従業員にいろいろな能力研修を施そうとする。

しかし「能を磨く」ことは、キャリアをつくる上で一部の役割しか果たさない。
技能や知識、経験といった要素は、あくまで仕事を成すための手段にすぎないからだ。
手段の取得に終始しているキャリアには早晩行き詰まりがみえてくる。

30歳前後からは、仕事の目的(=目標+意味)を自分なりに見出し、
自分の仕事をつくり出していかなければキャリアの展開は望めない。
目的観なしには、能力的にもマンネリ感や限界感が出てきて、「能を磨く」意欲も低下してくる。
キャリアの停滞はそのようなところから始まる。

◆4要素の好循環がキャリアを大きく展開させる
そこで重要になってくるのが、「観をつくる」ことだ。
すなわち自分の価値軸を持ち、自律的に考え、
自ら創造した選択肢にリスクを負って果敢に行動することだ。

自分の「観」で定めた行動だから、たとえ失敗しても悔いはないはずだし、
その失敗は未来に必ず活きるものになる。

自分の中に「観」ができてくれば、次はそれを基盤として、
目指すべき理想像は何か、情熱を燃やすことのできる目標は何かといった「志」を抱けるようになる。

そうすれば、それを実現するためにどんな「能」が必要になってくるのかが明確になる。
となると、それを獲得するためにがんばろうという具体的で新鮮な意欲が湧いてくる。
キャリアの停滞や中だるみを打破するブレイクポイントはまさにここにある。

また、同じ方向の想いや価値観を持っている「人」たちとの人脈交流も重要である。
そうした人たちと社内外で出会い、結びつきあうことで、さまざまに触発を受け、
「観」や「志」がいっそう深く固まってくるからだ。
情熱は伝染するものであるし、
人は人によってしか感化されないものである。

このように能・観・志・人の要素は相互に影響しあっている。
この4要素の循環を起こすことで、キャリアは力強く展開を始める。

◆能・観・志・人=幹・根・陽・水
4要素を樹木にたとえてみると、
 ・能=幹、枝葉
 ・観=根
 ・志=陽の光
 ・人=水

さらに言えば、
 ・仕事舞台(担当プロジェクト、雇用組織、業界、社会)=大地
 ・仕事上の成果=花、木の実
 ・自分のキャリア=樹木の姿

能・観・志・人の4要素はどれも大切ではあるが、
その中でも私はやはり「観」が一番肝心だと思っている。
「観」が強ければ、環境をたくましく活かしていける自己ができあがり
「強いキャリア」を展開していくことができる。
逆に、「観」が弱ければ、環境に翻弄されがちな自己となり
「弱いキャリア」しか歩めない。

強いキャリアとは、納得の仕事の連続、泰然自若の職業人生である。
弱いキャリアとは、妥協の仕事の連続、付和雷同の職業人生である。

いずれにしても、多忙という圧力によって働かされている私たちは、
職業人として「なぜ働くのか?」、「この多忙はどこかにつながっているのか?」
「自分はこの仕事を通して何を世に提供したいのか?」と言う自問を常に投げかける必要がある。

自分にある程度答えを持っている人は、すでに根っこ(=観)ができているので、
キャリアという樹木はちゃんと大きくなっていくだろう。
もし、まだ答えを持ち合わせていないようであれば、
樹木の生長にはいったん限界がくるかもしれない。
それどころか、危うくすると枯らしてしまうことも起きかねない。
(心身の病の危機はいつもそこにある)

◆人に会え・立志伝を読め
「観」をどうやって醸成すればよいかという方法論に関しては、
万人に効く統一のハウツーやマニュアルのようなものはない。
自分でもがきながら徐々に固めていくものだからだ。
何事も“No pain, no gain. No challenge, no progress. ” である。

しかし、その醸成を促すきっかけを他からもらうことは可能である。
仕事・キャリアに行き詰ったら、私が勧めることは2つ。

 1)「想い」を持った人にどんどん会うこと。
 2)偉人伝、立志伝を読むこと。

仕事と関係が薄くてもよい。自分が共感できる趣旨で行われている
イベントやセミナー、勉強会、NPO活動、ボランティア活動などに参加する。
(運営側に回ればさらにいいだろう)
そうした「想い」で動いている人たちからエネルギーをもらえる。
そして彼らの「観」という根っこの大きさを知る。

また、強く、高く、豊かに生きた人の本を読むことも
萎えた自分、ダレた自分、沈んだ自分を蘇生させるのに役立つ。
平成ニッポンに生まれてウジウジしている自分がちっぽけに感じられるだろう。
自分がたくましく大人になっていくために「ロールモデル」は不可欠だが、
ロールモデルは何も身の回りの生きた人物でなくともよい。
本を通して出会う人間でいっこうにかまわないのだ。

そんなところからまたエネルギーを湧かせて行動を起こす。
その過程で、自分の「観」が次第につくられていく。
気がつけば、「能」の付き方や、「志」の明瞭さ、「人」の広がりが以前よりも増しているはずだ。
―――そうやって、人は停滞を脱し、成長してゆく。


Zyumoku2 
(長野県・安曇野にて)

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