これからの大事な人財要件3<自律した強い個>
=要件3【自律した強い個」のマインド】=
私は人財をみるとき3つの層に分けてみるようにしています。
【第1層】どんな「知識・技能(スキル)」を持っているか
【第2層】どんな「行動特性・態度・習慣」で行動しているか
【第3層】どんな「観・マインド」で、自らのあるべき仕事・人生を考えているか
つまり上から順に、「have」要素、「do」要素、「be」要素で人財をみるわけです。
これまで、人事の世界では、主に人財をhave要素、do要素の2つで
事細かに要件を出してとらえてきました。
しかし、これからは、第3層の「be」要素にもしかるべき視線を入れて、
その人財をとらえ、育成する必要がある、それが今回のこの記事の中心軸です。
で、働き手に、よき人財として、第3層(be要素)に何を求めるか――――
1つは先に言及した「賢慮・美徳」性、
そしてもう1つは、「自律マインド×個として強いこと」です。
よき人財というものは、
組織に雇われていようがいまいが、
チームで仕事をしていようがいまいが、
自分が平社員であろうと、管理職・経営者であろうと、
結局のところ、
・一人で考える時間をつくり
・一人で決断し
・一人で率先し
・一人で組織と向き合い、一人で顧客あるいは社会と向き合い
・一人で自らの仕事をつくりだし
・一人で責任を負う覚悟をし
・一人で仕事の完成を目指す 働き手です。
仕事を真に極めていくことは、必然的に「孤独」という状態を引き込んでいきます。
また「孤独」でなければ本当の深い仕事はできません。
(注:「孤独」であって、「孤立」ではありません)
真のプロフェッショナル、真の経営者を見つめれば、それは実に孤独なものです。
ゲーテは、
「何か意味あることは、
孤独のなかでしか創られないことを私は痛感した」と言い、
また、ソローは、
「ものを考える人間、働いている人間はどこにいようとも孤独である」
と言いました。
この孤独に耐え、孤独を基盤とし
(哲学者・池田晶子の言う“「零地点の孤独」を知る”)、
孤独を楽しみにさえする。
そして、外にはそんな孤独をみせずに、
周囲と調和をはかり、周囲を動かして、仕事を成していく――――
これが自律した「個として強い」人財です。
しかし、それとは逆に、人事担当者の若手・中間管理職をみる目には心配事が多い。
・業務命令の意図を理解し、それをソツなくこなすことはできる。
だが、仕事をつくりだすことができない。
・事業や組織への不満や批評を口にすることは多い。
だが、それを変えようとする意気はない
・3人寄っても文殊の知恵が出ない。誰もが周囲の出方をうかがって、
自分の意見を言わない。無難で平板な論議しかできない。
・経営からの情報・意思を単に現場に下ろすだけの
“伝言型”中間管理職が多い。そして、
自らの意見を上に返すこともなく、また、自らそしゃく・増幅して
下に伝えるわけでもない。
・「その仕事において、そう行動する理由はなぜだ?なぜだ?なぜだ?」・・・
と問うていけば、結局、「組織がそう求めたから」という答えしか出てこない。
・現状の事業・仕事のやり方・あり方は明らかに組織都合のものである。
決して顧客目線にはなっていない。しかし、それを変えることは面倒だし、
失職のおそれすらあるので容認してしまう。
・(本人の意識は薄いが)組織外の場に出ると、
やたら「●●会社の●●(役職)でござい」というオーラで立ち振る舞う。
また、他の人間をみる場合に、何よりも会社名や役職で判断し、
その尺度から離れられない
・・・このように働き手が「個として弱い」がゆえに起こってくる症状は
さまざまあります。
私は、企業や地方自治体の従業員・職員に対し、
自律マインド醸成のための研修を行なっていますが、
多くが「個として強くなっていない(=個として弱いままの)」現状を感じます。
私は研修の中で、
・「で、あなた自身はどう考えますか?」、
・「組織や経営者の考え方の受け売りではなく、
この事業に関するあなたの意見・判断は何ですか?その根拠はなんですか?」、
・「あなた自身が、顧客と世間の前に出て全説明ができますか?」、
・「あなたは何者ですか?名刺なしに語ることができますか?」、
・「明日から一個のプロフェッショナルとして、自営で生きていくことができますか?」、
などの目線から問いを発し、各自の「個としてひ弱な」就労意識にカツを入れます。
アランの『幸福論』#89に、次のような一節があります。
「古代の賢者は、難破から逃れて、すっぱだかで陸に上がり、
『私は自分の全財産を身につけている』と言った」。
こうした「個」として毅然とした人財こそが、これからの時代に大事な人財です。
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<補足>
雇用組織にぶら下がるでもなく、雇用組織の威を借りるでもなく、
他者や世間の流れに付和雷同することなく、
一個の職業人として悠然と仕事を成していく―――――
そんな「個として強い」働き手は、充分に「孤独感」を味わいます。
ですが、それは決して「孤立感」ではありません。
世の中には、「個として強く」働くがゆえに、
その孤独感を理解している人たちがたくさんいます。
で、そうした人たちは、心の深い次元でつながります。
糸井重里さんの『ほぼ日刊イトイ新聞』の表紙ページにあるあの名文句:
Only is not lonely. が示すとおり、
能あり志ある「個」は、共振し、連帯し合い、コスモスを形成します。
また、古今東西の偉人の書物に触れるとき、
それを“身読・心読”(身で読み・心で読むこと)できるがゆえに、
時空を超えてピーンとつながることができます。
決して孤独ではないのです。
*参考文献
野中郁次郎・紺野登『美徳の経営』、NTT出版、2007年
アラン『幸福論』(白井健三郎訳)、集英社文庫