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2010年6月 9日 (水)

目標に働かされるキャリア vs 目的に生きるキャリア



  「目標」と「目的」の違いは何でしょうか?
  私は次のような定義をしています。

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  ここで「3人のレンガ積みの話」を紹介しましょう。

Mvsm02 


  さて、彼ら3人それぞれの「目標」・「目的」は何でしょう?

  目標とは、簡単に言えば「成すべき状態」のことです。
  それらはたいてい、定量・定性的に表わされます。
  ですから、レンガ積みとして雇われている3人の男の目標は同じです。

  それに対し、目的とは、そこに「意味」の加わったものです。
  3人は同じ作業をしていますが、そこに見出している意味は違います。
  目的が天と地ほど異なっています。

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  目標をもつことは働く上で必要なことです。
  しかし、中長期のキャリアにおいて、しばしば「目標疲れ」することが起こります。
  それはたぶん、その目標が他から与えられたものだからです。
  もし、その目標に自分なりの意味を付加して、目的にまで昇華させたなら、
  「目標疲れ」は起きません(もしくは、ぐんと軽減されるはずです)。
  むしろ、大きな意味を付加すれば付加するほど、大きなエネルギーが湧いてきます。


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  中長期のキャリアで、
  最大の防御(=疲弊から身を守ること)であり、かつ、
  最大の攻撃(=意気盛んに働くこと)は、 「目的」を持つことなのです。

  いまスライドに2つの働き様A、Bを示しました。

Mvsm05 

  働き様Aは、いまやっていることが目標に向かっている形。
  この場合、目標達成が最終ゴールとなり、
  目標が達成されたか達成されなかったか、のみが関心事になります。

  一方、働き様Bは、いまやっていることが目標に向かいつつ、もうひとつその先に目的がある形。
  この場合、最大関心事は目的の完遂、言い換えれば、意味の充足であり、
  目標達成はそのための手段・プロセスとしてみなされるにすぎません。

  ---さて、あなたはどちらの働き様でしょうか?


  で、働き様Bの形をもっと掘り下げて考えてみましょう。
  目的は、現実の自分にいろいろなものを向けてきます。
  ひとつには、「意味・意義」を還元します。
  「いま自分のやっていることは何のためなのか?」それを問うてきます。

  もうひとつには、「やり方」を問うてきます。
  「目的を成就するためにそんなやり方でいいのか?」
  「原点となる目的を忘れるな。いまの方向は修正したほうがいいんじゃないか」など。

  そして、現実の自分に「エネルギー」を充填してくれます。
  人間は意味からエネルギーを湧かせる動物だからです。

   「人間とは意味を求める存在である。
   意味を探し求める人間が、意味の鉱脈を掘り当てるならば、そのとき人間は幸福になる。
   彼は同時に、その一方で、苦悩に耐える力を持った者になる」。

                             ―――ヴィクトール・フランクル『意味への意志』より
             (フランクルはナチス軍下の捕虜収容所を生き延びたオーストリアのユダヤ人精神科医)


  目的をもった人間の働き様はこんなような形になります。

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  ―――そうです、円環の形です。


  さてさらに、その働き様に時間軸を加えてみてみます。
  働き様Aは、毎期毎期、会社からの目標をクリアすべく働きます。
  上司と面談をして目標を設定し、期末ごとにそれができたかできなかったかの査定があり、
  賞与が決まり、年収が決まり、それを繰り返していくキャリアの形になります。

  キャリアステージのレベルは年次とともに多少は上がっていくかもしれません。
  「係長になれた」「課長になれた」「部長になれた」・・・しかし組織の役職によるキャリアステージは
  会社を辞めてしまえば消失してしまう時限のものです。

  ……そして、定年を迎える。
  何かしら業務上の目標があったことが当たり前だったサラリーマン生活から一転、
  自分自身の今後の人生の目標・目的はまるっきり白紙の状態です。
  はてさて、それを、自分で設定しなければならないのですが・・・

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  一方、働き様Bはどうでしょうか。
  Bは、いまやっていること→目標→目的が円環になっていますから、
  それがどんどんスパイラル状に膨らんでいき、
  働きがいやら朗働感やらが増幅されるキャリアになります。

  そして、時間の経過とともにライフワークのようなものが見えてきて、
  しっかりとした意味の下、定年後にやりたい選択肢もちゃんと創造できているはずです。

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  事業組織で働いて給料を得る以上、
  組織からの目標は一つの契約であって、受け入れるのが当然のものです。
  目標があるからこそ成長できることも多々あります。
  ですから私のように自営業であっても、きちんと目標を立てて自らを律しています。

  問題は、何十年と続く職業人生にあって、
  他人の命令・目標に働かされ続けるのか、
  それとも自分なりの意味・目的にまで昇華させて、そこに生きるのか―――この一点です。
  この目に見えない一点の差が、40歳、50歳になったとき、とんでもなく大きな差になっているものです。



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