イメージは力を生む
◆人は坂に立つ
――――「生命には物質のくだる坂をさかのぼろうとする努力がある」。
アンリ・ベルグソン『創造的進化』より
この言葉を読んで以来、私は、人は常に坂に立っており、
その傾斜を上ることがすなわち「生きる」ことだと考えています。
たとえば丸い石ころを傾斜面に置いたとき、それはただ傾斜をすべり落ちるだけです。
なぜなら、石ころはエントロピーの増大する方へ、すなわち、
高い緊張状態から低い緊張状態へと移行するほかに術をもたない惰性体だからです。
ですが、生命は、そのエントロピーの傾斜に逆らうように、
何かを形成していく努力を発する。
哲学者の三木清が「生命とは形成作用である」と表現したのもこのことだと思います。
◆プッシュの力・プルの力
さて、坂を上っていくには、自分を押し上げる力が必要です。
私はその力に2種類あると思っています。
1つには「ガマン・プッシュの力」です。
これは、義務感や責任感から出る力で、自分で自分を押す力です。
そしてもう1つは、「ドリーム・プルの力」。
これは、自分の理想像(夢や志といったもの)を具現化しようと
内面から湧き出てくる情熱で、目的イメージが自分を引っ張り上げてくれる力です。
◆プッシュの力を出し枯れた成果主義現場
私はさまざまな企業、団体でキャリア開発研修を行なっていますが、
受講者のみなさんは日々の仕事に本当に疲れている様子です。
なぜか――――?
おそらく「ガマン・プッシュ」疲れなのだと思います。
組織の課してくる業務目標(=坂の傾斜)に対し、やりきらなくてはならないという
義務感・責任感で自分で自分を押してきたのですが、それにも限界がある。
もう絞り出せないところまできてしまっているのでしょう。
ですが一方には、同じように課された厳しい仕事をしぶとくこなし続け、
いっこうに疲れをみせない人もいます。
おそらく、その人は「イメージ・プル」をうまくやっているのだと思います。
組織が課してくる目標を、自分自身の働く目的イメージの中でうまく位置づけし、
内面からエネルギーを湧かせているのです。
昨今、成果主義の反省がなされていますが、
その際、成果主義自体を全否定するという観点ではなく、
その導入・運用のしかたに問題がなかったかという観点で議論されるべきだと
私は思います。
◆いかに業務目標を人生の目的の中に描き落とすか
人は、自分の行動に目的を持ち、理想イメージを描くことができれば、
むしろ成果を出したがる状態に変わるものです。
ロッククライマーのように激しい傾斜をも楽しんで上ろうとします。
企業が従業員に課す目標は往々にして定量的な数値になりがちです。
その数値目標をいかに、個々の働き手が、
各自のキャリア・人生における定性的な目的の中に描き落とすことができるか、
そうしたイメージング能力こそ、このストレスフルなビジネス社会を
渡り歩いていくための必須のものです。
そしてまた、企業側も、
そういうイメージづくりの支援や研修プログラムに着目しなければなりません。
私が行っているキャリア開発研修でも、この「イメージする」ことを重要視しています。
一般的なキャリア開発研修で主に行なわれている自己分析ワーク
(例えばアセスメントテストやSWOT表分析)、
将来のキャリア計画表づくりからは、エネルギーを湧かせることはできません。
イメージを自分の中に据えることこそ、
坂を上っていくエネルギーの源泉になりえます。
キャリアの長い道のりは、坂道マラソンです。
これからは、自分なりの大いなる目的を描く者と描かざる者の間で、
キャリア・人生がくっきり分かれるという二極化が進むと思います。
目的をイメージし、
エネルギーを無尽蔵に湧かせながらキャリアマラソンを楽しむ人たちと、
目的イメージを持たないがゆえに現状のストレスにあっぷあっぷで、
将来に不安を抱えながら走る人たちと。