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2013年7月16日 (火)

中学生向けキャリア教育~すべての働く人には“思い”がある


Asahi0710 特別授業の模様が朝日新聞(7月10日付・地方面)で紹介されました



「働くって何だろう!?」を考える特別授業〈第2回〉
~仕事を“能力×思い→表現”で分解してみる

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昨年7月、福山市立山野中学校(広島県)で行った「働くって何だろう?」を考える特別授業、その続編である第2回目を、過日実施することができました。

ちなみに、昨年の第1回授業の模様はこちらのページで紹介しています。
中学生向けのキャリア教育プログラムを実施


* * * * *

■ 実施日・実施校:
 2013年(平成25年)7月9日  
 10:50am~12:40pm
 広島県福山市立・山野中学校にて
 

■ 授業名:
 「働くって何だろう!?」を考える特別授業〈第2回〉
  ~仕事を“能力×思い→表現”で分解してみる


■ プログラム概要:
 『“働くって何だろう!?”を考える特別授業』は、山野中学校の柳井晃司校長から要請を受け開発を始めたもので、全体として3部構成を想定しています。昨年、その第1部を実施しました。本年が第2部です(第3部は来年実施予定)。

 プログラム全体の核になる概念メッセージは───

  「仕事(働くこと・職業)とは、
  『能力』と『思い』を組み合わせて『表現』する活動である」。
  簡単に表記すると、「仕事=能力×思い→表現」となります。

 第1部は特に「能力」というものの理解に重点を置き、レゴブロックを使ったゲームで学んでもらいました。今回の第2部は「思い」に重点を置いたプログラムです。次回第3部は、「表現」にフォーカスすることを予定しています。

 今回第2部の肝は、『仕事分解シート』演習にあります。教材として『朝日中学生ウィークリー』の「ジョブなう」という記事を使います。

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 「ジョブなう」の連載はすでに130回を超えていて、毎回さまざまな職業が紹介されます。この記事のよいところは、実際の人物を取材し、その人を通じて職業を見せていく点です。職業内容やその職業に就くための要件はもちろんのこと、その人の生い立ちやその職に就いた背景なども記事に織り込んであります。
 今回、この記事を過去8カ月分(約30本)用意し、生徒たちに興味をもった職業(記事)を選んでもらいます。それで生徒たちは『仕事分解シート』を手に、仕事を「能力・思い・表現」の3要素に分解してとらえる作業を行います。


■ スライド講義(抜粋):

まず、基本概念となる「仕事=能力×思い→表現」の説明から入ります。

「能力」とは何か、「思い」とは何か、「表現」とは何か、については、
昨年の第1回授業で説明しているのですが、復習を兼ねてスライドを見せます。

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実際の仕事の例をあげて、「能力×思い→表現」をイメージしやすくします。

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仕事の理解でさらに大事なことは、表現したもの(=商品・サービス)が人に買ってもらわなければならないことを知ることです。人に役立ち、必要とされ、支持され、購買されてはじめて報酬(ここでは特に金銭的報酬を指しますが)が生み出されることを頭のなかに入れなければなりません。

子どもはよく親の手伝いをすると小遣いがもらえることを体験しています。このとき大人が留意すべきは、子どもに対し、小遣い(=金銭的報酬)は、何か我慢して労働したときの対価であるという認識に偏らせてはいけないということです。「自分は我慢して働いたのだからお金をもらって当然」と考えるのはあくまで一面であり、利己の視点です。「自分の表現したものが人の益になり、世の中に貢献した。そのとき人や世の中が、お礼の気持ちとして代金を払ってくれる。それがつまり売上になり、給料になる」という、利他からの視点でとらえることを伝えねばなりません。

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さて、ここまでの下地の理解をつくっておき、『仕事分解シート』演習に入ります。
新聞記事を熟読し、自分が選んだ仕事を「能力・思い・表現」に分解してとらえ、皆の前で発表します。今回、新聞記事と『仕事分解シート』は1週間ほど前に配ってあり、生徒はかなりの程度予習をしてきてくれました。

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「能力」や「思い」の箇所は、ヒントワード集を与えて、語彙が出やすいように刺激づけします。

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書き込みを終えたら、1人1人が発表用シートをスクリーンに投影して、その仕事につき「3要素の分解」によって説明をしました。

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R (写真提供:山野中学校)


以下、授業のまとめに入ります。


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■プログラム開発の意図・背景:

 学童向けキャリア教育のアプローチはさまざまに考えられます。現状そのほとんどは具体的・体験的なアプローチを採用しています。1つ1つの具体的な仕事を見せ、体験させ、それを通じて働くことに関心をもたせるというものです。職業体験、あるいは職業の疑似体験をさせるテーマパークなどは、いろいろに広がっていくことが望まれるものですが、その手のプログラムは子どもに強烈な刺激を与える半面、フィーバー(熱)も冷めやすいものです。また、体験した職業を「技術的に自分ができそうかどうか」「カッコイイかどうか」「仕事内容が自分にとって単純かどうか」など表面的な材料で切り取ってしまう可能性もあります。

 そこで私がとるのは、抽象的・観念的なアプローチです。本プログラムが試みるのは、「働くことの根っこにある本質を押さえる力を育むこと」です。「仕事=能力×思い→表現」というひな型にそって、千や万もある職業を考えさせるのもその意図のもとだからです。たとえば、第1回では「なぜ能力(知識や技術)をたくさんもつことが大事なんだろう?」という問いを立てます。そこをレゴブロックでゲームをしながら、根本の考えを見つけるよう促していきました。

Photo_2  また第2回は、『朝日中学生ウィークリー』の記事を教材にして、職業を技術的要件で理解するだけでなく、その職業に就いている人間の気持ちになって、「その人はその仕事を通して、どう世の中に役立っていこうとしているのか」を想像させる訓練をしました。その意図は、「すべての働く人には“思い”があるという価値認識の力を養うこと」にあります。働くことを深く理解するには、そうした多面・多義的な咀嚼(そしゃく)が不可欠だからです。


 私は企業の従業員や公務員に向けてキャリア開発研修を数々行っています。大学生に向けてもたびたび講義を行います。そこで感じることは多々あるのですが、ここでは次の2点に触れます。

 1点目として、雇用側・被雇用側の双方で、職業が「技術的能力と金銭的報酬の交換である」という考えがますます支配的になっていることです。そのために仕事現場において、雇用側は働き手の技術・知識による成果をもっぱら評価し(つまり企業は全人的にヒトを求めるのではなく、即戦力としての手や頭を欲する)、他方、働き手側は報酬の多寡をもっぱら考える状況が強まっています。就職(転職)においても、求職者はますます、自らの技術・知識をいかに企業の欲するものにマッチングさせていくかという競争になっています。いずれにしても、そこでは働く「思い」(=仕事観、仕事の意義、理念、信条、夢・志、使命観)といったものが脇に放置されています。

 確かに就職面接の際には、雇用側も働き手側も「志望動機=なぜそこで働きたいのか」なるものを問い、答えます。しかし、そこでやりとりされる動機の多くは、入社するための方便としていかにその志望先の組織に興味関心があるかに終始していて、必ずしも「なぜ自分は働くのか?」という根本の問いへの答えにはなっていません。
 実際、企業研修で、3年、5年、10年と働いてきた社員たちに、「なぜ自分は働くのか・なぜいまのこの仕事なのか」という直球の問いに、多くの受講者は明快に答えることができないのです。「生計を立てるためには働かねばならないから」と書くのが大半です。この答えは決して間違ってはいませんが、「人はパンのみに生きる存在か?」という問題に対し、真正面から考えるのを避けているように思えます。


 とはいえ私が観察するに、「思い」が強力で堅固な人も少なからずいます。そういった人は、「思い」が先行していって、そこで必要になる能力を後付けでどんどん習得していく、また、その「思い」に共感してくれる人たちを巻き込んで事を成し遂げていく、そんな姿で自身の道を拓いています。

 私が考えるたくましいキャリア形成というのは、技術や知識を雇用側に神経質にマッチングさせていくものではなく、「思い」がぐいぐいとキャリアをドライブ(駆動)させていき、それに引きずられる格好で能力と人(同志・支援者・共感者)が付いていくものです。ですから今回、子どもたちが職業をとらえるときに重要視させたかったのが、この「思い」という観点だったのです。

 2点目に、私は企業内研修の現場で、大人になっても依然、概念化思考、抽象化思考が苦手で、ものごとの本質がとらえられない、本質に向おうとしない受講者を多くみています。具体的にマニュアル的に指示されなければ動けない働き手が増えていることはこのことと無関係ではありません。なおかつ日本人は情に流されやすい性質(たち)です。こうした2つの要素が掛け合わさると、日々起こってくる末端の出来事に感情レベルで反応するしかない、結果的に疲れる生き方になります。
 結局、仕事においても、その配属された部署が好きか嫌いか、任された担当業務に対し気分が乗るか乗らないか、上司とは気が合うか合わないか、といった都度都度の感情で右往左往する状況になりがちです。モチベーション(動機)が表層の感情から起こっているので、仕事に向かう姿勢が安定しないのです。そして何か成功マニュアル・処世術の類のものに頼ろうとしてしまう。

 しっかりと自分を持っている人は、配属された部署の役割は何か、自分が任された業務の肝は何か、職場の人間関係づくりで大事なことは何か、といった本質的なことをつかもうとします。そしてそのつかみとった本質を軸にして、自分をどう生かしていけばよいか、与えられた環境をどう活用していくか、といった意識で働こうとします。モチベーションの源泉が本質的な奥のところに置かれているので、強く安定しています。

 「自律的な人財」ということがよく言われますが、まさに自分がつかみとった本質を軸(=律)にして、ぶれない判断をして能動的に振る舞えるのが自律的ということです。自律の「律」とは、規範やルールということです。自分の内に規範やルールを設けるためには、正しいとは何か、善いとは何か、美しいとは何か、といった本質的な価値を抽象していく能力が欠かせません。だからこそ、抽象化思考は訓練されなければならないのです。
 感情的に行動するのは悪いことではありません。本質の次元から意志を湧かせ、その上で感情豊かに振る舞うのであれば、それこそ鬼に金棒です。

 以上、企業の研修現場で感じ取る2点から、今回の中学生向けキャリア教育プログラムづくりがあります。本業の合間を縫って行っているボランティア活動ですが、子ども対象にプログラムをこしらえることは、まさに「教えること・学ぶこと」の本質により深く迫っていかねばならない作業で、私自身、それが本業にもたいへんよい効果を及ぼしていると感じています。


■「NIE」(教育に新聞を)について:
 「NIE(エヌ・アイ・イー)」とは“Newspaper in Education”の略で、学校などで新聞を教材として活用することを言います。1930年代にアメリカで始まったそうです。国内でも日本新聞協会が96年から本格的に展開を始めました。
 今回の特別授業では『朝日中学生ウィークリー』を教材として使用しました。たまたま山野中学校が県内のNIE指定校だったこともあって、朝日新聞の甲斐俊作福山支局長が当日取材に来てくださり、翌日の朝刊に記事掲載いただきました(ブログ冒頭の記事写真)。

 今回のプログラム開発にあたり、生徒たちに仕事を3つの要素(=能力・思い・表現)で分解してとらえさせることは決めていました。で、その分解対象となる仕事(職業)をどう選ばせようか、そこをずっと思案していました。当初、『13歳のハローワーク』(村上龍著)を使うアイデアを思いつきました。同書は世の中にあまたある職業をカタログ的に網羅した内容です。そのなかから、自分が興味をもった仕事を選んでもらうわけです。
 ところが、やはりカタログ本であるために、1つ1つの職業の説明記述が無表情というか、淡々として実際に働く姿が想像しにくいものになっています。特に今回のプログラムは、職業のなかから「思い」というものを引き出してほしいという意図があります。したがって、実際の人間が仕事を物語るという情報のほうが教材として望ましいと考えました。そこで新聞やテレビのインタビュー記事やドキュメンタリー番組を探るうち、『朝日中学生ウィークリー』の「ジョブなう」に遭遇したのです。

Photo_3  「ジョブなう」は記事群としては職業カタログ的でありながら、1本1本の記事は具体的な人物の働く姿が詳しく描かれ、肉声がちりばめられていますので、子どもたちにも共感をもって読んでもらえると感じました。結果的に、生徒たちは記事を何度も読み込みながらその人の気持ちになって、情報不足のところは想像をはたらかせながら、「能力・思い・表現」の3要素に分解して職業をとらえることができたように思います。


 また、これを機に山野中学校では、数カ月分の「ジョブなう」紙面を廊下の壁に貼り出し、他の職業も読むように促しています。「世の中には実にいろいろな職業がある」ということを子どもたちに知らしめていくことは大事なことですし、1つの職業紹介記事との出合いが人生進路を変えてしまうこともありえますので、こういった取り組みは意義のあることだと思います。


【参考】NIEのウェブサイトはこちら



■事後アンケートの声(生徒):


○「私は『能力×思い→表現』の『思い』の話のとき、人は何かをするとき必ず思いを持っているという先生の言葉が心に残りました。何かを考えいろんなことを思うから、仕事が出来るんだと思うし、なりたいと思う職業が見つかるんだと分かりました。自分でも発表してみると、今まで知らなかった仕事への思いが沢山分かりました。もっと仕事について考え、自分に合った職業を見つけたいと思いました」。 (1年生・女)


○「やりたい仕事は簡単にできるのかなと思っていたけど、その仕事につくまででもけっこう大変なんだということがわかりました。能力などを紙に書くのが少し楽しかった」。 (3年生・男)

○「『ジョブなう』の中で私は図書館司書を選んで、将来の夢に近そうな仕事だなと思った。その仕事を能力・思い・表現に分けてみると、自分に足りないことは何なのか、どういう気持ちで(その人は仕事に)励んでいるのかが分かった」。 (3年生・女)

○「仕事をするのは大変だと思うけど、いろいろな商品を作っている会社は、使ってもらう人に対していろいろな気持ちを持っていることがわかった」。 (1年生・男)

○「『ジョブなう』の記事から能力・思い・表現に分けるのは難しいところもあったけど、記事をしっかり読んで書くことができました。書くことによって自分がどんな事を努力すればよいのかも分かりました」。 (2年生・女)

○「僕は『救急医』を書いたけれど、本当は看護師か薬剤師になりたいです。今日書いた「能力×思い→表現」の「能力」には、チームワークや持続力などを書きました。その中で僕は、病気や薬に関する知識や、観察力、記憶力が足りないと分かりました。なので、学校で習う最低限の知識を身に付け、観察力、記憶力を鍛えたいです」。 (3年生・男)




■事後アンケートの声(教職員):


○「具体的な人のお話、人生をもとに組み立ててあるので、非常にわかりやすかった。新聞に連載されたものがもとなので、授業に使うにも使いやすい。Eテレの『あしたをつかめ』も視覚的に訴えるところは大きいが、クラスで使うには『ジョブなう』のほうが向いている」。

○「仕事とは自己の生き方の思い、社会に対しての思いを表現・発揮することでもあるという視点がすばらしい。考えてみれば当たり前のことでもあるが、自分がこうありたいという視点とともに、他者に対してどうありたいのかがクローズアップされた取組となっていると思う」。

○「生徒一人一人が『仕事分解シート』をもとに発表したことは、これもまた“自らの表現”であり、“思いの発”であり、仕事さがしに向けて、自ら歩むことへの意思表示であったと思います」。

○「それぞれの生徒が、興味のある仕事について調べたり、書いたり、発表したりするということで、意欲を持って考えることができていたと思います。将来生徒が社会に出て、思いを持って仕事する人が増えてくるといいなと思うのですが、学校でできることはどんなことでしょうか」。





■山野中学校・柳井晃司校長からいただいたお礼の手紙:
(ご本人に承諾を得て掲載しました)


キャリア・ポートレートコンサルティング

代表 村山昇様

 謹啓 仲夏の候 ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 過日の特別授業に際しましては、ご多用のなか遠路、本校までお越しいただき心より感謝申し上げます。また、昨年度に引き続き、「働くって何だろう?」を考えるをテーマに特別授業を実施していただき、厚くお礼申し上げます。

 今回、「能力×思い→表現」で仕事分解していくなかで、生徒たちは仕事について、じっくり考えていきました。インプットとして「ジョブなう」の記事を読み、アウトプットとしてワークシート(仕事分解シート)の発表を行う。このプロセスは生徒たちに将来就きたい仕事をフォーカスする作業になったと感じています。また、今回の村山先生の特別授業は私たち教職員にとっても「自らの仕事」を考える機会となりました。教師として「仕事に対する思い」を生徒にたちに語った担任。この仕事に就いた思いや仕事のやりがいを問いなおした教職員。生徒たちは将来の仕事を考え、教職員は今の仕事をみつめなおすことのできた特別授業でした。生徒及び教職員のアンケートを同封しています。ご参照いただければ幸いに存じます。

 最後に今回、特に感じたことを記することにします。出会いは学びの場であることと、継続することで学びが深まることです。村山昇先生との出会い、そして二度目の特別授業。またお会いできることを楽しみにしています。今後も「仕事って何だろう?」について仕事観を描き出していく先生の益々のご活躍を祈念いたしまして、お礼の言葉とさせていただきます。

敬白
 

平成25年7月12日
福山市立山野中学校
校長 柳井晃司






■補足:生徒たちへの事前メッセージ:

山野中学校のみなさんへ

 今年4月から3年生・2年生になったみなさん、こんにちは。去年の夏、レゴブロックを使った特別授業をやらせていただいたキャリア・ポートレートコンサルティングの村山です。そして今年から入学された1年生のみなさん、はじめまして。間もなくお会いできるのを楽しみにしています。

 さて、今年も『働くって何だろう?を考える特別授業=第2回=』をやることになりました! 今回も一風変わった練習をしながら、みなさんといっしょに「仕事・職業」について考えていきたいと思います。

 ところで、みなさんは「将来どんな夢をもっていますか?」ときかれたら、次のAさんとBさんのどちらに近いでしょう……


■Aさん:
「ぼくの夢はなんといっても科学者になること! 宇宙ステーションの開発にかかわる仕事をしたい。そのためにアメリカの大学に行って博士号をとるのが目標」。


■Bさん:
「私はとくに夢のような立派なことは思い描けないなぁ。けれど文章を書くのが好きだし、きれいな絵にも興味がある。だから、なにか本や雑誌をつくったりする仕事ができればいいかなと思う」。



 Aさんは明確な将来像をもっています。そしてその大きな夢に向かって突き進んでいく強い気持ちがあるようです。他方、Bさんは明確な夢は描けていません。向かうべき目標があいまいなために、将来に向かう気持ちもどことなくあいまいです。
 それで私はここでみなさんに、「全員がAさんのように明確な夢をもちなさい」と言うつもりはありません。安心してください(笑顔)。確かにAさんのようにはっきりとした夢をもてればそれにこしたことはありません。ですが、中学生や高校生くらいになると、だんだん自分のことや世の中のことがみえてきて、夢や志のようなものがもてなくなってくるのも事実です。
 ですから私はBさんのような答えでもいっこうにかまわないと思っています。正直、私も中学生のころは自分の夢というものをもてずにいました(しかし、いまはもっていますよ!)。

 Aさんのように将来の夢を語れる人にとっても、またBさんのように夢が具体的に語れない人にとっても、ひとつ大事なことがあります。───それは、人がその仕事をしている“思い”に関心をもつ、ということです。
 たとえば、町で消防士さんを見たとき、「なぜあの人は危険な消防士という仕事を選んだのだろう?」と考えてみる。あるいは、スーパーマーケットに行って、店員さんが「野菜が安いよ、安いよー」と大声をあげて一生懸命に売っているのを見かける。そのとき、「あの人はなぜ、ああいうふうに仕事に一生懸命になれるのだろう?」と考えてみる。働いている人たちには、それぞれに働く理由があるものです。そしてまた、仕事を通して世の中に届けたい何かをもっているものです。それが“仕事に対する思い”です。

 これからのみなさんは、ぜひ、大人たちの“仕事に対する思い”に気を留めてください。そして機会を見つけてその大人たちに「なぜその仕事を選んだのですか?」「その仕事はどこが面白いですか?」「その仕事のやりがいはなんですか?」と質問してみてください。身近なところでお父さんやお母さん、親戚の人、学校の先生にきいてみるのもいいでしょう。
 実際、大人たちにきいてみると、「家族を養うために給料をもらわなきゃならないからね」とか、「お客さんからありがとうの笑顔をもらえることがうれしい」、「この仕事を通して社会に役立っていることが誇りに思える」「仕事は厳しいけど、自分がどんどん成長できるのが面白い」などさまざま出てきます。

 そうした“仕事に対する思い”をいろいろ考え、人にもきいていくうちに、自分のなかで働くこと・仕事についての興味がどんどん強くなっていきます。そんな心構えをずっと続けていくと、自分が将来何になりたいのかが必ず見えてきます。思いをもてば、それにかかわる知識や技術を身につけようとする意欲も高まってきますし、知恵もわいてきます。つらくても粘れる自分ができてきます。思いを持った人は強くなれるのです。

 そんなところから、今回の『働くって何だろう?を考える特別授業=第2回=』は、“仕事に対する思い”を考える練習をします。ぜひお楽しみに! では、7月9日にお会いしましょう。


平成25年6月
東京より
キャリア・ポートレートコンサルティング 村山昇





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キャリア・ポートレートコンサルティング代表:村山
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