4) 組織と個人・人とのつながり Feed

2010年5月 2日 (日)

上司をマネジメントする〈3〉~上司ストレスを軽減する


目の前の上司をいかにマネジメントするか―――
(結局それは、自分の心と行動をどうマネジメントするかでもあるのですが)
そのことには2つの目的があります。

1つは、上司との関係ストレスを軽くすること。
もう1つは、上司という資源を活かして自分の仕事・キャリアを最大限に大きく広げること。
言ってみれば、前者はネガティブ要因を軽減するための方策で、
後者はポジティブ要因を増幅するための方策です。
今回と次回は、前者についてのことを書きます。

◆「なんであんな上司が高給を(怒)!」
さて、きょうのコアメッセージは次の言葉です;

「事柄に怒ってはならぬ。事柄はわれわれがいくら怒っても意に介しない」
                                     ――――モンテーニュ


分からず屋の上司、無能な上司、ノルマばかりを押し付けてくる上司、
理不尽な上司、権威主義な上司、プライドだけが高い上司、
いつも上役に媚びを振る上司、言うことがぶれまくる上司、決断しない上司、
自分の保身しか考えない上司、意地の悪い上司、嫉妬深い上司、
不衛生な上司、ねちっこく部下を追い詰める上司……
等々、サラリーマン組織では、反面教師としたい上司が多々見受けられます。

そんなとき部下は、
「なんであんな人間が部課長として居座れるんだ!」
「あの上司が自分より高い給料を取っているなんて許せない!」
「あんたみたいな上司に言われたくないよ!」
「上司なんだから能力があるはず。人間としても人格者であるべき」
……と、イライラが募る場面も多いでしょう。

あるいは、逆に、
「こんな上司の下で働かなければならないのも自分の運だ。あきらめよう」
「上司の追求も正しいのかもしれない。できない自分がダメなんだ」
……と、自分をとがめて辛抱してしまう人もいるかもしれません。

いずれにせよ、
こんな精神状態で日々の職場を過ごすことは、確実に自分を痛めつけます。
そこできょうの本論は、「ABC理論」による上司ストレスの軽減です。

◆その出来事ではなく、信念が感情を引き起こす
臨床心理学者アルバート・エリスが提唱した論理療法「ABC理論」の原理を簡単に紹介しましょう。

ABCとは、次の3つを意味します。
 ・(Activating Event)=ものごとを引き起こすような出来事
 ・(Belief)=信念、思い込み、自分の中のルール
 ・(Consequence)=結果として表れた感情、症状、対応など

私たちは、何か自分の身に降りかかった出来事に対し、
「よかった」とか「悔しい」とか感情を持ちます。
ですから私たちは単純に、この場合の因果関係をA→Cであるかのように思いがちです。

ところが実際は、その感情〈C〉を引き起こしているのは、
出来事〈A〉ではなく、
その出来事をどういった信念や思い込み〈B〉で受け止めたかによる
というのがこの理論の軸です。
すなわち、因果関係はA→B→Cと表されます。


Abctheory 

例えば、ある職場の同僚2人が昼食のためにある定食屋を訪れたとします。
2人は同じメニューを注文して待っていたところ、店員が間違った品を持ってきました。
そのとき、一人は
「オーダーと違うじゃないか。いますぐ作りなおして持ってきてくれ」と、
厳しく当たる反応をしました。

一方、別の一人は
「まぁ、昼食の混雑時だし間違いも時にはあるさ。
店員がまだ慣れてないのかもしれないし。時間もないからそのメニューでいいよ」と、
穏やかな反応をしました。

このように同じ出来事に対し、
結果として二人の持つ感情、そして対応がまったく異なったのは、
それぞれが持つ信念・思い込みの差であるといえます。

すなわち、一人は「客サービスとは、決して客の期待を裏切ってはいけない。
飲食サービスにおいて注文品を間違えるなどというのは致命的なミスである」
という信念を持っているがゆえに、あのような対応が生じました。
他方、もう一人は「混雑するサービス現場では取り違えや勘違いは起こるものである。
おなかが満たされれば、メニューにあまりこだわらない」
という信念で受け止めたために、あのような対応になりました。

◆自分の「べき・はず」論をどうコントロールするか
このことは、
私たちは身に降りかかってくる出来事を100%コントロールすることはできなくても、
それを受け止める信念や思い込みをコントロールすることによって、
結果的に生じる感情や対応を、自分の負担の少ないほうに緩和できたり、
自分のプラスになる方向へ誘導できたりすることを示しています。

上司との人間関係で言えば、
部下は上司の人間改造をそうそう簡単にはできませんが、
部下側が心持ちを変えることによって、対上司ストレスを軽減できるということです。

具体的には、次のようなことを留意するといいでしょう。

 ・過剰に受身的で従順な受け止めをして、自己犠牲しない
 ・過剰に攻撃的で利己的な思い込みを緩和する
 ・自分の「べき・はず」論に“遊び”(多少の余裕幅)を持たせる
 ・自分の主張を上司に100%「説得」しようと考えるのではなく、
  70%でもいいから「納得」してもらえればいいやと構える
 ・主語を「WE」(=自分のいる組織)にして考え、語る

自分の長いキャリアを健康に歩んでいくためには、
上司との間でうまく折り合いを付けながら、柔らかに自己を通していく術を身につける必要があります。
こう書くと、結局、自分の信条をすべて中和、緩和して、上司にすり寄り、
アイデンティティーの中核となる「べき」論を捨てろというのか、
それじゃ単なる優柔不断人間になれと言っているのと同じではないかと
お考えになる方もいるかもしれません――――それは違います。

職業人としてあなた自身は、
独自の「べき」論を持って、確固たる目標・目的をおおいに抱いてください。
それは上司や他人、世間がどう言おうと変える必要はなく、抱き続けるべきものです。

ただし、それを実現するための手段やプロセスにおいては、
我を通しすぎると障害が出てくることがあるので、
時に柔らかく受け止め方を変えて自分へのストレス負荷を軽くしてください。
なにせ、キャリアは何十年というマラソンなのですから健康が第一です。
健康を崩していては、目標も目的も台無しになるのです。

一本の樹を想像してみてください。
幹は揺るぎなくしっかり伸びていますが、枝葉は風になびいて、しなっています。
枝葉まで硬直してしまうと、強風にあおられて、
樹全体が折れたり、倒れたりしてしまうからです。
自分の信念をときにうまくコントロールして、 「しなる」ことが大事です
――――こういうことです。

上司との関係づくりにおいては、
ときに「負けるが勝ち」でいいじゃないですか。
そういう柔軟な“信念”が自分を助けます。

次回は、上司ストレス軽減の処方箋をもうひとつ紹介しましょう。

 

*本シリーズ記事の詳細議論は、拙著『上司をマネジメント』を参照ください。



2010年4月26日 (月)

上司をマネジメントする〈2〉~フォロワーシップという考え方

Grnwalk 


「上司」に対して「部下」という言葉があります。
では、 「リーダーシップ」 (leadership:指導性、統率者としての地位、任務、能力)に対して、
どんな言葉があるでしょうか?

――――答えは 「フォロワーシップ」 (followership)です。

これに関連して、もうひとつ質問します。

「ナポレオンはなぜ偉大なリーダーになれたのでしょうか?」
――――答えは、偉大な 「フォロワー」 がいたから。

◆フォロワーシップ=「従支性・従支力」
いまのところフォロワーシップに対してよい訳語は付けられていません。
私は、指導者に従い、支えるという意味で「従支」という言葉を当てたいと思います。

したがって、フォロワーシップとは、
「従支者としての立場やその能力」ということになりましょうか。

優れたリーダーの下には、必ず優れたフォロワーがいます。
逆に言えば、いくら潜在的に優れたリーダー資質を持った人でも、
彼に従い、彼を支えてくれるフォロワーがいなければ、タダの人に終わってしまいます。
ですから、ナポレオンが偉大なリーダーになりえた理由の最大のひとつは
偉大な従支者を持ったということなのです。

このことは現在の事業組織においてもまったく有効で、
ひとつの組織において、
優れたリーダーと優れたフォロワーが相互作用をはたらかせてはじめて
目覚ましい成果を出すことができるのです。

また、 一人の人間の中においても、
リーダーシップとフォロワーシップは同居しています

優れたフォロワーシップを発揮する者は、優れたリーダーになりえる―――
そうしたことを実証するフォロワーシップ研究も進んでいます。

リーダーシップとフォロワーシップはコインの両面である。
組織論やリーダーシップ論を研究する上で、この対になる2つの概念は注目されています。

◆フォロワーシップの5つのタイプ
フォロワーというと、上から言われたことを素直に聞いて動く
という狭いイメージになりがちですが、
実際のフォロワーはもっと広がりをもった存在です。

フォロワーシップを広く世に知らしめたロバート・ケリー教授(米・カーネギーメロン大学)は、
著書『指導力革命』(プレジデント社)の中で、
フォロワーを5つのタイプに分けています。
(タイプ分けには次の2つの軸を使っています;
「独自のクリティカル・シンキング」か「依存的・無批判な考え方」か、
「積極的な関与」か「消極的な関与」か)

その分類をかいつまんで説明すると……

○【「模範的」フォロワー】 (Exemplary Follower) 
独自の基準や価値判断で思考し、上司にも積極的にはたらきかけをするタイプです。
この手のタイプが上司マネジメントの能力も優れていて、
将来はみずからも優れたリーダーになっていく可能性が高いといえます。
組織の中では「ホープ」「エース」的な存在かもしれません。

○【「孤立型」フォロワー】 (Alienated Follower) 
自分独自の冷めた思考が要因となって、
上司へのはたらきかけをあまりしないタイプです。
いわゆるアウトロー、批評家タイプの部下がこれにあたります。

○【「消極的」フォロワー】 (Passive Follower) 
みずからの視点で考えることをせず、
また上司に対しても積極的にはたらきかけていくわけでもなく、
言われた分だけ「ま、やるか」というタイプです。
事なかれ主義の部下といっていいでしょう。

○【「順応型」フォロワー】 (Conformist Follower) 
上司から言われたことを無批判に受け入れながら、積極的に動くタイプで、
いわゆる「太鼓持ち」「ゴマすり」がこれに当たります。

○【「実務型」フォロワー】 (Pragmatic Follower)
上の4つのタイプの中庸をいき、
組織内での生き残りをしたたかに考える現実派タイプとなります。


◆志の高いゴマすり・志の低いゴマすり
神戸大学の金井壽宏教授は、『ハッピー社員』(プレジデント社)の中で、
フォロワーシップを「悪玉」と「善玉」に分けて説明しています。

 「悪玉フォロワーシップとは、簡単に言うと、『志の低いゴマすり』のこと。
 私利私欲のためだけに働くタイプが取る行動だ。
 常に自分の立場、自分の仕事成績のことだけを考えていて、
 そのため『便宜的に』権威者にゴマをするというフォロワーシップなのである。
  (中略)
 一方、善玉フォロワーシップとは、上司の示すミッションに共鳴し、
 かつそのミッションを果たすことが会社の利益になることを納得し、
 『喜んで』上司に仕えるというフォロワーシップのこと。
 これもゴマすりの一種だとしても、『志の高いゴマすり』であり、
 推進力、実現力を発揮するための一つのスキルである」。

* * * * *

私たちは上司をつかまえて、
―――「あの人にはリーダーシップがない」と簡単に批評はできます。

では今度、――― 「自分には優れたフォロワーシップがあるだろうか?」
と自問してみてください。

もし、胸にズキンときたら、きょうから「志の高いゴマすり」、
すなわち、いかに部下として優れたフォローができるかを考えてみてください。
それが上司をマネジメントすることにもつながってきます。

あなたが優れたフォロワーになることができれば、
私はそれを名づけて「賢従者」と呼びたいと思います。
(ちなみにそれに反対であれば「愚従者」と呼びます)

 

*本シリーズ記事の詳細議論は、拙著『上司をマネジメント』を参照ください。



2010年4月24日 (土)

上司をマネジメントする〈1〉~上司は「資源」である


Sinryoku1


4月は新期のスタートです。
人事異動がそこかしこであり、新しい部署に転属になった人や、
新しい上司・仲間を迎える人も多いでしょう。
あるいは逆に、新期にはなったものの、相変わらずの顔ぶれでまた1年か、
と思っている人もいるかもしれません。

そこで、以降数回にわたって、「上司をマネジメントする」シリーズをお送りします。
上司/部下間の人間関係づくりにつき、マインドのリセットを行うヒントとしてください。

念のため書き加えますが、
“部下が”上司をいかにマネジメントするかというテーマです。
(上司が部下をマネジメントするという方向ではありません)

「上司をマネジメントする」という発想・実践は、
職場のダイバーシティ(人種の多様性)の進む米国でいち早く発展しました。
米国では、上司が年下であったり、女性であったり、
人種の異なる人であったりすることはよくあることですし、
また(これは国を問わず)「モンスター」と呼ばれる難物・変人・奇人の上司も多い。
ですから、部下側のほうが上司との人間関係をうまくマネジメントしてみる、
そんな意識が早くから芽生えたと考えられます。

そしてさらには、部下が上司をうまく活かす能力というのは、
リーダーシップとは対になる概念=「フォロワーシップ」であるとした研究が
上司マネジメントへの注目をいっそう集めさせる結果となりました。

米国では、書店の棚に行くと「How to manage your boss」とか
「Managing upward」などといったタイトルをよく見かけます。
また、大学院の中には、いわゆる「ボス・マネジメント」を
MBA(経営学修士)コースの科目にしているところもあります。

「賢い部下ほど上司を活かす」―――では、上司マネジメントの本題に入ります。

* * * * *

◆「上司」とは何か?
ここに「1」「2」「3」と書かれた三枚の数字カードと、
「+」「-」「×」「÷」と書かれた演算カードがあります。

そして、いまあなたは、業務上の命令として「6」という数字にたどり着くことを
会社から要求されています。
さて、この三枚の数字カードと四則演算カード(この演算カードは何度使ってもよい)
を組み合わせて、あなたならどうやってこの命令を達成しますか。

・・・・・・・

これに対し、ある人は「2×3」という達成のしかたをするかもしれません。
また、ある人は「1+3+2」、
さらに別の人は「3×2÷1」とするかもしれません。
「6」へのたどり着き方はさまざまあります。

では今度は、業務上の命令が変わって、「8」を言い渡されました。
手持ちのカードが変わらないとして、どうたどり着くことができるでしょうか。

・・・・・・・

さすがに現状、「8」にはどう転んでもたどり着きません。
達成のしようがないのです。
では、このときどうすればいいとあなたは考えるでしょうか。

――――そう、手持ちのカードを増やせばいいのです。

例えば、「4」というカードを一枚増やせば、
「1+3+4」や「2×4」などの方法で達成が可能になります。

◆いかに自分の外にあるカードを増やすか
私たちが職業人としていかに多くの命令や目標、ゴールを達成できるかどうかは、
ひとえにいかに多く手持ちのカードを持っているかにかかっています。

手持ちのカードとは、
一つには自分自身が持ついろいろな知識や能力、体力、人脈です。
そしてもう一つは、
自分以外、つまり他の働く人々が持つ知識や能力、人脈と、
会社組織が持つ資金力や設備力、情報力、信用力といったものです。

手持ちのカードの種類や枚数が豊富で多様であれば、
自分が成就できることも豊富で多様になります。
ただ、いくら努力しても自分一人が習得できるカードは限られています。

そうしたとき、考えなくてはならないのが、
他者の持っているカードや会社組織の持っているカードをうまく活用することです。
これは自分の身に取り込んだカードではなく、借り物のカードですが、
成果を出し、目標を達成するためにはどんどん使っていいカードなのです。

なぜなら、個々の社員が成果を出すこと、目標達成することは、
組織全体の好業績に直接つながっていくので、
組織としても、個々の社員が組織内にある資源を最大限活用してくれることを
おおいに望んでいるからです。

◆上司は仕事を成すための「資源」である
さて、自分の外からカードを引き出すとき、その最大のカードホルダーは何でしょうか?

―――それは間違いなく、あなたの「上司」です。

確かに、会社という組織も潜在的には多くのカードを持っています。
しかし、会社の資源を引き出すためには、目の前にいる上司の承認が必要なのです。
上司自身から引き出せるもの、そして上司の承認を通して会社組織から引き出せるもの、
これらを合わせて考えると、
上司は潜在的に非常に大きな「資源」の固まりということになってきます。

小さくは日々の業務で成果を上げるため、
大きくは自分の仕事上の思いや夢、志をかなえるために、
上司という資源を有効に活用することが賢い職業人なのです。

しかし、私たちは往々にして上司を貴重な「資源」としてみることができません。
なぜなら、「とっつきにくい」、「ノルマばかり押し付ける」、
「権威主義だ」、「優柔不断で困る」などなど、
上司個人が持つ性格や人間性が高い壁となって、
そこから部下がカードをなかなか引き出せないでいるという現状があるからです。

こうした状況は、上司と部下、そして会社にとっても好ましい状況ではありません。
この状況を脱し、部下が上司を資源とみるためには、意識を変える必要があります。
すなわち、上司を分解してとらえるという転換です。

上司は次の三つの層に分解してとらえることができます。

〈1層〉 権限、機能を持った存在…… 「一役職人」としての上司
〈2層〉 知識、能力、経験、人脈を持った存在…… 「一能力人」としての上司
〈3層〉 個性、人格を持った存在…… 「一人間」としての上司

私たちは、組織において“上に仕える”といった場合、何に仕えているでしょうか。
おそらく大部分の人は、〈1層〉から〈3層〉を一緒くたにした上司に仕えている
と認識しているのではないでしょうか。
ですから、その上司が〈3層〉、すなわち一人間として問題が多いとついつい毛嫌いしてしまい、
少なからず持っているかもしれない〈1層〉や〈2層〉からの資源を引き出せずに終わってしまうのです。

上司3層図


◆その「人間」ではなく、「役職」に仕えるという発想
したがって、私たちにとって重要なことは、
部下は上司であるその「人間」に仕えるのではなく、
その「役職」に仕えるという発想からスタートすることです。

まず目の前の上司を〈1層〉のみで見つめてみる。
上司が持っている「権限・機能という引き出し」の中には、
自分が仕事をやりやすいようにヒト・モノ・カネを動かしてもらえる資源がたくさん入っています。
チームに人を増員してもらう、
業務上の効率化のために設備を増強してもらう、
何か自分で身につけたいスキルがあればセミナーへの参加費を出してもらう、
また、社外の交渉でてこずっていたら、上司に同伴してもらって援軍をしてもらう、
など、一役職人としての上司が持つ資源はいろいろと使い手があるものです。

それらを活かすことで、自分の仕事がラクにはかどり、
アウトプットに幅が出るのであれば、
上司の性格的な違和感などは「しょうがないか」と寛大に構える ことです。

次にもし、上司が一能力人として優れた点があるとすると、
例えば、本人の蓄えた知識や技能を教わる、
人脈を紹介してもらうなど、〈2層〉の資源を引き出しにかかればいいわけです。

そして、最後に、その上司が一人間としても尊敬でき、親しくできるなら、
交流を〈3層〉レベルにまでもってきます。
仕事のもろもろの相談をはじめ、プライベートの相談にものってもらうことができるでしょう。
また、上司/部下の関係がなくなった場合にでも、
人生のアドバイザーとしてその後も貴重な存在になるでしょう。

◆要は部下がどれだけのものを引き出せるか
私たちは、上司とはそれなりに仕事経験・人生経験を持ち、
自分よりも高い給料に見合ったパフォーマンスを上げ、
人格的にも優れているという理想・べき論のもとに、その人間に仕えようとします。
しかし、その理想・べき論による上司への期待をいったん捨てたほうがいいでしょう

―――現実の上司は欠点、不足だらけです。
ですが同時に、部下が引き出すべき資源はたくさん持っているのも事実です。
その引き出し方を最大限うまくやろうというのが「上司マネジメント」です。

まずは、上司を「一役職人」としてみること。
ここから引き出せるものがあれば、あなたは幸運です。
次に、上司を「一能力人」としてみる。
本人から学ぶべきものが見つかれば、あなたは相当に幸運です。
最後に上司を「一人間」としてみる。
仕事を離れてもいい付き合いができそうなら、あなたはきわめて幸運な出会いをした人です。

いずれにせよ、よい上司なら教官、コーチ、メンター、支援者、師となってくれ、
部下の引き出し方いかんによって、いろいろな資源カードを与えてくれる。
わるい上司であっても、それを反面教師としてさまざまなことを考えさせてくれる。
そんな上司を会社は自動的に付けてくれ、指導料も取らない。
(むしろ給料さえやるという)
―――そう考えると、会社とは何とありがたいシステムではありませんか
自営で事業を始めた私には、もはやタダで上司を付けてくれる人などいないのです。

上司は「資源」です。
それを最大限活かさない手はない。
そうでなければ自分のキャリアが「モッタイナイ!」。


*本シリーズ記事の詳細は、拙著『上司をマネジメント』を参照ください。

 

Sinryoku2 
春は英語で“spring”。
springとは「湧き出ずる」という意味。確かに自然はそこかしこから緑という色を伴って
生命を湧き出している。また、springとは「弾む・跳ねる」の意味も持つ。
日本語の春の語源である「張る」に通じる。古人の春に込める思いはどこも変わらない。

 

 

2009年5月 2日 (土)

「会社の目的」「個人の目的」:2つの円を重ねる

Kw80 きょう、最新著『ぶれない「仕事観」をつくるキーワード80』の著者献本分10冊が届いた。この連休明けには、書店に並び始めると思います。
3月刊行の『いい仕事ができる人の考え方』も、まだ多くの書店様に平積みしていただいているので、自著の2冊が同時に並ぶことになります。

私自身も、都内のいろいろな書店に様子を見に行くわけですが、
自分の子供2人を成人に育て上げ、世間に送り出した感じで、
どうか1人でも多くの読者に見てもらえればと祈る気持ちを込めて、平積みしてある自分の本を整えてきます。

さて、その最新著の中からきょうも1キーワード。
――― 「会社の目的・個人の目的」。

会社には会社の事業目的がある。
そして、個人には個人の働く目的がある。
この両者の目的の重なり具合によって、次の三つの関係性が生まれる。

2tunoen ■タイプ1:【健全な重なり関係】
会社と個人の間には、何かしらの共有できる目的観があり、
両者は協調しながら関係性を維持・発展させていく。

こうした関係の下では、ヒトは「活かし・活かされ」といった空気ができあがる。
会社は働き手を「人財」として扱い、働き手は会社を「働く舞台」としてみる。
さらにここに、強い理念を掲げた魅力ある経営者が求心力となれば、
その組織はとても強いものになる。

■タイプ2:【不健全な従属関係】
会社の目的に個人が飲み込まれ(この場合、たいてい個人はみずからの目的を明確に持っていない)、
個人が会社に従属し、いいように使われてしまう関係となる。

個人が他に雇われる力のない弱者である場合、
会社は雇うことを半ば権力として暴君として振る舞う。

■タイプ3:【不健全な分離関係】
会社と個人はまったく別々の目的観を持っていて、両者の重なる部分がない。
会社はとりあえず労働力確保のために雇い、
個人はとりあえず給料を稼ぐためにそこで働くといった冷めた関係となる。


長き職業人生を送っていくにあたり、望むべきは、当然、一番目の関係性です。
つまり会社側の目的と個人側の目的と、二つの円が多少なりとも重なり合うこと。
この重なりは、賃金労働というカネの重なりではなく、
価値とか理念とかそういった意味的な重なりを言います。

ピーター・ドラッカーはこう言う。
「組織において成果をあげるには、
自らの価値観が組織の価値観になじまなければならない。同じである必要はない。
だが、共存できなければならない。さもなければ心楽しまず、成果もあがらない」。

―――『仕事の哲学』より

会社と個々の働き手の間で意味的な共有がなされ、
魅力的な経営者が求心力を創造している組織の典型を、
私は本田宗一郎の次のような言葉の中に見出します。

「“惚れて通えば千里も一里”という諺がある。それくらい時間を超越し、
自分の好きなものに打ち込めるようになったら、こんな楽しい人生はないんじゃないかな。
そうなるには、一人ひとりが、自分の得手不得手を包み隠さず、ハッキリ表明する。
石は石でいいんですよ。ダイヤはダイヤでいいんです。
そして監督者は部下の得意なものを早くつかんで、伸ばしてやる、適材適所へ配置してやる。

そうなりゃ、石もダイヤもみんなほんとうの宝になるよ。
企業という船にさ 
宝である人間を乗せてさ
舵を取るもの 櫓を漕ぐもの 
順風満帆 大海原を 和気あいあいと
一つ目的に向かう こんな愉快な航海はないと思うよ」。

―――『本田宗一郎・私の履歴書~夢を力に』“得手に帆を上げ”より


【すべてのビジネスパーソンへの問い】
□組織の事業目的と、自らの働く目的は、どのように重なるのだろうか?
 ・目指すべきことが同じ方向?
 ・顧客・社会へ届けようとしている価値が同じようなもの?
 ・組織の拡大は、自分の成長につながっている?   などなど
□自らの働く目的があいまいで、組織の目的に従属させられていないだろうか?
□両者の円は重なる部分がなく、「(食うために)しょうがない感」で働いているのだろうか?

【経営者・上司・人事の方々への問い】
□組織の事業目的と、個々の働き手が持つ目的とを、重ね合わせをするような対話をしているだろうか?
□組織の目的遂行のために、働き手を蹂躙していないだろうか?
□2つの円が重ならないまま、放置していないだろうか?

2009年3月17日 (火)

転職は会社への裏切りか!?

Img_0340s ●新著発売!●

いよいよ新著が書店に並び始めました
おかげさまで、版元様(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の営業の方々のご努力や、書店様の協力によって、いい場所に置いていただいています。

出版不況とはいえ、日々刊行されてくる単行本の量は過剰ぎみですから、あの一等地の棚に平積みされるのは、ほんとうにごく一部のタイトルなんですね。
今回の私の本とて、動きが悪ければ、一冊を棚刺しにして、あとは返本という現実も覚悟せねばなりません。

いずれにしても、「いい内容の本を書いたんだから、自然と売れるだろう」は、
書き手の勝手な思いであって、
いまは「読まれるための努力や仕掛け」が不可欠な時代です。

私も今回いろいろな方の応援で押し上げてもらっています。
ディスカヴァーの干場社長にも、社長室ブログでエールをいただいています。
(→こちら)

*店舗写真は「TUTAYA ROPPONGI」
お店に撮影許可をいただいています


●元の会社社長のもとへご挨拶●


さて、きょうの本題「転職は裏切りか!?」への前振り話題です―――
きょう、新著を携えて、私が最初に就職したプラス株式会社に行ってきました。
要件は、今泉公二社長への面会です。

私のプラス勤務時代は大学上がりたての一商品開発部員。で、今泉社長は当時、商品開発本部長。
組織内の役職としてはかなり差があるのですが、当時からよく面倒をみていただきました。

私は、結局3年でプラスを去るわけですが、
私の転職目的がある夢に根差したものであることを理解くださり、
「修行して、いつでも帰って来い」というような感じで送り出してくれました。

ちなみに、私の当時の直属の上司(商品開発部長)は、岩田彰一郎さんで
その後、アスクル株式会社を立ち上げられました。

今泉社長にしても、岩田アスクル社長にしても、
いまだに私が本を出すたびに喜んでくれ、励ましてくれます。
いまだに、いい関係が保持されています。
人間関係が個人レベルで結ばれていれば、
転職は特段支障になることはありません。


もし、転職で関係が途切れてしまうのであれば、
その関係は、単に仕事上の結びつき、労使の契約上の関係だったのでしょう。


現状の私の仕事と、プラスやアスクルの事業とは接点がありませんが、
常に私は目に見えない絆引力でプラスという会社をある距離で周回しています
もし具体的な仕事面できっかけができるや否や、恩返しをするスタンバイはいつでもできています。

転職して出た会社と自分との関係は、こういう感じでいいのだと思います。


◆「永遠の誓い」か「一時の目的共有」か

私は、人と人、もしくは人と組織との関係において二つのタイプがあると考えます。
それは、
「永遠の誓い」関係と
「一時(いっとき)の目的共有」関係です。

結婚は前者の典型で、
自分と学校とは後者の関係に属します(人生のある期間、修学目的を共有するという解釈)。

転職に何か会社への裏切り行為のようなネガティブなイメージが付きまとっているのは、
戦後の高度経済成長期から慣行としてきた終身雇用制の下で、
労使間が暗黙のうちに
結婚にも似た「永遠の誓い」関係を前提にしてきたからなのでしょう。
つまりそこでは、別れは約束破りであり、悪であるという意識が芽生えるわけです。

ですが、世は平成に入り、会社と働く個人の関係が変わり始めました。
会社も終身雇用を言わなくなり、ヒトは流動するものと認識が変わってきました。
現在のビジネス社会では、会社とその従業員は、
ある期間、事業目的を共有して利益活動をするという関係でとらえる部分が大きくなりました。

ですから、ある目的を終え、次の目的が互いに共有できなくなれば、
ヒトがそこを去っていくのはやむかたなしと肯定的な流れになっています。

IBMやアクセンチュア、リクルートといった企業は
人財輩出企業として有名で、転職者が多い。

そしてその企業OBOGたちは、有形無形、直接間接に
自分たちが巣立った会社と関係を持ちながら、業界全体を育てている事実があります。
彼らの意識においては、個人と企業の関係は、「永遠の契りを結ぶ男女」関係というよりも、
「学生と学び舎(学校)」の関係に近いのでしょう。
在学中はその学び舎で一生懸命勉学に励み、いったんは卒業しても母校として懐かしみ、
恩義を感じる。そんな感じの関係です。

私が元の会社のプラスに戻っていけるのは、そういう感覚がはたらいているからです。

「よい転職」というのは、会社への「裏切り」ではなく、「巣立ち」です。

転職後も、元の会社や元の上司・仲間たちと良好な関係を維持することは全く可能なことです。
その会社に恩返しできることもたくさんあるでしょう。
ですから、自分の目的がはっきりしているのであれば、
転職に罪悪感は不要です。

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