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2010年7月18日 (日)

W杯サッカーが終わって〈1〉

Tsuyuake1


祭りの後はなんともさみしいものだが、
今回のW杯サッカーを観戦しながら考えたことを断片的に書き出してみる。

その1◆トータルフットボールの円熟

毎度のことながらW杯サッカーでは、特定の個人プレイヤーを挙げて
「今回は誰々の大会になりそうだ」と戦前に人びともメディアも騒ぐ。
実際、過去の大会では、サッカーの神様が誰か一人に魔法の黄金シューズを履かせ、
アンビリーバブルなプレーをさせてきた。

今回はそれがメッシなのか、C.ロナウドなのか、
はたまたカカなのかルーニーなのか…… (結果はご存じのとおり)

しかし、これほど特定の個人が浮き出なかった大会も珍しい。
得点王も結局、5得点の4人が並ぶ結果となった。

しかし、突出したファンタジスタが現れずとも、本大会は見ごたえのある対戦が多かったし、
スペインという「統合力×独自の美意識の貫徹」のチームが優勝したことで
現代サッカーの1つのお手本解が示されたともいえる。

巷間(私も含め)のサッカー論議やメディアの一般記事では
好んで特定のヒーローをこしらえたいし、また「組織力か個人力か」という2項対立で話をしたい。
しかしながら、実際のサッカーは、もはやその2項対立ではないし、
特定のスーパープレイヤーに頼れば頼るほど勝ち進めなくなっている。

現代サッカーは、1970年代のオランダチーム(ヨハン・クライフら)が展開した
トータルフットボールの流れを受け、
全員攻撃・全員守備、献身的なハードワークが前提、組織力が基盤、その上での個人力
―――を目指すようになっている。
個人主義ベースと言われるブラジルやアルゼンチンでも、
もはやコレクティヴ(協働的)な部分を無視できない。

しかしながら、トータルフットボールは往々にして、
「固い守備+カウンター攻撃」のような型になりがちで、どうも面白さに欠けた。
だからこそ、私たちはその中で「強烈な個」を常に欲していたとも言える。

ところが、今回のスペインは、コレクティブでありながら、
そのコレクティブさを守備固めというより、攻撃のためのパスサッカーに適応し、
独自の美意識に固執して得点を奪うという相当に高度なことをやってのけた。
まさにトータルフットボールの円熟ここにあり、といった感じだった。

組織も強いし、個人も強い。
守備も強いし、攻めも強い。
そして、自らのスタイルを貫いて、美しく勝った。

美しく勝つといっても、スペインの場合、楽勝だった試合は1つもなく、
1点をこじ開けて守る薄氷を踏む勝ちが多かった。
美しさを貫く底にしぶとさがあったのだ。

本大会王者のスペインから引き出せる強さのキーワードは
○「トータル」であること
  =強い組織と強い個が統合して力を出している。
  =「私攻める人/私守る人」といった分業でなく、全員・全体で勝ちにいく。
○「コレクティブ」であること
  =互いの献身が全体を支えている。
○独自のスタイル+それを貫徹させる“しぶとさ”


さて、話を私たちの働く現場に向かわせてみよう。
……いま日本の働く現場では、ことごとく逆のことが起きているのではないか。

日本人の働き手は、相変わらず会社の組織力に身を委ねたがる傾向性が強い。
もちろん会社の諸々の力はうまく利用していいのだが、
その上で、個人で何か突破することをしないように思う。
若い世代の大企業志向、公務員志向、終身雇用志向など、保守回帰が始まっていることも気になる。
また、不景気で雇用需要が弱まってくると、
会社は「雇ってやっているんだ」、個人は「雇ってもらうためにはしょうがない」
といったような心理状態になりやすく、
そこにもますます「強くなる(場合により暴君化する)組織」と「縮こまる個人」の構図が見てとれる。

さらに、いまのビジネス現場では業務があまりに専門分業化されるために、
働き手に求める能力も、どんどん専門分業化されていく。
そのために働き手はますます知的部品化、技的部品化していく。

組織側はそのほうが人材として使いやすいのでその流れを肯定し、
一方、働き手側も、
周辺の余計な業務に手を煩わせたくないので、どんどんタコツボ的に自分を限定していく。

……こうみると、いまの日本人の働き手、日本の多くの職場は、
「トータル」さに欠け、「コレクティブ」さも欠けている。
そして独自のスタイルをどこに見出せばいいのかさっぱり迷っている。

独自のスタイルに関して言えば、
「ていねいなものづくり」はグローバル経済の中でも、
いまだ十分に日本の独自スタイルになりうると思うのだが、
ただ、美しいサッカーが、歴史上、
泥臭いサッカーやずる賢いサッカーにたいていの場合勝てなかったように、
「ていねいに(しかし高価格に)つくった」日本の家電製品は、
世界市場において「そこそこの品質で安くつくった」韓国製品・台湾製品に勝てなくなっている。

しかしそれでも、美しさを堅持しながら、スペインはしぶとく勝った。
だから、私は、日本が「ていねいさ」を堅持しながら、
ものづくりの分野で勝ってほしいし、勝てると信じている。

しかし、そのためには「トータルさ」と「コレクティブさ」を強くする必要がある。
(ふーむ、やはりここに問題は返ってくるのだ)


補足◆ボールから遠いとき何を考え何をしているか

サッカーの名指導で私がいつも思い出すのは、故・長沼健さんの次の言葉だ。

 「1試合で1人の選手がボールに直接関係している時間は、
 合計してもわずか2分か3分といわれている。
 1試合が90分だから、ボールに直接関係していない時間が87分から88分という計算になる。
 ボールに直接関係しているときは、世界のトップクラスの選手も、小学校のチビッ子選手も
 同じように緊張し集中している。技術の上下はあっても、真剣であることに変わりはない。

 ボールに直接関係していない時間の集中力が、トップクラスの連中はすごいのだ。
 逆に言えば、ボールに関係していないときの集中力のおかげで、
 いざボールに関係するとき優位を占めることができるし、
 
もっている技術や体力が光を帯びることになるわけである。

 サッカー選手の質の良否を見分ける方法は比較的簡単だ。
 ボールから遠い位置にいるとき、何を考え、どういう行動をとるかを見れば、
 
ほぼその選手の能力は判断できる」。

                        
―――『十一人のなかの一人~サッカーに学ぶ集団の論理』より


Tsuyuake2
いよいよ梅雨が明け、今年も暑い夏が来る

 

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