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2015年3月

2015年3月27日 (金)

セミナー開催のお知らせ 〈2015春〉

*セミナー終了しました

   ** 人事・人財育成ご担当者向けセミナー開催のご案内 **  

下記の単独セミナーを開催いたします。
「観・マインド」を醸成する研修に関心のあるご担当者はぜひご参加を検討ください。

「観・マインド」をつくる人財育成研修の導入
~知識・スキル習得を超えて自律的な意識基盤を醸成する教育とは?

■日時:2015年5月14日(木)13:30~15:10
■場所:コンファレンス東京(東京・新宿)
■参加料:無料
■定員:先着15名(1社複数名のご参加可能)
■講師:村山 昇(キャリア・ポートレートコンサルティング 代表)

■対象者:
・全社の人事部門で人財育成を担当される方
・事業部/カンパニーの人事部門で人財育成を担当される方
*本セミナーは、人財育成にかかわる研修委託の検討材料にしていただく内容です。一般ビジネスパーソン向けの自己啓発セミナーではございません。

■ご担当者の課題意識として:
・新入社員向けの研修は基本技術やマナー習得だけでいいのだろうか
・入社3年目フォロー研修に「自律マインド」醸成の内容を施したい
・20~30代前半までの若年層社員の就労意識を活性化させるための任意研修を考えたい
・中間管理職向けに「意味・価値」次元からの部下との対話力を向上させたい
・シニア世代(50代以降)社員にもうひとふんばりしてもらうための意識強化研修を考えたい
・恒常的に「働くとは何か?」を考えさせる学びの場を社内に設けたい
……これらの課題に対し、導入事例を紹介しながらご説明する予定です。



→ 詳細・申し込みはこのサイトからどうぞ (ここをクリックしてください)


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組織における「ヒトづくり・人財育成」を考えるときに、ヒトの何を鍛え、育むのか。それを比喩的に言うなら、
「頭」=知識であり、
「手」=技能であり、
「足」=行動力です。
そのための社内研修や社外セミナーのプログラムは世の中にたくさんあります。

しかしながら、
「肚(はら)」=仕事観・就労マインドを醸成したり、
「胸」=志を育んだりする教育プログラムはあまり多くありません。

個々の肚や胸は、価値観の次元に踏み込む領域であり、組織側がとやかくできる問題ではない。価値観は多様化しているのだから教育の施しようがない、と考えられているからかもしれません。

しかし考えてみれば、ほんとうに個々が自信を持って躍動し、強い製品を生んでいる企業というのは、個と組織が同じような観を共有して求心力を持っているところではないでしょうか。社会全体としては価値観は多層・多様であっていいのでしょう。ですが、同じ事業船に乗り合わせた企業のメンバーたちにとっては、むしろある層の観を共有しながら、その上で多様な観にもとづくアイデアを放ち合うというのが理想ではないでしょうか。

個々の働く人びとが「強い肚」と「強い胸」を持って、知識や技術、行動力を真に生かしていく。組織と観を共有していく。今回、そんな肚と胸にかかわる研修プログラムの導入について、みなさまと意見交換するためのセミナーを開催いたします。ご参加をお待ちしております。



2015年3月26日 (木)

新入社員フォロー研修:「観・マインド醸成」からのアプローチ



今年も新入社員を迎える季節がやってきました。新入社員研修も始まります。会社の人事部門としては、とにかく必要最小限のスキル&マインドを整えて、配属現場に送り出さねばなりません。私は主に「観・マインド」を醸成する研修プログラムをつくっていますが、本稿ではその観点から、入社から半年後くらいのタイミングで行うフォロー研修について書きたいと思います。


◆自信喪失・ミスマッチ感をどうフォローするか

新入社員たちが最初の研修を終えて配属現場に散り、半年くらい経ったとき、どんな点をフォローアップしていくか、それはさまざま考えられます。私は彼らを観察していて、次の3つの点にフォローが必要だと感じています。それは───

1)「自信喪失感」へのフォロー
2)「ミスマッチ感」へのフォロー (ここを中心に書きます)
3)「自立から自律への意識醸成」のフォロー (本稿では割愛します)


1つめのフォローについて。半年後、新入社員たちの少なからずがさまざまに自信をなくし、落ち着かない気持ちでいることでしょう。先輩のようにてきぱきと仕事がこなせない。社外とのやりとりで緊張しすぎてしまう。電話を取るのが怖い。失敗を恐れるあまり能動的に動けない。上司との人間関係がうまくつくれない……など、アンケートではいろいろと不安を訴える声が出てきます。

これに対しては、個別の面談と、OJTではまかないきれない追加の技術研修、例えばコミュニケーション研修やプレゼンテーション研修、フォロワーシップ研修などの対応があります。実際、現況のフォロー研修はこのようなメンタルケアの面談とスキル補強型が中心となっています。



2つめは「ミスマッチ感」へのフォローです。半年間、実際に仕事をやってみると、入社前の期待や理想と、現実の仕事内容や職場の雰囲気にギャップが生じ、それが不整合感や違和感となって表れます。配属が希望と異なっていた人であれば、なおさら「ミスマッチだ」となりますし、希望どおりに配属された人でも、「ひょっとしたら自分は場違いな会社を選んでしまったのかも」と感じはじめます。

ミスマッチは彼らにとって誘惑の言葉です。ミスマッチという理由づけによって、辛抱づよくその与えられた場で能力を開いていく努力を脇に置いて、ある種、自己肯定してしまえるからです。「自分には潜在能力はあるが、ミスマッチだから開けないだけなんだ。環境を変えればなにかが起こるはず」と。そして、ゲームのリセット感覚で転職を考える人も出てきます。特に景気が好転し、人手不足が顕著になると、第二新卒採用の案件は増加するのでなおさらです。

こうしたミスマッチ感による心の揺らぎは、半年後のタイミングから、その後1年も2年も続き、拡大することも起こります。大卒入社の3割が3年以内に離職するという現象は、このこととつながっています。入社3年目に次の大きなフォローアップ研修を施すところが多いですが、20代の彼らにとって、その揺らぎの1年間、2年間はとても長い。ですから、新入社員のフォロー研修は、彼らのその後の数年先まで見据えたプログラムが必要だと留意すべきです。

私はこうしたときこそ「観・マインド」にはたらきかけることが重要だと考えます。「観・マインド」とは、思考や感情、記憶をつかさどる精神性で、単純には、ものの見方・とらえ方、意識基盤といったものです。

観はだれの内にもすでになにかしらが醸成されています。ただ、その分厚さや堅固さ、向きは異なります。学生から上がったばかりの新入社員たちの多くは当然、観がぜい弱(未醸成)です。入社から半年経った彼らが、多少の違和感を「これはミスマッチだ」と考えてしまうのも、(忍耐力の欠如というより)観のぜい弱さによるものです。

ですから私が新入社員向けのフォロー研修で行うのは、観醸成を促し、一段深いところにもぐってものごとを見つめさせる訓練をすることです。この次元の教育によって、彼らの意識基盤をつくり、自律的に行動を抑制したり、促進したりします。本稿では、私が行っている具体的な方法を2つご紹介します。1つは「概念化して肚に落とすワーク」、もう1つは「分厚い観から出た言葉を提示すること」です。


◆仕事観・能力観・プロフェッショナル観を養うワーク
まず「モザイク作文」というゲームワークです。

〈ワーク1回目〉
□受講者に、「海」「幸福」「夏の日」「中華料理」「甘い」と印刷してある5枚のカードを配ります。
□次に、講師はホワイドボードに大きく「机」と書きます。
□そして課題作業を告げます。───「カードに記された5つの単語を盛り込んで(順番は自由)、ホワイトボードに書いてある「机」に物語が帰結するよう作文してください。時間は10分間」

 

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受講者はあれこれカードの順番を入れ替えながら、なんとか「机」にたどり着くように作文を始めます。たとえば、回答はこのような感じになります───

【出てきた作文例:Kさん・女性】
「桜の花が『甘い』香りを放つ4月、私たちは入学した。みんなで『海』に行き、大騒ぎをした後、横浜に立ち寄って本格的な『中華料理』に舌鼓を打った。そんな『夏の日』もまるで昨日のよう。そして秋が過ぎ、冬が過ぎた。『幸福』な思い出をいっぱい詰め込んで、きょう、私はこの教室、この『机』ともお別れだ」。



各自が書いた作文をグループで披露しあいますが、いろいろと名作・珍作が出て盛り上がります。それで次のワークです。

〈ワーク2回目〉
□作業内容は同じです。さきほどの手元にある5つの単語を盛り込んで作文します。
□ただ、帰結ワードを変えます。講師は「クルマ(車)」とホワイトボードに書きます。


【出てきた作文例:Tさん・男性】
「『中華料理』の丸テーブルを囲みながら、きょうは我が家の家族会議だ。今年の『夏の日』の旅行は何処に行こうか。『海』にも行きたい、山にも行きたい。温泉にも浸かりたい、キャンプもしたい。そんな『幸福』プランはいろいろ出てくる。しかし、現実はそんなに『甘い』ものではなかった。なぜなら我が家は先月、『クルマ』を売っ払ったばかりだった(凹む)」。



帰結ワードががらり変わっても、受講者はたいてい見事に作文をこしらえることができます。人によっては1回目とまったく異なった感じで作文する人もいれば、1回目と同じような路線でシリーズ化する人もいます。さらに、ワークを続けます。

〈ワーク3回目〉
□作業内容は同じです。手元にある5つの単語を盛り込んで作文します。
□帰結ワードを変えます。講師は「夕焼け」とホワイトボードに書きます。
□さらに1点、要件を加えます。───「作文はサトシ君(中学3年生)に贈るものです。サトシ君は、高校受験の前日に交通事故にあって大けがをしてしまい、入院1週間目です。第一志望校の受験も見送らざるをえませんでした。ベッドで元気をなくしています」。


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さて、1,2回目のワークでは単純に作文すればよかったのが、3回目ではそれをやることの意味が加わりました。受講者は考えを巡らせます。どういう物語でサトシ君を励ませられるのかと。たとえば、このような作文が出てきます。

【出てきた作文例:Hさん・男性】
「光太郎は小さな島を飛び出て一流の『中華料理』人になるために、東京の名店で修行を重ねた。そしていよいよ独立して東京に店を出した矢先、火事を起こしてしまい、店は全焼。莫大な借金だけが残った。光太郎は生まれ故郷の島に戻り、『海』を見つめていた。人生、そんなに『甘い』ものではないな、と。でも、命をなくしたわけじゃない。どうにだってやり返せる。この絶望の先に『幸福』はあるはず。『夏の日』の『夕焼け』が水平線を赤く染めていた」。


サトシ君への励まし作文はいろいろと出てきます。上の作例のように希望を持つかぎり頑張れるというメッセージを込めた内容のものもあれば、なにかオチのあるおもしろい小話を作って気分を明るくさせるものも出てきます。

さて、この単純な3回の作文ワークによって、入社半年後の受講者に何を学んでもらうことができるのでしょうか? 何の「観」を醸成することができるのでしょうか───? 

私が意図するのは次の2点です。
 1)能力をひらく能力=「メタ能力」の重要性
 2)「優れた組織内プロフェッショナル」観の醸成


◆「メタ能力」とは
メタ能力の「メタ(meta)」とは「高次の」という意味です。たとえば心理学の世界では、「メタ認知」という概念があります。メタ認知とは、認知(知覚、記憶、学習、思考など)する自分を、より高い視点から認知することです。たとえば、何かスポーツをしているときに、実際にグランドに立ってプレーしている自分がいると同時に、試合全体を上から俯瞰し、自分を含め戦う相手や観客などを観察し、プレーする自分に指示を送る自分がいます。この俯瞰でみている意識のはたらきが「メタ認知」というわけです。

それと同じように、自分が持つもろもろの能力を、一段高いところから統合して成果に結び付ける能力をここで「メタ能力」と呼びます。

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【Ⅰ次元能力】能力をもろもろ保持し、単体的に発揮する
「〇〇語がしゃべれる」「数学ができる」「記憶力が強い」「幅広い教養がある」、「文章力が優れている」「表計算ソフト『エクセル』の達人である」、「〇〇の資格を持っている」「運動神経が鋭い」「論理的思考に長けている」───これらは単体的な能力、素養としての能力です。これらを発揮することをⅠ次元の能力があるととらえます。

新入社員の多くは、こうしたⅠ次元能力を自己の強みとして就活でアピールし、採用もされたので、その延長線上で配属されるだろうことを(一人勝手に)思っています。つまり───

・「私は語学力が買われた。だから海外折衝の部門に配属されるはず」。 →でも、国内支社の購買部に配属された。意欲ダウン
・「私は広告研究会でコピーを何本も書いてきた。その能力で採用されたにちがいない。だからクリエイティブな仕事のできる部署に配属されるはず」。 →ところが、体育会的な営業部に配属された。意欲ダウン


会社では往々にしてこのような配置があるわけですが、これを彼らがミスマッチだとして意欲の低下や安易な転職につながらないようにするために、会社側は新入社員たちに対して、メッセージを発しておくことが必要です。すなわち、「あなたがたの採用はⅠ次元能力を見込んでのことではない。Ⅱ次元能力・Ⅲ次元能力こそ、会社が期待するものである」と。

【Ⅱ次元能力】能力を“場”にひらく能力
私たちは仕事をするうえで、能力を発揮する「場」というものが必ずあります。たとえば、営業部で働いているとすれば、その営業チームという職場、営業という職種の世界、そして事業が属する市場。一般社員であるか管理職であるかという立場。これらが「場」です。そして場はそれぞれに目標や目的を持っている。

私たちは、もろもろに習得した知識や技能(=Ⅰ次元能力)を、さまざまに編成して「場」に成果を出そうと努める。このⅠ次元能力を一段上から司る能力が、Ⅱ次元能力であり、ここで「メタ能力Ⅱ」と名付けるものです。

【Ⅲ次元能力】能力と場を“意味”にひらく能力
さらに言えば、もろもろのⅠ次元能力を自在に組み合わせ、場の要請に応じて成果を出し、ある大きな意味・事業理念を満たしていく(そのために新しい能力を積極的に獲得したり、場をも変えていったりする)能力が、Ⅲ次元能力/メタ能力Ⅲです。

さきほどの「モザイク作文」が、まさにこのメタ能力という概念を肚に落とすためのワークです。つまり、5枚のカードは自分が持つ単体の能力(Ⅰ次元能力)です。そして講師がホワイトボードに書く帰結ワードは、場が与えるミッションです。そのミッションをかなえるべく、5つの能力素材を組み合わせて、自分なりの成果物(=作文表現)を出す。自分の得意で好きなⅠ次元能力の延長に業務があるのではない。会社という事業組織においては、必ず「場」(職場・市場・立場)からの要請・需要があって、それに応える形で成果を出していく。それが「会社という舞台で仕事ができる人」であり、「優れた組織内プロフェッショナルの姿」なのだ、というマインドセットに通じていくワークです。

そういう仕事観・能力観・プロフェッショナル観を会社側が発信していかねば、いつまでも彼らは「会社はやりたいことをやらせてくれない」とか「ミスマッチだ」などの感情に傾きやすく、組織にとっても個人にとってもハッピーでない状態に陥るリスクが継続します。

「単に~ができる」というⅠ次元能力を超えて、どんな部署に配属されようと、どんな業務命題を与えられようと、そこで成果を出し、大きな意味のもとに自分をひらいくメタ能力に優れた組織内プロフェッショナルに育っていってほしい───そのメッセージを研修プログラムに込めて伝えるのが、新入社員フォロー研修の大きな目的になりえるのではないでしょうか。


◆分厚い観から出た言葉を差し出す
知識や技術は伝授や植え付けが可能ですが、観やマインドはそうした一方的な教え込みはできません。あくまで、ある観を示し、それによる影響や感化によって本人の内の醸成を促すことができるのみです。研修でさまざまなワークや講義を行った後に、私が届ける言葉はたとえば次のようなものです───

「最初の仕事はくじ引きである。
最初から適した仕事につく確率は高くない。
得るべきところを知り、向いた仕事に移れるようになるには数年を要する」。
───ピーター・ドラッカー(経営学者)

「下足番を命じられたら、
日本一の下足番になってみよ。
そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」。
───小林一三(阪急グループ創設者)

「小さな役はない。小さな役者がいるだけだ」。
───(演劇の世界での言葉)

「人生とは10パーセントの我が身に起こること、
そして90パーセントはそれにどう対応するかだ」。
───ルー・ホルツ(米・アメリカンフットボールコーチ)

「転職は、今いる会社で実績を積み、“伝説”をつくってからでも遅くはありません。
いや、実績を積んだときはじめて、転職するもしないも自由な身になれるのです」。
―――土井英司『「伝説の社員」になれ!』


こうした言葉の含蓄を彼らがどこまでそしゃくできるかはわかりません。しかし、耳に入れておくのとそうでないのとでは大きな違いが生まれます。こうした下地があれば、この先、彼らが遭遇する出来事から、「あ、あのときのワークはこういう意味があったのか! あの言葉の本質はこれだったのだ!」という気づきが起こりやすくなります。そしてそのときの意識変化、行動変化は根本的なものになるでしょう。「観・マインド」醸成の教育とはこうした中長期わたってじわりと効いていく類のものです。

昨今、人事担当者の間では社員を「自律的」に育てたいということがよく言われます。この「自律」とは何でしょう。“律”とは規範やルールです。つまり、自らの規範やルールに基づいて判断、行動できることが自律ということです。自らの規範やルールを内面に打ち立てるには、そもそもその根っことなる価値基軸や観がしっかりなければなりません。ですから、自律的な人材の育成には、観の醸成教育を避けて通ることはできません。

と同時に、そこでは組織側の観も問われることになるでしょう。一体全体、会社はどんな就労観、事業観、人材観、キャリア観、社会観を持って事業を推し進めようとするのか。そこをていねいに発信し、社員と共有しようとすることが会社にも求められます。「観は人それぞれ多様だから、縛ることはよくない」というのは、社会全体には言えることですが、こと事業体にあっては、むしろ観を共有できる人が集まって、強い思いの製品・サービスをつくるほうが望ましい姿といえます。共有できる理念・バリュー・文化が土壌としてあって、その上に多様で強力なアイデアが出る。昨今、顧客に強く支持される企業の共通点はそういったところにありはしないでしょうか。

いずれにしても、新入社員に対し、技術習得や知識獲得とは別に、意味・価値次元からものごとを考える機会を、内面の揺らぎの大きい20代にこそ豊富に与えるべきだと思います。「観・マインド」の醸成や共有は、しかるべきタイミングを逃すと、人の内面の土壌は固まってしまい、後からの教育はなかなかうまくいきません。新入社員をけっして子ども扱いせず、真正面から「観・マインド」を見つめさせる問いを投げかけていいのではないでしょうか。


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【関連記事】
●3つの「テンショク」~展職・転職・天職
●新社会人に贈る ~力強い仕事人生を歩むために


2015年3月22日 (日)

新社会人に贈る2015 ~働くという「鐘」「山」はとてつもなく大きい

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陽光きらめく春。このたび社会人となり、職業を持つみなさん、おめでとうございます。これから何十年と続く仕事人生の出発にあたり、次の2つのことをお伝えしたいと思います。

1)「働くこと」は深く応えてくれること梵鐘のごとし
    ~あなたは鐘を割り箸でたたきますか、丸太でたたきますか

2)「働くこと」はおおいなること山のごとし
    ~「登山型キャリア」と「トレッキング型キャリア」




◆目の前の仕事にどれだけ「強く」当たれるか
まず1点めです。「職・仕事・働くこと」は梵鐘のようなものである───いきなりそう言われてもピンとこないかもしれませんが、私は若手社員の研修でよくこの比喩を用います。

働くことは、ほんとうに奥深い人間の営みです。私たちは、職・仕事を通して、無限大に成長が可能ですし、またそこから無尽蔵に喜びや感動を引き出すことができます。それはあたかも、働くことがお寺に吊してある大きな鐘のようなもので、丸太で力一杯しっかりとたたけば、ゴォーーンと深い音で鳴ってくれることに似ています。

ところが本来そんな深い音を鳴らす鐘であっても、割り箸のような木でちょこちょことたたいたならどうでしょう。チン、チーン、カラン、カランと、鍋ややかんをたたいているくらいにしか鳴りません。要は、鐘が深く味わいのある音を鳴らすのも、浅く軽い音を鳴らすのも、すべてはたたき方しだいということです。

みなさんはこれから緊張と高揚に包まれながら、スタートダッシュで懸命に仕事を覚えていくでしょう。おそらく、最初の半年や1年はすぐに経つと思います。そして2年が経ち、3年が経つころから、人によって差が出てきます。どういう差かというと、仕事という梵鐘をどんどん大きく鳴らすことができ、働くことの面白さや奥行きの広さを知っていく人と、仕事ってしょせんこんなものかと言って、働くことに対し強く当たることをやめてしまう人との差です。後者の人たちは、当然、梵鐘の鳴らす深い音を聴くことはありません。

働くという梵鐘は目に見えません。ここがとても重要な点です。もし働くという梵鐘が立派で大きな形として見えているものであれば、だれしも丸太でたたいて、よい音を鳴らせてみせようとがんばることができます。ところが実際は、働くことがどれほどの大きさなのか、そしてどれほどのものを自分に返してくれるかはわからない。一生懸命たたいたとしても、いい音が鳴らないかもしれないし、即座に反応してくれないときもある。仕事が自分の期待どおりに進むことは少なく、「なんでこうもうまくいかないんだ」と落ち込むことは頻繁に起こります。そんなとき、鐘にケチをつけるのは筋違いです。それは梵鐘の問題ではなく、あくまでたたくほうである私たち一人一人の問題なのですから。

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みなさんの職業人生はこれから何十年と続きます。けっして短気を起こさず、地道に能力を身につけ、意志を強く育み――すなわち、それが丸太を担ぎ、鐘をたたけるような力を持つということ――、目の前の仕事にひとつひとつ当たっていってください。すると中長期的には必ず思いどおりの音が鳴り響くようになるはずです。そしてその深く遠くまで響く音は、周囲の人にもよい影響を与えるものになるでしょう。


◆「10年後どうなっていたいか?」という質問に答えられなくてもよい

2つめの話に移ります。私は入社3年~5年目くらいの若手社員にキャリア研修を行っています。すると、少なからずの人たちから「いまの会社・いまの仕事で何を目指していけばよいのかわからない……」といった声が漏れ聞こえてきます。

就職活動のときは、あれほど志望動機を考えたはずなのに、いざ入社してみると、仕事の内容や会社の様子が実は思っていたものと全然違ったものであったり、あるいは予想外のところに配属されたりして、でも、ともかく目の前の仕事をこなすことにてんてこ舞いになる。そして働き始めて数年も経てば、当初の志望動機は知らずのうちに消え去ってしまっていて、「あれ、自分はこの会社でいったい何をしたいんだろう?」となる。

たぶん、これを読んでいるみなさんの中にも、入社して数年後にはそうやって悩む人が出てくるでしょう。そんなときのために、キャリア形成には2つのタイプがあることをお伝しておきましょう。

◆頂を目指す「登山型」/穏やかに回る「トレッキング」型
もし、あなたが職業人として一心不乱に没頭できるキャリア上の目標像・到達点が確固とあり、そこに邁進しているのであれば、それはとても幸福な働き人です。どんどん突き進めばよい。しかし、世の中には、そういった明確な目標が見出せない人のほうが圧倒的に多いものです。特に会社員の場合は、自分の配属は自分で決めることができず、中長期の目標を見出しづらい存在です。しかし、このことにめげる必要はまったくありません。山の楽しみ方に、「登山」と「トレッキング」というタイプがあるように、キャリアにもこの2つのタイプがあるからです。

登山の場合、目標はただ一つ「登頂」です。その結果を得るためにあらゆる努力をしていく。頂を目指す途中、道草はしない。

つまり、「登山型のキャリア」とは、「プロ野球選手になってホームラン王をとる!」とか「弁護士になって多くの人を助けたい!」、あるいは「新薬開発の先進企業に入ってガンの治療薬をつくりたい!」「この会社でNo.1の営業マンになる!」などのように、唯一絶対の頂上を決めて脇目も振らずそこを目指すキャリアです。

他方、トレッキングの場合は、登頂のように明確な目標をあらかじめ掲げるわけではありません。山の中を回遊して、何か自分のお気に入りの場所を探すというその活動自体を楽しみにするものです。途中でたまたま見つけた滝や池が気に入れば、しばらくそこにたたずんでその居心地を楽しめばいいし、道端に咲く植物をいろいろと観察しながら時間をかけて歩くのもいいでしょう。そうした過程で山の奥深い細かなものがさまざま見えてくる。

すなわち、「トレッキング型」のキャリアは、「自分は絶対ここを目指すぞ」というような目標は思い浮かべていない(浮かべられない)けれども、会社内でいろいろな部署を経験したり、場合によっては転職したりして、働く環境を変えつつキャリアを形成していくスタイルです。あるときは営業現場で商品を売ることの楽しみや苦労を知ったり、あるときは企画部門で新しいアイデアを打ち出すことの奥深さや大変さを知ったり。また、業界を越えて転職したときなどは、業界ごとで仕事に対する考え方がこんなに違うんだ、と感じることもあるかもしれません。

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そうしてトレッキングを続けていくと、しだいに山のことがわかってきて、体力や技術もついてくる。すると自分の登りたい山が見えてきて、その頂上に挑戦したいなと思えるときがやってくるかもしれない。そのときが「登山型キャリア」への転換点です。ですから、「いま何を目指してよいかわからない」という人に対し私は、あせらずトレッキングを楽しむことでいいのではと答えています。

私自身も、20代、30代はトレッキング型でした。メーカーや出版社など数社を渡り、さまざまな仕事を経験しました。そして40代になって、人財教育事業という山がすーっと見えたのです。「これをライフワークにしたい。この道を自分なりに究めたい」と思い、独立しました。だから、いまはどっぷり登山型のキャリアです。私がいま見つめている頂上は、「働くとは何か?の第一級の翻訳者になる!」「100年読まれ続ける本を著す」です。そこを目指し、日々、険しい岩斜面にはいつくばって一歩一歩登っています。

登山型とトレッキング型とで、どちらがよいかわるいかという問題ではありません。人それぞれでいいと思いますし、一人の人間の中でも人生の状況によってどちらを選ぶかが変わってきます。ただ、ハイリスク・ハイリターンという意味では、登山型は危険が大きい分、達成したときの喜びも成長も大きいといえます。そして何より自分の強い意志で見出した頂上を目指すわけですから、人生の醍醐味がそこにはあります。

いずれにせよ、働くことという山は巨大で奥深く、さまざまな楽しみも試練も内包しています。登っても登っても、歩いても歩いても、そこから得るものには限りがありません。みなさんはいよいよこの山の中に入っていきます。おおいに山に育んでもらってください。

では、みなさんお一人お一人のご活躍を期待しています。いつかどこかでお会いしましょう!


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【過去の記事】
〇新社会人に贈る2014 ~仕事は「正解のない問い」に自分なりの答えをつくり出す営み

〇新社会人に贈る2013 ~自分の物語を編んでいこう

〇新社会人に贈る2012 ~キャリアは航海である

〇新社会人に贈る2011~人は仕事によってつくられる

〇新社会人に贈る2010 ~力強い仕事人生を歩むために




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