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2010年6月25日 (金)

模範モデルは「江頭2:50」「高田純次」


今週、私のお客様である大手広告代理店で
新入社員向けにキャリアスタートアップ研修を行った。

まだ社会人としての就労経験もなく、現場配属されてもいない新入社員に対し、
何をキャリアに関して研修することがあるのかと思われる方も多いかもしれないが、
実はこのタイミングに行っておくことの意義は大きい。

理由は2つ。
1つめは、短期的な配属辞令ショックを和らげるために。
2つめは、キャリア形成はマラソンであるという中長期に立った意識をもってもらうために。

まず、1つめについて。
これは人事担当の方がもっとも心配されるひとつだが、
新入社員研修を終えていよいよ各自に配属辞令を伝えるときに、
希望通りの配属にならなかった者のモチベーションがガクンと落ちる。

もちろん新入社員たちは、配属は会社が決定権をもってやることを承知しているし、
数年後のジョブローテーションによって次のチャンスがあることも伝えられている。
しかし、ショックはショックだ。
エネルギー満々だった人間ほど、希望が通らなかったことでマイナスエネルギーも強くなる。

そんなショックを緩和するためにも
キャリアについての基本意識をこの時点で醸成させておいたほうがよい。

私が彼らに伝えているコアメッセージは、
 ○「キャリア形成はラグビーである」
   つまり、イレギュラーバウンドする楕円球を相手にする戦いであること
 ○「キャリア形成において最も重要な力は“状況創造力”である」
   その偶発に跳ねた球を、いかに自らの「想い」の実現に向けて必然にしていくか

―――このことをもっともよく言い表しているのが、
次のルー・ホルツ(米・アメリカンフットボールコーチ)の言葉だ;

   「人生とは10パーセントの我が身に起こること、
    そして90パーセントはそれにどう対応するかだ」。


次に2つめについて。
仮に配属が希望通りだったとしても、
想像していたのと仕事内容が違った、職場環境に馴染めない、上司との人間関係が合わないなど、
配属後に遭遇する想定外の出来事はたくさん出てくる。

しかしそんな違和感や想定外は誰にでも起こるのだから、
それを適当に乗り越えていくのが社会人だろうと、すでに大人になった我々は考える。
しかし、そう簡単に本人任せに放置できないところが昨今の新入社員の人材管理だ。

彼らは短気(すぐに結果を得たがる・見たがるという意味で)である。
また、彼らの周辺には情報が溢れている。それは例えば、
第二新卒の求人情報や、年収査定情報、成功した転職事例集といったものだ。
これらは多分に広告宣伝としての一面的な欲求喚起情報であるのだが、
はやる心の彼らにとっては、リアルな脱出情報になる。

いつまでもコンフォートゾーン(心地よい居場所)に留まっていられた学生時代から
突然、違和感のある環境に縛りつけられたのである。
ましてや、業務目標のプレッシャーがきつくなりはじめるや、
「ここは自分に合っていないんだ。早めにゲームをリセットしてやり直さなきゃ、負け組になってしまう」
などといった感覚に陥り、あっさりと転職カードを切ることもしばしば起こる。

そんなことを想定して、彼らには入社時から、
「キャリアは何十年とかけて完走するマラソンである」ことを告げてあげねばならない。
キャリアを中長期の目線で考えたとき、その最初の節目は3年だろうと思う。
自他の経験を総合すると、
丸3年というのは重要な長さで、1年間でもだめ、2年間でもだめ、
丸3年を超えると不思議とみえてくる世界・得られる深さというものがある。

まず3年留まって何かの結果を出す。
それができずに居場所を変える人は、おそらく他に移っても同じ繰り返しになる確率は高い。
私が発するメッセージは次の言葉に代弁される。

   「転職は、今いる会社で実績を積み、『伝説』をつくってからでも遅くはありません。
    いや、実績を積んだときはじめて、転職するもしないも自由な身になれるのです」。
                                      ―――土井英司 『「伝説の社員」になれ!』

   「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。
    そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」。
                              ―――小林一三(阪急グループ創設者)

いずれにしても、こういったことを入社時に耳に入れ、意識づけしておくことは
個人・組織双方にとってメリットがあると思われる。
こういった意識づけは人事部がやってもいいし、経営者が直接やってもいい、
現場の上司がやってもいいし、あるいは私のような外部講師がやってもいい。
ただし、真正面からしっかりとやることだ。
一人一人のかけがえのないキャリアを大事に思って対話モード(命令・通達モードではなく)でやることだ。

* * * * *

さて本記事の後半は、
今週のその新入社員研修で何とも可笑しかったエピソードを紹介したい。

私は研修プログラムの中に「あこがれモデルを探せ」という個人ワークを設けている。
これは自分の今後1年の目標立てを行うための下地ワークとなるもので、
世の中にある商品やサービス、事業、または人物で、
「模範・あこがれ・理想」になるモデルを探してみようというものだ。

ワークシートは3つに分けられていて、
1番目の欄には、そのモデルを挙げる。
2番目の欄には、なぜそのモデルを模範・あこがれ・理想として考えるのかを書く。
3番目の欄には、そのモデルを見習って現実の仕事で自分はどうしたいかを書く。

記入例として私が提示したのは、
 〈1〉i-pod/i-phone/i-pad
 〈2〉人の物真似じゃないから。独自のスタイルを世の中に提案しているから
 〈3〉私も世の中に物真似じゃない独創的な教育プログラムを提案したい

あるいは、
 〈1〉坂本竜馬
 〈2〉大きな視野に立って薩長同盟を実現させたから
 〈3〉業界を変えるような視野に立って、業界全体のレベルが向上するような協業を進めたい

……とまぁ、模範解答として端正なことを示しておいた。
で、個人に15分程時間を与えて考えてもらう。
そして、グループ4名ほどで書いたことを各自シェアリングしあう。
私は各グループを回りながら、シェアされているモデルを耳にする。

すると、さすが、広告代理店を目指して入社してきた新人君たち。
耳にしたのはとても意外というか、聞いてみればさもありなんというか、そんなモデルだった。

ある女性新入社員は、
「あたしのあこがれモデルは、なんつっても江頭2:50!」
 (間髪を入れず、「あー、いいよねー、エガちゃん」と他社員)
「彼って、ああ見えて、相当アタマいいですよ。って言うか、タレントとしての生き残り方、悟ってます。彼の名言に“1本のレギュラー獲るより、一瞬の伝説芸”とかあるし。彼のエッジの利かせ方見習いたいです」

また、別の女性新入社員は、
「私の模範モデルは高田純次さん です。あのチョー楽観主義なところが魅力的だし、見習いたい点です」。

……いや、まったくもう、傍で聞いていて笑ってしまった。
(特に女性が言い放っているところが余計に今風だなと)
しかし、これも立派な回答である。
何もお行儀のよい優等生な答えを私は求めていない。
彼らがそれをモデルとして、何かしらベクトルを引き出すことができるのなら、それは重要な模範となる。
(ただし、その個人の引き出すベクトルと、組織の求めるベクトル合わせが次に必要となるが)

新入社員研修は他でもいくつかやっているのだが、
この種類の回答には遭遇したことがなかったので余計に面白かった。



ちなみに高田純次さんの本は数々出ていて、私は結構好んで読んでいます。いいです。

 

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