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2008年9月 5日 (金)

トム・ピーターズ『セクシープロジェクトで差をつけろ!』

私がトム・ピーターズにキャッチコピーを付けるとすればこんな感じでしょうか―――
「イケてる切れ者オヤジ」。
「イカしたビジネスコンサルタント」(“イカれた”もちょっと入ってる)。
「ナックルボーラー的著述家兼スライドプレゼンター」。


トム・ピーターズを有名にしたのは、言うまでもなく
1982年刊行の『エクセレント・カンパニー』
(原題“In Search of Excellence”:ロバート・ウォーターマンとの共著)ですが、
あのときのピーターズは、お行儀のよい本を書きました。

その後、ピーターズは『経営破壊』、『経営創造』と著述を重ねていきますが、
そうするうちにだんだんと彼自身のキャラクターが色を増してきます。
そして、彼のキャラのキレとコク・奔放さ加減が、『起死回生』であらわになり、
今回紹介する『セクシープロジェクトで差をつけろ!』(TBSブリタニカ刊)で
いよいよバクハツした感じです。

Prj *注)
『セクシープロジェクトで差をつけろ!』は、3部作の一冊であり、
他に『ブランド人になれ!』、『知能販のプロになれ! 』があります。
どれもピーターズ節全開!といったものです。

ピーターズのイカしたキャラクターは、
翻訳による影響も大きいと思います。
『起死回生』から、翻訳者が仁平和夫さんに替わり、
日本語版はとても特徴的な文面で刊行されることとなりました。
しかし、私は原本も取り寄せて読んでみましたが、
ナルホド、仁平さんの訳は
ピーターズのキャラをよく滲み出していると思います。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

さて、『セクシープロジェクトで差をつけろ!』の内容を紹介しましょう。
本書の原題は“The Project 50”です。
ここを「セクシープロジェクト」としたのは、翻訳者・編集者の妙技だと思います。

ピーターズの著書は、毎回、何かしらの予見性を中心軸にしています。
本書は「プロジェクト」が軸です。
これからの仕事はプロジェクトが中心になるぞ。
ルーチンワークに埋没してる場合じゃない
魅惑的なプロジェクトにアタマとカラダを突っ込め。
生き様とはあなたが生涯関わったプロジェクトのことだ。
すごいプロジェクトとは、そう、あなたがいま、始めるものだ。

一社懸命でもない、
一職懸命でもない、
一プロジェクト懸命(そしてそれをいくつも経験し歩いていく)の時代だ―――
とピーターズは訴えています。
確かに、私たちのキャリアをかたちづくる重要な基本単位は
ますますプロジェクトになるような気がします。

幸せのキャリア(職業人生)とは、どこか適当に会社に入って、
無難に日々の業務を処理し、無事に定年を迎えることでしょうか。
そうではなく、「マイ・プロジェクトX」と呼べるような、強烈な仕事体験を
いくつもし、そのたびごとに忘れえぬ思い出とメンバー人脈が築かれる
そんな「快活に生きた時間の蓄積」をいうのではないでしょうか。

ピーターズのテンションは冒頭からアクセル全開です。
「はじめに」のパートでは次のようにけしかけます――――

 「偉大なる広告マンのデービッド・オグルビーは、
 すばらしい広告は『人を唖然とさせる』と言っている。
 ABCテレビのニュース番組『ナイトライン』のキャスター、テッド・コッペルは、
 すばらしいニュース・ストーリーは『おたま落とし』だと言っている。
 (キッチンで料理をしていた人が思わず“おたま”を落として
 テレビの前に駆けつけるという意味だ)
 いいことを言うぜ。
 すごいプロジェクト、カッコいいプロジェクトは、
 アップルのiMac、ロッキードのSR71、ジレットのセンサーのように、
 そしていまあなたが考えている研修制度のように、
 人を唖然とさせるもの、人の手からおたまを落とさせるものでなければならない」。

 「すごいプロジェクトとは、同僚の心をかきたて、強い連帯感を生み出し、
 お客さんのあいだで評判になるもの。すべてを燃焼し尽くせるもの。
 刺激的で、熱くて、カッコよくて、セクシーなもの」。

 「すごいプロジェクトとは、誰もが羨望の目で見つめるもの。
 重要な問題に取り組み、それをみごとに解決して、
 参加者が10年後も覚えているもの」。

 「すごいプロジェクトとは、目にも止まらぬ速さで突っ走るもの。
 はじめ馬鹿にしていた人に『私が間違っていた』と言わせるもの」。

 「すごいプロジェクトとは、人格と個性を表現するもの
 ものすごいプレッシャーがかかるが、
 血と汗を流したあとに脳天を貫く歓喜が待っているもの。

 
ハンパな気持ちじゃ、やり遂げられないもの」。

 「もちろんどんなに頑張っても、超人的な努力をしても、実現できない夢はある。
 しかし、夢を描き、その夢を実現するために、
 持てる限りの智力、体力、気力を振り絞らない限り、人間が鍛えられず、
 絶望の味も歓喜の味も知らず、心も生活も豊かにならぬまま
 人生を終えることになる。
 要するに、やってみなければ、できるかどうかはわからない。な、そうだろ?」

・・・とまぁ、こんな感じです。
で、この後、本文で、「ものすごいプロジェクト」を実現するためのヒントを
50項目挙げ、読者の働く気持ちに火を着けます。
一種のハウツー本の体裁ではありますが、
読了後は、具体的なノウハウというよりも、
熱き血潮が自分の中で蘇ってくるというエナジー本の類でないかと思います。

以下、私が付箋を付けたところの一部を引用しましょう。

○#4
 あなたの辞書から「小さい」という言葉を末梢しよう。
 「小さい」問題はない。
 目に見えるところが「小さい」だけで、背後に大きな問題が隠れている
 針小を棒大にしろってのか? まあ、そうだ。
 ・・・・
 創造力と忍耐力さえあれば、社内規定の書き直しという「小さな」仕事を
 企業文化を根底から変え、
 最高に楽しい職場をつくるという大仕事の第一歩にすることもできる。
 そんな大風呂敷を広げていいのかって? いいとも。

 ディズニーランドからポスト・イットにいたるまで、
 感嘆すべきものの大半は、
 ひとりの人間のちょっとしたイライラに端を発している
 (ウォルト・ディズニーは、孫を連れて行けることろが欲しかった。
 3Mのアート・フライは、聖歌集にはさんでおく“栞(しおり)”が
 すぐに落ちてしまうことに苛立った)。

 要は心構えである
 もっと大きな網、もっと深い網、もっとヘンテコな網を投げてやろうと
 いつも考えているかどうかの問題である。

○#21
 すごい! きれい! 革命的! インパクト! 熱狂的ファン!
 この五つの言葉を書いたカードをつくろう。

 そして、いま進めているプロジェクトから生まれるものは、どこがすごいのか、
 どうきれいなのか、どこが革命的なのか、インパクトがどれだけあるか、
 ファンがどれだけ熱狂するかを多きな紙に書いて、壁に張り出そう。
 ・・・・
 私の友人のひとり(女性)は、自分が入れ込んでいるプロジェクトについて、
 こう語ってくれた。「私はこのプロジェクトをすっごくカッコよくて、
 自分でもおかしくなっちゃうくらいに世間の常識からかけ離れたものにしたいの。
 そのことを一日に何回も自分に言い聞かせている」。

 そうか。先の五つに、「自分でもおかしくなっちゃう」という尺度を
 加えたほうがいいかもしれない。

○#34
 遊びはいい加減にやるものではない。真剣にやるものだ
 ウソだと思うなら海辺で砂のお城を作っている子供を見てみるといい。
 まさに一心不乱、無我夢中・・・。作り、壊し、また作り、また壊し・・・。
 何度でも作り直し、何度でも修正する。ほかの物は目に入らない。
 ぼんやりよそ見をしていれば、お城は波にさらわれてしまう。
 失敗は気にしない。計画はいくら壊してもいい。壊していけないのは夢だけだ。

○#36
 芸術家に聞いてみればわかる。
 完成の一歩手前でも、ダメだと思ったら作品を破り捨てる。
 それをできる者だけが、すごい作品を作れる。

 プロジェクトが5分の2まで進行したところで、あまりさえないことに気がつく。
 悪くはない結果が出ているのだが、息を呑むようなすごさがない。
 それでも我執から離れ、ポイと丸めて捨てちゃおう
 (いまいちしびれないことは、あなた自身が一番よく知っている)。

 捨てるに忍びない気持ちはよーくわかる。
 しかし、不思議なことに、その未練を断ち切れば、ほっとする。
 すっきりする。さっぱりする。
 そして一から出直すエネルギーがふつふつと湧いてくる。

○#42-a
 週刊「最優秀ドジ賞」を制定しよう
 黄金のドジ杯を作り、受賞者が1週間、
 その栄光のカップを手元に置いておくというのはどうだろう。

 星に手を伸ばしている人の話を広めよう
 (たとえ、その人がいつも失敗しときに大きな失敗をするとしても)。
 自分は、すごいプロジェクトには挫折がつきものであることをわかっていて、
 挫折を歓迎し、その名誉を表彰し、
 挫折した人をいつくしむ人間であることを、
 明確な形で、満天下に知らせよう。

===========
【発展学習】
トム・ピーターズは講演の名手としても知られています。
そのパワーポイント・スライドが俊逸です。
下のサイトでは彼の最新の講演のスライドデータを無料でダウンロードできます。
(もちろん英語です)
私はここでよくインスパイアされます。
http://www.tompeters.com/index.php

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