6) 人財育成ビジネスへの視点 Feed

2013年4月13日 (土)

親とともに学ぶ「子ども向けキャリア教育」

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大野ダンススクールの生徒たちとともにキャリア教育の講習会
2013年4月7日(日) 恵庭市民会館(北海道)にて



 私にとって2回目となる「子どもたちに向けたキャリア教育授業」を、過日、北海道の地で行うことができました。

 前回、広島県福山市立山野中学校で行った様子をこのブログで伝えたところ(→その模様はこのページ)、
記事をご覧になった大野ダンススクール(北海道・恵庭市)代表の大野正幸さんから、「うちの生徒にも是非受けさせたい」というご連絡がありました。大野さんが要望する理由は次の3点でした。

 1点目として、子どもたちにダンスを教えているが、ダンスがうまくなるためには技術指導だけではなく、精神面の指導まで踏み込まなくてはならない。(私が行った)山野中学校の特別授業には、子どもたちが養うべき心の構え方について重要なことが含まれている。
 2点目に、子どもたちにダンスのみならず、生涯において大切な「働くこと」に関する学びを与えたい。そして3点目に、その「働くこと」に関することを親も同時に学んでほしい。

 私は、一人のダンススクール経営者が、ダンス指導を超えて、子どもたちに人間教育を施したいという意識に共感 し、ボランティア活動として喜んでお引き受けすることにしました。

 当日は、まず、大野ダンススクールのスタジオで生徒さんたちによるダンスの披露がありました。いろいろなジャンルのダンスを元気いっぱいに踊ってくれました。特に男女ペアになって踊るダンスなどは、しっかりと大人っぽい雰囲気を出しながら、華麗なステップで動きまわっている姿が印象的でした。日本人は身体表現が苦手とされますが、子どものころから踊りの訓練を受けることは、その後の生活の多方面にいい影響が出るのではないかと感じました。

 ダンスの実演の後は、スクールで炊き出しのカレーライスをみんなで食べ、いざ、講習会場となる恵庭市民会館・視聴覚室へ。ここからスライドを抜粋して内容を紹介します。

* * * * *

 今回のプログラムで肝になるのが3つのワード─── 「能力・思い・表現」。

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 がつくるキャリア教育プログラムの特長は、 「根っこにある概念を押さえる力を育む」 ことです。キャリア教育のアプローチはさまざまに考えられます。子ども向けのほとんどは具体的・体験的なアプローチを採用しています。1つ1つの具体的な仕事を見せ、体験してもらい、それを通じて働くことに関心をもたせるというものです。

 私がとるのはその逆で、観念的・抽象的なアプローチです。私は企業の従業員や公務員に向けてキャリア開発研修を数々行っていますが、大人になってもいっこうに概念化思考、抽象化思考ができず、本質をとらえられない受講者を多くみています。具体的にマニュアル的に指示されなければ動けない働き手が増えていることを目の当たりにするにつけ、多少派手さや分かりやすさはなくなりますが、ものごとの原理原則を考えさせる内容で組み立てたいというのが私の意図です。

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 そして、「能力をたくさん身につけよう」に関しては、レゴブロックを使ったゲームプログラム(約1時間)で理解を深めます。このゲームは企業研修でやっているプログラムを簡素化して子ども向けにアレンジしたものです。

Pht_on01_3  ゲームを簡単に説明すると、最初子どもたちにブロック15個で作品をこしらえてもらいます。次に、ブロックの数を増やして30個で作品づくりしてもらいます。そして最後に文房具(色紙やはさみ、のり、テープ、紙ねんどなど)を4点選ばせて作ってもらいます。子どもたちは、自分の手持ちのブロックや道具が増えると、それによって作ることのできる作品の表現がおどろくほど広がっていくことを体感します。

 そのとき、手に入れたブロックや道具を、自分の能力に置き換えて考えることを促します。「なぜ、能力をたくさん身につけるといいんだろう?」───それに対する答えは、「表現できることが広がるから。表現することがもっと面白くなるから」。それを腹に落として納得することができます。

 そして次に「思いを強くもつこと」の大切さについて。これについては、レゴブロックを使ったゲームの中でも触れるのですが――つまり、自分が3回にわたってこしらえていく作品に何かしら物語を加えていくほど個性の強い、人が注目するものができあがってくるという学び――、さらに言葉を通して考えさせます。
 箴言や名言はまさに生きることの本質をとらえた一文です。それらが含む深遠さを子どもがどこまで汲み取れるかはそれぞれですが、
早くからひとつでも多くの“言葉の宝石”に触れさせることは大人の責務です。その言葉から知恵や力を自分なりに引き出してくる。それこそがまさに抽象的に考える力です。

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 そしてここからが「仕事・働くこと・職業」への展開です。世の中にある商品・サービスは、実は「表現」であること。そしてその表現は「能力」と「思い」の掛け合わせから生まれていることを伝えます。

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 仕事の原形ともいうべき「能力×思い→表現」をさまざまに当てはめて考えさせます。

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 そして商品・サービスという「表現」を“お客さま”と呼ばれる人たちが、さまざまに吟味し評価しているという構図。

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 さらに、「表現」に対するお礼として、お金が生じてくる構図。

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 最後に、やがて自分にやってくる就職。そのとき、自分に問われることが何かを伝えます。
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  このプログラムはおおよそ中学2年生以上を想定してつくっています。やはりある程度、概念化してものを考える力が備わっていないと伝わらない内容になっているからです。今回は受講生のなかに小学生も混じりましたが、彼らのレベルでは、レゴブロックの箇所で、ブロックの数が多ければ表現できる幅が広がるという内容までは理解していたように感じました。ただ、どこまで伝わったか伝わらなかったは外見では簡単に把握できないもので、その学習体験が、その子どものその後の人生のなかで、どう効いてくるかは予測不能です。ともかく、ひとつの種を植えつけておくことが大事なんだろうと思います。

Pht_on02  今回の講習会で有意義だったと思うもう1つの点は、親御さんたちも参観されたということです。親にとって、「働くとは何か・職業選択とは何か」を子どもと対話することは難題です。そんなときに今回のプログラムが一つのヒントになってくれれば嬉しいですし、また、親御さんらも職業をもって働く身ですから、みずからの能力とは何か、思いは何か、表現は何かを自問し、これからの自身の働き方によい影響があれば、さらに意義も増すというものです。

 いずれにせよ、こういう学びの機会を設けた大野さんに敬意を表します。ダンススクールの経営において、受講料(月謝)の分だけダンスを指導していればよしということではなく、持ち出しの費用と手間をかけて、広く子どもたちに、たくましく生きる力を育むための場を提供したいという意志と行動はすばらしいものがあります。

 教育は社会全体でやるべきものです。親や学校とて、教えることに万能ではありません
いろいろな大人が、いろいろな得意分野で子どもたちに良質の学びの場・学びの材料を与える。社会の未来は、そうした私たち大人の取り組みによって決まります。

2013年4月 5日 (金)

社内に「働くことの思索の場」を恒常的につくる


 いまでは日本人もよく口にする英単語─── 「ワンダフル(wonderful)」。

 

 “wonder”は「あれ何だろう・不思議だ・知りたい・驚き」という心の働きを表わし、“ful”はそれが満ちた状態。そう、この世の中は不思議さに溢れ、知りたいと思うことに満ちています。そして人間の好奇心、解明能力もまた無限です。

 
 私は今年初めから、本居宣長の国学、柳田国男の民俗学、白川静の漢字学、南方熊楠の博物学、梅原猛の日本学などにかかわる本をあらためて眺めています。一個人の探究心が(必ずしも大学などの権威的研究機関に依らない形で)独特の知的世界を創造することをみるにつけ、まさに知の巨人たちの生涯を懸けた仕事に「ワンダフル!」と称賛を送りたい気持ちです。

 
 私も創業まる10年を経て、「働くこと・仕事・キャリア」にかかわる教育コンテンツがある程度溜まってきました。もちろん、「働くことは何か?」という大きな問いに対し、いまだ“wonder”は尽きることがありません。ただ同時に、これまでに考えてきた範囲でそれを体系的に整理することはとても有意義なことです。先の知の巨人たちに比べればささやかな知的創造世界ですが、これも自己訓練のひとつとして課しています。

 
 ───それでまとめたのが『働くこと原論』です。
    
(→ここをクリックいただければ、PDFファイルで一覧いただけます

 
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 現状、次の5つのジャンルに分け、全体で39のユニットで構成しています。


  1)仕事・キャリア 
Work and Career
  
2)知識・能力  Knowledge and Ability
  
3)マインド・価値観   Mind and Values
  4)個人と組織・人とのつながり 
         
Individual and Organization / Human Relations
  5)仕事の幸福論   
Happiness in Working Life

 
* * * * *

 
 さて、きょうはさらに昨年から導入が多くなっている新しいタイプの研修プログラムを紹介します。それは私が「連続講座型」と呼んでいる企業内研修・セミナーです。お客様企業の要望に沿って、上の『働くこと原論』の中からコンテンツを選び出し、それを自在に組み合わせて構成するプログラムです。たとえば、次の図のようなものです。

 
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 これは次のようなお客様の声に応えて生まれたものでした。
 


・社員の働く意識を日常的に活性化させたい。
・部署や年齢を越え、「仕事・キャリア」についてあらためて考え
 討論する場を設けたい。
・日ごろの業務に忙殺される中で、いったん立ち止まって仕事の根本を見つめなおす、
 自分を見つめなおす機会を与えたい。
・「グローバル人材」育成が急務だが、言語(英語)能力にも増して大事なことは、
 普遍的な考え方で「働くこと」の哲学をもつこと。
 そのために仕事にまつわる基礎概念をきちんと築かせる教育が必要ではないか。
・1日研修や2日研修のような単発的な形ではなく、
 期間継続的に行われる形態はないか。
 また節目研修のようにある年次社員を一斉に集めてやる形ではなく、
 興味をもった社員たちが「学びの座・思索の場」として寄ってくる形はないか……

 
 この連続講座型のプログラムは、「半日(3時間半)×3回」や「2時間×6回」など柔軟的に構成し実施します。実施間隔も週ごとや隔週ごと、月ごとなどさまざまに対応します。
 また、こうした連続ものにすることで、ある受講期間が生まれます。1日研修や2日間研修ですと、時間的には講師と受講生、受講生同士の接触は点になります。ところが全体で2~3カ月の長さになれば、1つの学習目的下にさまざまな交流ができます。例えば、メールマガジンやメーリングリストといったツールでコミュニケーションを図れば、より効果的な学習体験が可能になります。またそこにトップからのメッセージも流すこともできます。こうすることで、学びの場が時間的にも空間的にも厚みを増すわけです。

 
 いずれにせよ、社内のどこかに恒常的に「働くこと・仕事・キャリア」を考える場が設けられていて、そこで学んだ人たちが社内のあちこちで、思索・共有したことを語りかけていく。そして上司も真正面から仕事観のレベルで対話ができる。また経営層もそうした学びの場にメッセージを送り続ける。こうした日常的な取り組みが組織の風土や文化に影響を与え、「うちの会社は普段から働くことに対し意識の高い会社なんだ」と社員1人1人が感じはじめる。
 私はこうした働くことに対しての思索や哲学の習慣が、静かだけれどもしっかりと底流に流れる会社が、ほんとうに成熟した会社なのだと思います。その流れの上に、組織としての技術力があり、資金力があり、信用があり、ということになれば、それはもう鬼に金棒です。

2013年4月 4日 (木)

人財育成担当者は「想い・観」をもって研修を選定しているか

 独立して11年目を迎えました。私はみずからの事業に対し、量的な拡大・成功を目指すのではなく、あくまで等身大で、ひとつの道を追求していきたい。そんな職人的な生業を志向し、個人事業で相変わらずやっています。

 そんな個人事業に、今では、大きな企業もお客様として研修を発注いただくようになりました。「営業はどのようにしているのですか?」とよく訊かれます。ですが実際、営業はやったことがありません。本を出す、雑誌に寄稿する、そしてこのようにブログに書く(そしてその記事をいろいろなウェブサイトで転載していただく)───これが結局、営業といえば営業になっています。
 研修や講演の新規の依頼はほとんどメールでいただきます。ご相談の方は、私の著書や記事を読んでくださっており、「この村山というコンサルタントはなかなか面白いことを書いている。ならば少し相談してみるか」というような感じではないでしょうか。


 そういった場合、最初に商談に訪れても、先方にどこかすでに共感する下地ができていて、人の教育に関し、話がとてもしっくり絡み合います。
 私は書きものを通して、働くことやキャリア、人財育成についての「想い・観」を伝えています。広告的な内容や宣伝色の強い表現はほとんどしません。また、ネット検索に引っ掛かりやすいような流行語・バズワードもあまり用いません。それでも、あえて私の本やネット上の記事を探し当て、それを読んで、少なからずの共感を覚え、問い合わせのメールを入れる。これは言ってみればかなりのフィルターを越えてきている状態です。で、そこまで越えてきていただいた担当者の方もまた、働くことやキャリア、人財育成についての「想い・観」を強くもっています。そして互いの想いが響き合う形になっているんだと思います。
 私の売っている研修プログラムがキャリア教育・就労意識醸成の内容のものだけに、この「想い・観」の部分の共鳴はことさら大事ともいえます。


 大きな企業になればなるほど、「研修をなぜ、あえて個人事業者に委託するのか? 大手でほかにいいところがあるだろう」といった上司からの質問もあるでしょう。そんなときに、ご担当者はおそらく「この人のこの研修プログラムを社員に受けさせたい」という意思判断で、ある種のリスクを負いながら、組織に承認を取り付けてくれているのだと思います。それは本当に私にとって有難いことだと感じています。
 人財育成担当者は、研修選びにおいて、 “目利き”でなければいけないわけですが、その目を利かせる際に重要になってくることは、結局、いかにみずからが人の教育に関し「想い」を持ち、「観(人財観・教育観など)」を醸成しているかです。この点の想いや観が弱いままだと、担当者は本当の意味で研修商品を吟味できないと思いますし、大事な社員に自信をもって研修を提供できないと思います。

 昨年、私はある大手総合商社の入社4年目の研修(キャリア開発研修的なもの)を初めてお受けいたしました。2日間研修を4班に分けて実施したのですが、初回の第1班を終えて、受講者の事後評価は驚くほど悪いスコアが出てしまいました。それほど低い評価はこれまでもらったことがなかったので、私は正直、戸惑ってしまいました。
 ですが、先方のご担当の方々はむしろ冷静な様子で、「いや、研修内容はこれでいいんです。内容を変える必要はありません」ときっぱり。「うちの社員はクセが強いので、響くところがたぶん特殊なんでしょう。内容の届け方だけの問題だと思いますから」と、その後、いろいろなアイデアを双方で出し合い、やり方を少し変えました。で、その後の班は見違えるほどに高評価に転じたのでした。
 私はこのときほど、研修講師と受講者の間にいる人財育成担当者の存在がいかに重要であるかを感じたことはありません。担当者にとって、
 

 ○私はこの研修コンテンツ・プログラムをあまたある中から選定した。
 ○うちの社員の傾向性はどんなで、
 ○今回の研修を通し、どういうメッセージを受け取ってほしいか。
 ○そのためにはどういうやり方が有効か。

ということが明快に押さえられている状態において、研修はすばらしいものになります。担当者の「想い・観」が据わっていればいるほど、研修講師はそれに乗せられる形になります。研修講師も社員受講者も、よい意味で、担当者の掌(たなごころ)にある状態は理想ともいえます。
 大企業という組織で、人事・人財育成に関わる仕事というのは、ある一時期に任される業務であることも多いのが実情です。ジョブローテーション制度の中で、担当者は移り変わっていきます。そうした中で、人の教育に関し、「想い・観」を据えた“目利き”である担当者がどれだけいるでしょうか。
 幸い、個人事業体として職人的にやっている私にお声掛けいただく担当の方々は、ほとんどが「想い・観」の強い人たちです。

 ものの売り買いにおいては、どこか双方がにらみ合い、損得上の駆け引きとか、化かし合いがあるものです。ところが、私の携わっている研修サービスにおいては、買う方と売る方のそうしたギトギトした交渉はほとんどありません。サービスの最終ユーザである受講者に対し、講師も担当者も、どんなよい“学びの場”を提供することができるのか。その一点に向けて、「想い・観」でつながる関係のように思います。

 私のキャリアの流れの中で、自然のうちにたどりついた人財教育・研修サービスの世界ですが、本当に気持ちのよい有難い世界に来たものだと感じています。今後もよい担当者、よい受講者と出会っていきたいと思います。そのためには自身の発信内容・発信力こそが肝腎なのでしょう。環境という外側からの反応は、すべて自分の内にある「想い・観」に応じて表れるものですから。

 

 

2012年7月27日 (金)

中学生向けのキャリア教育プログラムを実施


「働くってなんだろう!?」を考える特別授業

『僕らは能力の貯蔵庫だ!』
(広島県福山市立・山野中学校にて)

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   7月24日、山野中学校(広島県福山市)で、キャリア教育の特別授業を実施いたしました。きょうはその報告をします。

   今回の特別授業は、同校の柳井晃司校長から一通のメールをいただくことから始まりました。柳井校長は私の著書を何冊か読んでくださっていて、どうにかこの著者を招待して生徒向けの講演・授業のようなものができないか、その思いを真摯に伝えてきてくれました。
   奇遇なことに、私も企業内研修の事業で独立して10年、今後はライフワークとして学童向けのキャリア教育で何かよいものをこしらえて、それを本業の合間に(営利目的ではなく)やっていきたいと考えていた矢先でした。幸い、大人向けに行っているレゴブロックを使ったプログラム『キャリア・ダイナミクス・ゲーム』を学童向けにアレンジすれば、かなりよいものができるとの確信もありました。
   お話をちょうだいしてから2カ月間、中学生の気持ちになってプログラムをつくり変え、今回の実施に至りました。山野中学校は、福山市北部の山間部に位置する学校です。昭和30年代までは200名ほどいた生徒数も、次第に過疎化の波を受け、現在では1~3年生まで合わせて12名となりました。しかしながら少数であるだけに、その分、生徒たちは学年を超えて、学び合い、助け合う空気がとても強いと感じました。
   以下に、特別授業の実施内容をまとめます。

* * * * *

■ 実施日・実施校: 山野中u1
2012年(平成24年)7月24日  
午前10時~(2時間)

広島県福山市立・山野中学校にて
 

■ 授業名:
「働くってなんだろう!?」を考える特別授業
『僕らは能力の貯蔵庫だ!』



■ プログラム概要:
   玩具の「レゴ」ブロックを使って行うキャリア教育プログラムです。
   ゲーム形式で進行していくもので、参加者は作品を何度かこしらえていく過程で、「能力とは何か」「職業に就くとはどういうことか」「自分の生きる道を創造するとはどういうことか」などを体感的に学んでいきます。
   従来、企業従業員・公務員向けに開発・実施されているプログラムを、今回特別に中学生向けにアレンジし行うものです。

■ プログラム内容:
   このゲームは4つの作品づくりステージから成っています。
   チーム(1チーム=2~3名)に分かれ、第1ステージは「小学生時代」という想定で、ブロック15個で「船」を作ります。第2ステージは「中学生時代」の設定で、ブロック35個で「船」を作ります。このとき、ブロックは自分が持つ能力(知識や技能、資質など)の比喩であることを説明します。
   15個で作る船と35個で作る船では、当然出来栄えが目に見えて違ってきます。ブロックが多いほど(つまり能力が幅広く豊かになるほど)表現できることも幅広く豊かになることを受講者は学び取ります。
山野中u2   第3ステージは「高校・大学時代」の想定で、ブロック40個+文房具4点(色画用紙や色マーカー、ハサミ、テープなど)で「船」を作ります。この段階になると格段に個性のある作品に進化してきます。そして、各チームは自分たちの船に物語さえ付加するようになります。「想い」が湧き起こってくるわけです。
   「能力」をさまざまに組み合わせ、かつ、そこに「想い」を乗せながら、何か形あるものを表現していく───それが、「仕事・職業・働くこと」の原形であることを解説していきます。


   そして最後の第4ステージ。これは「高校・大学卒業時」を想定し、「夢」というテーマで作品づくりをしなさいと指示が出ます(今回は時間の都合で、このステージの作品づくりは行いませんでした)。
   「船」という具体的・限定的なテーマから、「夢」という抽象的・自由度の高いテーマに移ることは、就職というイベントが持つ抽象性・自由度に呼応しています。「職を選び取る」とは、そうした抽象性・自由度が自身に振り向けられることを受講者に気づかせるものとなります。このように、このゲームでは作品づくりと、それが現実生活ではどういう意味をもつのかを解説する講義とが交互になされていく仕組みになっています。


■ スライド講義概要:
   レゴでのゲームプログラムを生かすために、そして「働くこと・仕事・職業」とは何かの核となるメッセージを伝えるために、スライドによる講義をゲームの前後に挿入します。そうすることで受講者の理解度(=腑に落ちる度)が高まります。

・まず、「能力」について、その概念を広げるところから始めます。
能力とは、学校で習う科目以外のことも含まれること、そしてもちろん学校の成績のよしあしが能力のあるなしに必ずしも関係しないことを伝えます。

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・「能力」に含まれるものを簡単に分類し説明します。
  「知識」=知っていること。
  「技術」=身体を使ってできること。
  「資格」=知識や技術があることを試験によって証明するもので、免許のようなもの。中学校をきちんと卒業して学位を取ることも資格のひとつとなる。
  「人とのつながり」=友だちをつくる力。何か事を成そうとしたときに、一緒にやってくる仲間、自分を助けてくれる人、味方になってくれる人、それらを人脈という。
  「強み・得意なこと」=几帳面である、社交的である、人を引っ張っていける、集中力がある、のんきである等、そうした性格的なことも能力の一部である(人材育成の専門用語では「コンピテンシー」に相当)。
  そして、これら能力は、目には見えないが、自分のなかに貯蔵されていく大事な「資産・たからもの」であることを伝える。

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・「お金持ち」と「能力持ち」

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・「ひらがなゲーム」というミニゲームをやります。
Aチーム(教職員)とBチーム(生徒全員)に分かれ、Aチームは3枚のひらがなカードを持ち、Bチームは5枚のひらがなカードを持つ。手持ちのカードを自由に組み替えて、2文字以上の意味ある単語(名詞)をつくるというルール。  「ひらがなゲーム」の結論は……

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・以上の下地となる講義をして、ここからレゴブロックゲームに入ります。
このゲームプログラム(所要約1時間)で、受講者が体感的に学ぶことは、

   1)「能力」が豊かになるほど、「表現」できることも豊かになる
   2)漫然と作品をつくるのではなく、「思い」(=自分なりの物語)を加えていくと
       作品がより個性的に魅力的になるし、自分の意欲も盛り上がってくる
   3)他グループの作品表現を見て刺激を受ける。
       と同時に、自分の作品表現が他グループに刺激を与えることもある。
   4)協働することの難しさ・面白さ


・レゴのゲームプログラムを終えて、
講義は「働くこと・仕事・職業」とは何か、のメインテーマに入っていきます。
「働くこと」について、3つのキーワードで説明します。
それは「能力×想い→表現」

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・「働くこと」の最終出口は「表現」であり、
その「表現されたもの」に対し、人(お客様)が反応してくれる。
反応には「スゴーイ!」や「いいね、それ!」「助かったわぁ」「ありがとう!」などがある。

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・「働くこと」で、みな、生活のためのお金(給料)を得ているが、
それは「働けばお金がもらえる」という解釈ではなく、
こう解釈してみてはどうかと問いかける……

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間近にくる「就職」という大きな時点に立ったとき、
「能力」・「思い」・「表現」について自分がどれだけの準備をできるか、に言及します。
職業選択の自由があることは歓迎すべきことではあるけれど、
自由であることに「負担」を感じることも起きてくるだろうことにも触れておきます。
そして、職選びというのは、親や先生からのアドバイスは受けつつも、
最終的には、「自分一人」で決めるという作業になることも伝えます。

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山野中学校の校訓は「他律から自律へ」ということで、柳井校長からは「自律」について一言触れてくださいとの要望がありましたので、ここで「自律的な人とは」という結びのスライドを入れることにしました。

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・そして補足的に、名言・箴言をいくつか紹介しました。
これら含蓄の深い、けれど抽象的な言葉は、けっして生徒を子ども扱いせず、
しっかりと目と耳に触れさせておくべきです。
名言・箴言は、本人の言葉の咀嚼力を超えて、響いていくときがあるものです。

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■ 事後アンケートの声(生徒):
   ・レゴブロックの製作を通して、能力がたくさんあればあるほど、いいものができあがることがわかりました。これからゴム袋をまんぱいにしていきたいです。また、レゴブロックを作るときに、人と協力することも必要だなと思いました。(中1・男)

   ・レゴブロックでの製作を通じて、大きくなるにつれて能力が増え、思いが大きいほどに豊かな表現ができることがわかりました。今から能力をたくさん身につけて、強い思いを持って、自律的な人間を目指します。また、今まではお金を稼ぐために働く、という考え方だったけど、自分が一生懸命表現すれば、相手が「ありがとう」の気持ちでお金をくれるという考えのほうが正しいことがわかりました。私は、人々に感謝されるような働きをする人間になりたいです。(中3・女)

山野中u5   ・レゴブロックを使って、働くということ、能力ということがよくわかる楽しい授業でした。私はいままで、自分のことを「なんの能力もない人間」と思っていました。実際、何をやっても上手にいかず、自分を責めたりすることがよくありました。でもきょうの授業で、「能力のない人なんていないんだ」と思いました。自信を持って将来の夢へ進んでいきたいです。(中3・女)

   ・今の成績では高校に入れるかどうか不安なじょうたいです。ちょっとあきらめようという気持ちはあったけど、今日の話を聞いて、お金持ちになれるかどうかは分からないけれど、能力(才能)はのばせるということを知ったので、あと二年あるので、卒業するまでにしっかり勉強をして能力を上げつつ、能力を見つけていきたいです。(中2・男)

   ・1つのものに何か加えるだけで、見る人の気持ちも変わることをレゴブロックのゲームで分かりました。(中2・女)

   ・将来、働くためには、その時になってはとうぜんに遅いし、たいへん困ると思った。能力はいくらでも持てるんだから、いろいろなことをやって、どんどん身につけていきたいです。(中3・男)


■ 事後アンケートの声(教職員):
   ・生徒の表情を見て、楽しみながら学習していたと感じました。きっと今日の学習は生徒たちの一生にわたっていきていくと思います。私自身、どれだけカード(ブロック)を持っているか、反省させられました。あわせて、世界中の人のカードをうまく、平和に組み合わせていく手段はないものか、と考えさせられました。

   ・レゴを使っての作品づくりが段階を踏んでいくことで、成長するということがよくわかる内容でした。能力がたくさんあるほうが「楽しい」という表現がよかったと思いました。

   ・レゴブロックを通して、能力は自分のなかに貯蔵されていく資産だということが具体的につかめたと思います。(教職員)

   ・レゴブロックを使って、年齢や経験が増えるごとに、表現の可能性・理解も伸びていくということを体験的に実感することができたと思います。「能力」と「思い」を組み合わせて「表現」する活動が働くことである、一生懸命表現することでお金を受け取ることができる、という言葉は素直に希望を持って、生徒の心に落ちたと思います。

   ・レゴブロックを使用することにより、生徒はゲーム感覚で能力を増すと船の完成度(表現力)が高まることを理解できた。


■柳井校長からいただいたお礼メッセージ(抜粋):

   このたびは、遠路より本校にて、キャリア教育特別授業の講義およびレゴブロックによる体感型学習を実施していただき心よりお礼申し上げます。

   先生が授業で示された「能力×思い⇒表現」は学校におけるキャリア教育において、大変重要な視点だと捉えています。特に「能力のゴム風船」の考え方は働くベースになるものだと感じた次第です。
   また、教職員にとっても今の仕事を捉え直し、問い直すきっかけになった時間だと思っています。
最後になりましたが、生徒をはじめ教職員一同、先生との出会いに感謝申し上げます。またお会いできることを楽しみしています。今後とも「働く意味の翻訳人」として先生のますますのご活躍を祈念しまして、お礼のことばとさせていただきます。
 

平成24年7月24日
福山市立山野中学校
校長 柳井晃司



■今回私が感じたこと・思ったこと:

1〈中学生にほんもののメッセージを〉

   私はかつて勤めたベネッセコーポレーションで、大学生向けの就職支援プロジェクトに携わったことがあります。私はいわゆるシューカツ(就職活動)のための「受かるテクニック伝授」のサービスはしたくなかったので、顧客ターゲットを1年生・2年生とし、「働くとは何か・職業を選択するとはどういうことか」の根本から考えさせるサービスを考え出そうとしました。その部署では結局1年間ほどいろいろ実験をしたのですが、私が見出した結論は、キャリア教育をやるにはもっと早い段階からやる必要がある。それは直感的にですが、小学校高学年か中学校あたりではないかと思いました。
   それから月日は流れ、今回、このような形で念願の中学生対象にキャリア関連の授業ができ、そして内容をぶつけてみて、そのときの直感は正しかったのではないかと自信を得ることができました。

   なぜ、高校生や大学生になると、本来のキャリア教育が施しにくくなるのか。それは、学年が上がるにしたがって、文系や理系といった枠組み・レールによって自分を限定していき、やがて、業界を選びにいき、具体的な会社を選びにいく意識ができ上がるからです。そしてもっぱら「どうやって志望会社に入るか」という観点にしか興味を示さなくなるからです。
   その点、中学生までは、能力・資質の方向性がよい意味で定められておらず、また“無垢”な心持ちが保持されていて、「働くと何か」という根っこの問いに対し、白紙のカンバスに自分なりの概念の絵を描くことができます。

   今回、私がもっとも気にかけていたことは、中学生の抽象的学習能力がどれほどあるかでした。レゴの作品づくりゲーム自体は、必ず盛り上がる内容になっています。それはレゴという玩具がもっている創造性引き出し力によるものです。問題は、そのゲームでやったことから、現実生活に置き換えて、「働くこと」を理解させるところの橋渡しです。レゴのブロックや使える数の変動などはすべて、現実生活の「比喩」になっています。その比喩の解凍・展開を中学生がうまくできて、ハラに落とすことができるか───結果的には、事後アンケートを見てもわかるとおり、予想以上に自分たちなりに咀嚼できているようでした。

   驚くべきは、上の欄には挙げませんでしたが、次のような感想を書いてくれた生徒もいました。───「私は(第3ステージの)大学生は一つのことからもう一つ視点を広げて自分の能力を生かして作品をつくっているんだとわかりました〈中1・女〉」

   このゲームの第3ステージは、レゴブロックに加えて文房具が使える段階になります。そしてまた、船だけを一生懸命作るのではなく、文房具で海や波をこしらえて「景色の中に浮かぶ船」を作るというステージに変わります(そう変えるよう発想するのは、ほかでもなく受講者本人たちなのですが)。そのステージの転換点を上の1年生の彼女はしっかりと気づいていたのです!

山野中u3   このステージの転換点は、企業の従業員向け研修では当然触れることですが、私は中学生向けだからということで、あまり余分なことも言及しないほうがいいだろうと思って、この点は言わずじまいにしていました。ところが、こういう感想がしっかりときたのです。

   中学生は大人が思う以上に、抽象的に考える能力が養われており、またほんもので直球のメッセージをきちんと受け止める心が備わっています(いると見るべきです)。中学生受けしないということで、抽象を避け、目先の変わった具体事例ばかりを見せてばかりいたら、それこそ概念・観念を抽象的にとらえる能力が退化してしまいます。私たちは、ほんもののメッセージを真正面からしっかりと投げることが重要だと思います。



2〈さらなるプログラム開発〉

   私は今回、働くとは何かを考えるキーワードとして、「能力」・「思い」・「表現」の3つで整理をしました。今回はレゴを使った授業で約2時間、主には「能力」を豊かに蓄えることの重要性を説きました。
   「働くこと」を十全にとらえていくためには、あと「思い」の重要性や、「表現」の多様性についても、それなりのボリュームを割いてしっかりプログラムづくりすることが必要だと感じました。そうした意味で、今回のプログラムは、全3部あるうちの第1部と自分のなかではとらえています。これを機に、中学生に向けた第2部、第3部のプログラム開発にも力を注ぎたいと思っています。

   ちなみに第2部の「思い」をテーマにしたプログラムは、「~のために・~したい」という自分のなかの動機・意欲を内省するものになるでしょう。

   「~したい」という気持ちの側面だけで、職業選択を誘導していくことはある意味簡単なことです。しかし、私は「~したい」ということはベースにあるべきだけれども、それだけでは不十分だと感じています。そこに「~のために」という“理由・意志”が伴わなければ、ほんとうに強い次元からの「思い」が湧いてこないからです。私は仕事柄、さまざまな人のキャリア姿を観察していますが、単に「好きを仕事にする=~したい」だけで、職業を選んだ人たちの付和雷同ぶりを目撃してきました。「~したい」という感情レベルのものは、いとも簡単に、「~が嫌になった・飽きた」に変わるからです。
   「~のために」という理念・信条に根ざした意志が加わることによって、その意欲は堅固なものになります。私はその「~のために」ということを内省できるワークを中学生向けにこしらえたいと思っています。


   また、第3部の「表現」に関するプログラムのキーワードは「ロールモデル探し」です。「あこがれ」は強力な力を持っています。あこがれの仕事をしている人を見つめさせ、仕事とは「表現活動」であり、そこにはさまざまな個性・価値観があることに気づかせていきます。そして、人間が行う仕事世界の面白さを感じてもらう内容です。また、そのあこがれの表現の土台には必ず「能力」や「思い」というものがあり、そこを探ることで、第1部、第2部との相乗効果も生まれます。
   こうしたプログラムを本業の合間にこしらえ、中学校の現場で実施できる機会をちょうだいしながら、プロジェクトを発展させていく予定です。


3〈人は思いによって引き寄せ合う〉

   今回授業を行った広島県福山市は、私にとって、それまで何の縁(ゆかり)もない土地でした。ところが、柳井校長の一通のメールからほんとうにうれしい結び付きと交流ができました。

   現代は、思いや志を持つ者にとってはとてもよい時代です。メディアの発達により、みずからの思いを発信すれば、それに響いてくれる人びととのつながりができやすい環境にあるからです。もちろん、ネット上には悲観や冷笑、嫉妬、批評のための批評の声が渦巻いており、そこから“負の連帯”のようなものもできあがります。しかし、その一方で、この世界には、楽観や正義、夢、志に満ちた建設のための意志の声も泉のごとく湧いています。そして、そこからは“正の連帯”が起こりえます。

   私が今回、広島県の山間部の全校生徒数12名の中学校に出会えたのも、校長先生と私とが「思い」でぴんとつながり、小さくではありますが“正の連帯”が起こったことによります。
   「働くということについて健やかな考え方を涵養したい」───中学校訪問中、このテーマにつき校長先生、教頭先生らとの対話は尽きることがありませんでした。日本の教育現場には問題が山積ですが、こういう先生方が現場で苦悶し、奮闘しておられることの具体的事実を知ったことだけでも私にとっては大きな気づきであり、ひとつの安堵でした。

   子どもたちの教育・しつけは、学校と家庭に任せておけばよいものではなく、社会全体で取りかかっていかねばならない問題です。ビジネス界にはそれこそ多くの「知と術」が蓄積されています。それをもっと公共のために、「共通善」のために、組織も個人も使うべきだと思います。

   最近では「プロボノ」(=プロフェッショナルが職能をボランティアに生かす活動)という動きも出てきています。NHKテレビの番組で『課外授業ようこそ先輩』というのがあります。各界で活躍するスポーツ選手やアーティスト、タレントたちが、なつかしい母校に戻って、子どもたちに個性的な授業を行うというものです。登場する人たちが毎回、自分の才能世界での発想をフルに生かしながら、とても面白い内容をやります。私自身もこれを機に、非営利活動としての学童向けキャリア教育を強く押し進めていきたいと決意できたプロジェクトでした。


■最後に:
   小・中・高校生に向けたキャリア教育の必要性は、着実に広がりをみせているように思います。子どもたちの就労観を健全に育むことは、産業の興隆ひいては国力の足腰に関わってくる部分です。そして何よりも、1人1人の個人が、よりよく生きていくための精神的土台になる部分です。
   文部科学省や経済産業省はそれぞれに方向性を出してキャリア教育の牽引役を果たそうとしていますし、民間企業やNPOが独自のプログラムで事業化を図ろうとしています。『13歳のハローワーク』(村上龍著)もしっかりとしたロングセラーになりつつあります。世の中には、多様なサービスがあってこそ、よい発展が起こります。その意味で、私も独自の観点からのプログラムづくりに取り組んでいきたいと考えます。

  本記事をご覧になってご関心を持たれた個人、組織の担当者がいらっしゃいましたら、遠慮なく下記にご意見・ご感想をお寄せ下さい。


本記事に関するご意見・ご感想は
info@careerportrait.jp





■付録:(山野中学校に事前に送ったメッセージ)

山野中学校のみなさんへ

私はスポーツを観るのが大好きです。アメリカのメジャーリーグではイチロー選手やダルビッシュ選手が頑張っています。サッカーの香川真司選手はいよいよイギリスのマンチェスター・ユナイテッドに移籍します。彼らの仕事・職業は、野球やサッカーをし、美しい技術を披露して、ゲームに勝つことです。彼らは、世の中に数多くある職業のなかから、プロスポーツ選手という道を選びました。

見渡してみれば、私たちの身の周りには、いろいろな人のいろいろな仕事があります。たとえば、みなさんがいま履いている靴。その靴は、だれかがデザインし、だれかが工場で製造し、だれかが店で売ってくれた靴です。それはつまり、靴のデザイナーという仕事、靴の製造組立員という仕事、靴の販売員という仕事があるということです。

また、みなさんがレストランに行ってハンバーグステーキを注文したとしましょう。そこで出てくるハンバーグステーキは、それこそ数えきれない人の仕事を経て、あなたの前のお皿の上にやってきました。世の中の誰かが、その牛を育てるという仕事をしました。そして、その牛肉をオーストラリアから日本へ運ぶことを仕事にする誰かがいました。成田空港の税関では、誰かがそれを検査する仕事を請け負っています。さらには、その検査が済んだ牛肉をレストランに売る仕事の人がいました。そしてレストランの厨房では誰かがステーキを調理する仕事をしています。ステーキはいよいよ、ウェイター・ウェイトレスという仕事をする人によってあなたのもとに運ばれました。これで終わりではありません。食後、レストランで会計をしますが、そのレストランでは経理を仕事にする人がいて、きちんと店が回っていくようにお金をやりくりしています。そして、経理の人は、翌日、その売上金を銀行に持っていきます。銀行には、また多くのお金を数えることを仕事にする人が働いています。

このように、みなさんの周りには実に多くのモノやサービスがありますが、よくよく観察すると、そこにはたくさんの仕事・職業がかかわっています。みなさんも、近い将来、何らかの仕事に就いて、親から独立して生きていくことになります。

来週24日の特別授業は、そんな「仕事・職業・働くこと」についての2時間授業をやります。授業といっても、半分は「レゴブロック」で作品を作って遊びます。でも、その授業が終わったときには、「仕事ってそういうものなのか」「働くってそういうことなのか」ということが、少しだけわかるようになっていると思います。

では、来週お会いしましょう。私もみなさんと一緒に過ごせることをすごく楽しみにしています。

 

東京より
キャリア・ポートレートコンサルティング
村山昇

 

* * * * * * * * *
【関連記事】
中学生向けキャリア教育~すべての働く人には“思い”がある〈山野中:第2回〉
中学生向けキャリア教育 ~世の中は“表現”にあふれている〈山野中:第3回〉
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●中学生に読んでほしい
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『ふだんの哲学』を開始しました!



2012年1月27日 (金)

「健やかさ」を取り戻す時代へ


アメリカのロックバンド、イーグルスを率いたドン・ヘンリーは、
時代を見る目を持って、「喪失」を見事に歌うミュージシャンだったように思います。


『ホテル・カリフォルニア』の中に出てくる有名な一節───
(支配人に自分の好みのワインを注文するのだが…)

     “We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine.”
      あいにくそのようなお酒(精神)は1969年以降ご用意しておりません。

ここに出てくる「spirit(スピリット)」は、「酒」と「魂・精神」の掛け言葉になっています。
(伝説のウッドストックコンサート開催に象徴される)1969年以降、
アメリカは爛熟した物質文明・商業主義の中で、何か大事な魂(スピリット)を失ってしまった
───そんな憂いを彼は歌詞の裏に込めました。

また、ドン・ヘンリーはブルース・ホンズビーとの共作による
『The End of the Innocence』でも、1990年にグラミー賞を受賞しました。
「イノセンス=無邪気さ・無垢であること」の終わりを歌ったこの曲は、
やはり時代に対するメッセージ性を感じさせます。


* * * * *

さて、時代が喪失しているものはさまざまあるでしょう。
私がその中で大事なものを1つ挙げるとすれば───それは「健(すこ)やかさ」です。

私が考える「健やかさ」とは、次のような意味合いです。

    ○生き生きと強いこと

    ○素直であること
    ○明るく開けていること
    ○善的なことに向かっていること
    ○自然と調和していること


現代社会が抱える問題の多くは、
「反・健やかさ」あるいは「離・健やかさ」の力が増長、圧迫、堆積して
起こっているように私には思えます。

「健やかさ」というのは、レトロで野暮ったい観念でしょうか。
いや、私は、こういう時代だからこそ、逆に清新であると感じます。

健やかな身体、健やかな心、健やかな思考、健やかな生活、健やかな社会。
健やかな詩、健やかな絵、健やかな物語、健やかな食べ物、健やかな会話。

……こういったものは、ほんとうのところ、いつの時代にあっても人びとが求めたいものです。
しかし、普遍的なものほど退屈になりやすいという欠点がある。
問題はいかにそれを新しい気持ちで、新しい形にして求めていくかです。


私たちはブータン国王夫妻が来日したとき、
その国が「国民総幸福量」を指標にして国づくりを行っていることをうらやましく思った。
また、映画『ALWAYS三丁目の夕日』を観て、古き良き昭和の日を懐かしんだりもする。
私たちはこうした「健やかさ」に触れて、
自分たちは、もうそこには戻れないんだと溜息をつく。

しかし、いま大事なのは、いろいろなことに対し、
平成ニッポンの「健やかさ」を新しい形で生み出すことは可能ではないかと考える「健やかさ」です。
少なくともそうしなければ、この国の21世紀は開けてきません。

例えば、宮崎駿監督のアニメーション映画はひとつの「健やかさ」の作品表現かもしれない。
グリーンツーリズムや日本の“おもてなし”も旅行業界での「健やかさ」価値の体現かもしれない。
「無印良品」も、商品づくりの思想のなかに「健やかさ」という一本の軸が通っているように思える。
“ロハス”や“スローライフ”も「健やかさ」と通底している。
また、ビジネス書としてベストセラーになった『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司著)
の中には、それこそ「健やかさ」を保った企業の話がたくさん出てくる。


世の中の商品・サービス・芸術が、刺激性・中毒性を増さなければ振り向かれない潮流にあって、
「健やかさ」などという普遍的だが退屈な価値で注目・支持を集めるのはラクな仕事ではない。

しかし、「健やかさ」を蘇生する作業を怠れば、
歴史上、多くの爛熟しきった社会がたどった道と同じ道を私たちも進んでいくことになりかねない。


私は企業の研修現場で仕事観の醸成教育をやる身ですが、
プログラム開発のテーマに据えているのは、次のようなことです。


  ・「成功のキャリア」から「健やかなキャリア」へ
  ・「勝ち組/負け組の生き方」から「自分らしくを開く生き方」へ。
  ・「得点の競争で疲れる職場」から「知恵の競創が面白い職場」へ。
     (“競創”とは創造性を競うこと)

1人1人の仕事・働く意識が健やかになる。1つ1つの職場が健やかになる。
私自身、そのための教育はとても大事な仕事であると自覚を強める昨今です。



再び名曲『ホテル・カリフォルニア』に戻って。
ドン・ヘンリーは最後の部分でこう歌います───

   “We are all just prisoners here, of our own device.”
   俺たちはみんなここの囚人さ、自らが仕掛けた罠にかかって。

   “You can check out any time you like, but you can never leave.”
   チェックアウトしようと思えばいつでもできるのに、決してここを出ていけないのさ。

「ホテル・カリフォルニア」という「喪失の園」から抜け出られないのは歌の世界ですが、
現実世界の私たちは、しっかりと「健やかさ」を取り戻し、自らの罠にかからないようにしたい。





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