散歩のリズム・自転車の風
【沖縄・石垣島発】
ここに来て、朝夕の散歩が楽しみです。
川平湾という観光スポット付近に滞在していますが、
観光用の駐車場付近を除けば、
そこには素朴な町のたたずまいがあちらこちらにあります。
散歩に出て小路を行けば、
その両脇に組まれる石塀とフクギの並木、
そしてハイビスカスの花々に蝶々が舞う景色が目にやさしく映る。
風に乗ってくる海のにおいと、山のにおい。
どこからともなく聞こえてくる南国鳥のさえずり、
そして飼い犬の遠吠え。
昨日の夕暮れの散歩では、
どこからか三線の演奏と唄が聞こえ、
別のどこからから、巨人-中日戦のナイター中継のテレビ音声が聞こえるなど、
窓を開け放つ縁側からの漏れ音が
とても“昭和な感じ”で、
「あ、そうそう、こんな感じだったよなぁ」という懐かしさでいっぱいになりました。
ところで、
その人の生活が、
時間に支配されているか、それとも時間を支配しているか――――
これは人生にとって重大な問題ですが、
それを判定するたったひとつの簡単な質問をお教えしましょう。
○その質問:
「あなたは、日ごろ、散歩をしますか? しませんか?」
おそらく、
散歩をする人は、時間を支配下においている生活でしょう。
散歩をしない人は、時間の支配下におかれる生活でしょう。
ま、これには多くの異論も出るでしょうが、
少なくとも、散歩を楽しむ人は、心のどこかに余裕を保ち、
忙しさに振り回されないゾという意志のある人にちがいありません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◆職選びを「乗り物」でたとえる
きょうは、「散歩」で思いついた話をします。
私は、普段から散歩好きです。そしてまた自転車好きです。
多摩川沿いに住むようになって、その頻度は格段に増えました。
朝な夕なに、川沿いを散歩や自転車で走ってみるのですが、
これがとても楽しいことに気がついたからです。
歩き、もしくは自転車のあの速度でしか観察できないものが
さまざま見えてきますし、
自分の力加減で動くリズム心地、風の音、季節の薫り等々、
いつしかクルマの移動ばかりで退化していた五感が呼び覚まされる思いです。
私はそのとき、
「あ、この感覚って、いまの自分の(自営業主としての)仕事感覚に近いな」と、
ふと思いました。
◆大企業は「電車・クルマ・飛行機」
そこで、職選びを雇用形態によって乗り物にたとえてみようと思います。
まず、大企業勤めは「電車・クルマ・飛行機」です。
パワフルなエンジンを装備し、多くの人数を高速で、
しかも遠くまで運んでいくことができます。
屋根や窓がしっかり付いているので、外界で多少雨が降っても、
風が吹いても中の人間は平気です(空調がきいているので快適ですらある)。
その上、自分ひとりが多少居眠りをしても、
その乗り物自体は運行を止めず、目的地に向かっていってくれます。
ただ、難点もあります。
その乗り物の座席は、旅客機のエコノミー席のように窮屈で、
手足を伸ばすことのできるスペースが限られています。
(中には、ファーストクラス席でラクチンの人々もいますが)
場合によっては、満員電車のようにぎゅうぎゅう詰めで、
あっちに押されこっちに戻され、へとへとになる状況も出てきます。
個人はそんな制限のある中で、せっせと仕事をこなしていきますが、
その乗り物がどこに向かうかは、
多くの場合、個人では決めることができません。
◆ベンチャー・起業はオートバイ
その一方、ベンチャー会社や起業は、「オートバイ(自動二輪車)」です。
細い道や多少の悪路もなんのその。
エンジン音を高鳴らせながらグイグイと突き進んでいきます。
ハンドルさばきは自分次第。
風を切りながら走り、自分の一挙手一投足がマシンに直下に伝わる快感は
応えられないものがあります。
しかし、雨が降ればズブ濡れ覚悟、
ちょっとのハンドルミスは大きな事故につながるといった危険性と
常に隣り合わせにいます。
つまり、バイクはハイリスク・ハイリターンな乗り物というわけです。
中小企業はさしずめ、「小さな帆船」といった感じでしょう。
その日その日の風向きを常に気にしながら、
帆の位置を変えてゆっくり進む。
確かに出せるスピードは限られていますし、遠くへも行けない。
景気といった波の影響も大きく受けます。
しかし、自分たちしか知らない穴場の漁場があって、
そこで高級魚の一本釣りの醍醐味を味わうことができるかもしれません。
帆船はエンジンで走る高速の乗り物では味わえない「何か」を得る
ことができる可能性を持っています。
◆自営業は自転車か徒歩
そして、最後に自営業ですが、
これは「自転車」(あるいは徒歩)ではないでしょうか。
こぐこと、歩くことをやめたらそこでストップ。
動く早さ、動く距離はすべて自分の意志と脚次第。
そして行き先はすべて自分で決める。
道草は自由。途中で道を変えるのも自由。
ただし、雨が降り、風が吹けば自分でよける道具や工夫が必要になる。
◆職選びに正解・不正解はない
乗り物の好みは人さまざまです。
目的地までひとっ飛びで連れて行ってくれるジャンボジェット機がいい
という人もいれば、
目の前の岩山を、オフロードバイクでケガを承知で駆け上がりたいと
衝動が走る人もいます。
また、乗り物など使わず自分の脚で山に登って、
道端の草花に目をやり、景色のいい場所を適当に見つけて
手作り弁当を広げるほうがいいと思う人もいます。
これらは志向性、価値観の差であって、
どれが正解か不正解かという問題ではありません。
職選びもこれに共通したところがあります。
大企業で海外をまたに掛けるもよし、
ベンチャー企業で一攫千金を狙うもよし、
はたまた個人事業で好きを仕事にするもよし、、、。
スピードの中で戦う仕事もよし、のんびりとした仕事もよし、
人が寄り付かない仕事もよし、、、。
要は、自分の内なる声に正直に従い、
それにマッチした職やワークスタイルを選び、生計が立てられれば、
それは「幸せのキャリア」です。
何かと獲得年収の高低ばかりがキャリアの成功軸として騒がれますが、
経済的に「成功のキャリア」ではなく、
精神的に「幸せのキャリア」という観点も長いキャリア人生においては
大事であるように思います。